呪いで人狼(オオカミ男)になった王の所に嫁いで行くことになった件

矢野 零時

文字の大きさ
3 / 27

3礼儀作法

しおりを挟む
 私が嫁ぐことに決まると、私が城に来るように言われた。そこで父が私を城に連れて行ってくれた。
 前に城にきたときは、こんなものものしい門ではなかった。だが、いまは違う。 
 大理石の門に神々や過去の英雄たちの姿がレリーフで飾られ、門番は、カブトをかぶり、手にヤリを持ち、背筋をのばして強張った顔をしていた。
 父は宮殿の方にはいかずに、右に曲がって別棟の建物の方に私を連れて行った。
 そこにいた老女は眉間にしわを寄せたままで、私を見た。祖母よりはそう一回り十二歳ぐらいは若いかもしれない。
「あなたがナターシャ?」
「はい、そうです」
「そう。私はリンダ。あなたを異国に送るからには、ライズ王国として恥ずかしくない人を送らなければならないわ。それができなければ、私たちが恥をかくことになる」
 傲慢な言い方に、私はすこしむっとしていた。
「私が国境にある他国で暮すことなると思いますが、そのためにはどんなことが必要なのでしょうか?」
「あなたは運がよろしかったのですよ。カルゾ国では、あなたは王妃に迎えられるはずですわ。別の国に輿入れに行っても正室になれるとはかぎりません。集められた姫君と同じ宮中に置いておかれるだけ」 
「そうですか?」
 だが、リンダが本当にそう思っているようには見えなかった。
「それでは、ルソン様、後はおまかせいただけますでしょうか?」
「よろしく、お願いいたします」
 父はリンダに向かって頭をさげ、私に向かっては片手を軽くあげてから、この部屋からでていった。
「まず、食事のマナーからご指導いたしますわ」
 その部屋には小テーブルとそれを前にしてすわれる椅子が一脚おいてあった。テーブルの上には布巾が敷かれ、左右にナイフとフォーク並べられていた。たしかに、いくつものナイフとフォークを使わなければならない料理など食べたことはなかった。
「そこにすわってください」
 私が椅子にすわると、リンダは指をならした。すると、城の料理人がスープを運び込んできて、小テーブルの上においていた。
「はい、飲んでみせて」
 私は言われるままに、スープを飲んだ。
「違うわ。スプーンは前からすくって上にあげて、それを口にもっていくのよ。はい、やってみて」
 私の食べ方すべてにリンダのクレームが付き、それを直しているだけで、私はぐったりと疲れていった。だが、こんなことで、輿入れをあきらめるきはない。食事のマナー訓練で文句を言うことがなくなると、リンダは次の課題を始めた。それは、本をもたせて、朗読をさせられた。下町に住んでいるせいか、言い方になまりが生じていた。それを一つ一つ指摘をされ、正しい言い方をするように言われた。空の西が赤くなりだすと、リンダは私をやっと解放してくれた。
 次の日、リンダは、男のようにズボンをはいていた。
「あなたにも、公的な場に出てもらうことがある。その時のことを考えてマスターして置かなければならないのがダンスよ」
 たしかに、公爵などの上流貴族たちは舞踊会、夜会などを常時開催し、男女で踊りあうことがあった。
 しかし、ナターシャは、そんな場所に出ている暇はなかった。子爵でしかない父の家計を補助するためにも、祖母の薬草作りと治療所の手伝いをしていたからだ。
「私が男役をさせてもらうわ。手をあげて、組みましょう」
 始めは、私がリンダの足を踏んでいたと思う。だが、私が足を踏むと、必ずリンダも私の足を踏んでよこしたのだ。それが、私の中にある勝気さに火をつけて、リンダの動きに合わせて、踊れるようになっていた。その後、下働きの男女を参加させて、数人で輪を作って踊ることも教えてくれた。
 翌日になると、リンダの顔は強張っていた。
「時間があれば、もっといろいろお教えができるんですけど。あなたが、カルゾに行く日が近づいていますので、これが最後の講義になりますね」
「そうなんですか。それは?」
「これは短剣です。今日は、この使い方をお教えいたします」
「短剣ですか?」
「そうです。王妃たるもの、必ず胸元に短剣を忍ばせているものです」
「そうなのですか?」
「いざとなった時に、王を守るためです。王のために命を捨てる覚悟が必要です。次に、貞操を守るためです。王以外の者と交わるなど、ありえないことですぞ」
 リンダの説明には、私も納得をしていた。
「まずは、短剣の持ち方です。ちゃんと持てないと、自分の手を切ってしまいますよ」
 私が短剣を持ってみせると、すぐに直されていた。
 剣を持っている者を相手に試し試合もさせられた。どうやら、強い相手であっても相打ちに持ち込めることを考えなければならいのだ。
 最後に、リンダは私に自害の仕方を教えてくれた。首に短剣を当て、動脈を一気にきれば、血が噴き出して終えることができると言っていた。
「私、これをしなければならないことが起こるのでしょうか?」
 私は思わず聞いていた。
「そういう覚悟を王妃になる者は、いつも持っているべきです。今、あなたがお持ちになっている短剣は、あたなに差し上げますわ」
「え、本当ですか?」
「二日後には、あなたは、カルゾ国に行くことが決まったそうです。短剣はあなたのために開かれた王妃学校の卒業証書だと思ってください」
「いろいろお教えいただき有難うございました」
 私はリンダに頭をさげていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...