聖女の強い力を持ったことをうとまれ、泥棒の汚名をきせられて、国を追放されたのだが、異国で聖女として大活躍をすることができた件

矢野 零時

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第二十二話 戦場治療

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 フクータ国から三人の聖女がきてくれたので、診療所を彼女らにまかせて、アンナは出かけることができるようになっていた。
 そしていま、アンナは荷馬車の御者席にすわり、ライタルたちが戦っているインガ国をめざしていた。
 荷馬車には、バッグに入れて新たに祈りで作った聖水がのせられていた。だが、それは今までの聖水とは違っていたのだ。診療所で栽培を始めた薬草から作った薬をその中に入れていたからだ。
 オバタから、サタンの恐ろしさを聞いているうちに、アンナはライタルがサタンに傷つけられている姿が見えだしていた。何故、私はライタルについて行かなかったのだろうと、自分を責め続けていたのだ。
 焦る気持ちで、アンナはムチを振って馬を走らせた。

 やがて草原をダラス国の兵士が隊列を作って、こちらに向かってくるのが見えてきた。
 思わず、アンナが片手をあげて手を振った。すると一頭の馬が走り出し、アンナの方に近づいてきた。
「ダラス国の将軍をしているモントともうします。もしかして、あなたはアンナ様ですか?」
「はい、そうです。でも、どうしてお分かりになったのですか?」
「わが王は、アンナ様に腹痛を直していただいたと機会あるごとに感謝の言葉を述べておられます。そのきりっとした目元に長い髪をリボンでたばねている。王が話をしていた姿そのものです。また、この度は、どうしてこんな所にまで出てこられたのですか?」
「魔物の兵士たちを相手に傷ついている人たちを思うと、少しでも早く手当をしてあげなければと思ってやってまいりました」
「たしかに魔兵士を相手に戦い傷ついている人はおりますぞ。特別パーティの方々です。それでは、この場で治療を行っていただけるのですか?」
「はい、そのつもりで、やってきたのですから。誰を治療すればいいのでしょうか?」
「そうですな。まず、ひどい方から先に治療をしてもらった方がよろしいかと」

 アンナはうなずき、聖水入りの瓶を入れたカバンを手に持って、荷馬車をおりた。
「首に獣による咬み傷を負ったビック様がやはり最初かと」と言いながら、モントは並んでいる幌馬車の一つにアンナをつれて行った。
 アンナがその中にのり込むと「ビック様、すぐに治療をいたします」とビックに声をかけた。アンナを見たビックの目に驚きと喜びの色が浮かんだ。
「アンナ様、どうして、ここに!」
 それに答えずにアンナは微笑を浮かべ、首すじに薬入りの聖水をかけた。その後、傷口に手をかざしていた。薬の力を持った聖水は偉大だ。しばらくすると獣のつけた傷がどこにあったのかと思うほどきれいな首に戻っていた。
「少し休んで、体に残っている余熱と疲れをとってください」
 そう声をかけると、アンナがビックのいる幌馬車からおりた。

 アンナが出ていくとモントが声をかけてきた。
「次に重症な方は、胸を剣で刺されたライタル様でしょうか?」
「えっ、ライタルも怪我をされているのですか!やはり、見えていた幻影は危険を知らせたベルだったのですね。怪我をしたライタルはどこにおられるのですか?」
「はい、あちらの幌馬車の中におられますよ」
 モントにつれられ、バッグを手にさげたアンナは、ライタルのいる幌馬車に行き、その中にのり込んだ。
 ライタルは白い顔をして目を閉じていた。かすかに胸が動いているので、死んではいない。胸に剣でつけられた傷や肩を切られた傷を見ると、アンナは涙が出てきていた。まず薬入りの聖水を肩や胸の傷にかけた。その後、アンナは手をライタルの胸の上にかざしだした。
 必死に念を込めているアンナの額は、うっすらと汗をかいていた。そしてアンナの手は誰が見てもわかるほど光り出していたのだ。それを見たモントは思わず「オウ」と声をあげていた。
 やがて、肩や胸の傷はふさがった。だがライタルの顔はまだ白いままだったのだ。

 モントは、じっとアンナのやっている手を見続けている。思わず、アンナは聴いていた。
「まだ、怪我をしている人たちがいるのでしょう?」
「はい、おります。そちらの方々も見ていただけますか!」
 本当はライタルの胸の上でもっと手かざしていたかったのだが、それを続けるとさらに数時間はかかるだろう。これでは、他の人の治療はできなくなってしまう。
「ライタル、ごめんなさい。少し待っていてね。次にひどい人は誰ですか?」と、アンナはモントに声をかけた。
「そうですな。ベラル様でしょうか。傷を負って時間が経っているのに直りが見えない」

 アンナがライタルのいる幌馬車から出ると、モントに案内をされてベラルのいる幌馬車に行った。
 アンナの話し声がベラルに聞こえていたのだろう。
「アンナ様、きていただいたのですか。有難うございます。ライタル様の治療はもう終わったのですか?」
 その問いにはアンナは答えず「さあ、治療をいたしますよ。早く終われば、他の方の治療を行うことができますから」と言ってやり、すぐに薬入りの聖水をベラルの傷口にふりかけ、手を傷口にかざし始めた。やがて傷は消えていった。

 ベラルのいる幌馬車から出ると「次は誰ですか?」とアンナは少し荒い息をしながら、モントに聞いた。
「後二人ですが、シアロ様の方が傷が重いかと?」と、モントはシアロのいる幌馬車を指さした。アンナがシアロの荷馬車に近づき中に入った。
「えっ、アンナ様ではありませんか。どうしてまた?」
「もちろん、治療のためにきたのですよ」
 シアロは、アンナの口の動きを読んで、涙をながしていた。
「ありがたい。ありがたいことです」
 すぐに、アンナは傷口に薬入りの聖水をかけ、手をかざした。シアロはひと一倍体力があったのだろう。驚く速さで傷口がふさがり、起き上がって幌馬車を出て行こうとしたのだ。
「だめよ。シアロ様。無理をしないでください。少し休んでいなくては」

 最後に、アンナはメリカの幌馬車に行った。メリカは抱えていたバッグから残っていた聖水を出して、自分の腕にかけていたので、アンナが傷を見た時には、ほとんど傷は塞がり治っていた。

 安心をして、アンナはライタルのいる幌馬車に戻った。
 ライタルがいつまでも目をさまさないでいるということが伝えられたのだろう。ミブライ王がライタルのいる幌馬車のそばにきてモントとともに並んで立っていたのだ。
「いかがでござる?」
 それに答える余裕はない。無言のままで、ライタルのいる幌馬車に入ると、すぐにアンナは薬の入った聖水をライタルの胸と肩に再びかけ、その後すぐに手をかざしだした。
 アンナは手を肩から胸にかけて何度も動かした。たしかに剣の傷は骨まで達していたと思うが、その深い傷もすでに治っているはずだ。それなのに、ライタルの体はまだ白いままだった。

 まるで薬の力や聖水の力がライタルの体の中に入りこまずにいるみたいなのだ。
「ライタル、ライタル」とアンナは呼びかけた。だが、ライタルはそれに答えてはくれない。

 まずは薬の入った聖水をライタルの体の中に入れることを考えるしかない。
 アンナが孤児院にいた時、ローハイ司祭が呼吸をしていなかった孤児に口づけで人口呼吸をして、息を吹き返させたことを思い出していた。
 それと同じことを試してみるしかない。
 そう思ったアンナは聖水をたっぷりと口に含むと、ライタルの唇に自分の口を近づけ、聖水をライタルの口の中に流し込んだのだ。ライタルは少しずつ喉を動かし、聖水を飲み込んでくれた。それはアンナの生気をも流し込まれたかのようだった。
 すると、ライタルの顔や体は、血が通い出しバラ色を帯びて行った。
「なんと、アンナ様の愛の力でござろうか!」と言って、ミブライは驚き泣き出していた。
 やがて、ライタルは目を開き、アンナがじっと見つめていることに気がついていた。
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