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15薬作り着手
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月のしずくを手に入れて城に戻った私は、すぐにでも王の部屋に飛び込みたかった。
だが、私がすべきことは何なのか分かっている。まず一日でも早く採ってきた月のしずくを薬に作り上げなければならない。私が王と会える時は、作り上げた薬を王に渡すことができる時だ。
そこで、私はすぐにアンナを探した。アンナには私が死んでいた時に私がやっていたことを、やってもらえるように教え込んでいた。だから、協力をしてもらうとすれば、アンナに頼むしかない。
私の部屋の前の通路でアンナに出会った。
「ナターシャ様、ご無事でなによりです」と、アンナは涙ぐんでくれた。
「月のしずくを採ってくることができたわ」
「それはようございましたね」
「さっそく薬を作りたいの」
「お手伝いをいたしますが、どのようにいたしますか?」と、アンナは不安げに眉を八の字によせた。
「ちょっと、待ってね」と、私は言った。
私も月のしずくを薬に作ったことはない。だが、亡くなられた王妃が使っていた図書室に植物総合図録という本があって、その中に薬にする方法も書かれていたのだ。それをよりどころに、私は薬作りを進めるつもりでいた。
私は竹かごを背負ったまま、図書室に行き、その本を見つけると、それを持ってアンナのところに戻った。
「調理台の一つを使わしてくれる」
「調理室の一つをいまは薬作り専用室にしてございます。そこに調理台がありますので、それをお使いください」
私はアンナに案内をされて専用室に行き、背中にせおってきた竹かごの中の物を調理台の上に開けた。白く可憐な花がついている植物が山に積まれることになった。
その時に、私は月のしずくの根がしっかりついているのを、三房とりあげた。
「これを、薬草庭園の使っていない場所に植えてきてちょうだい」
「はい、かしこまりました」と言って、アンナは私からそれを受け取るとすぐに専用室から出て行った。
持ってきた月のしずくだけでは、王をなおす薬の原料として足りないかもしれない。もし、庭に植えて増えてくれれば、それをすぐ使うことができるはずだ。だが、私が勝手に思い込んでも、月のしずくは庭園で育たないかもしれない。ともかく、これをやってみる価値はある。
専用室に残った私は、本を読みながら作業を進める。
「まず、泥や小石を取り除いてもらおうかな。それに枯れた草はよけてちょうだい」
私が指示をだすと、アンナが連れて来た侍女たちは調理台を囲んでゴミと思える物をとりのぞきだした。
「その後、薬草を水洗いをするのだけど、井戸から組んだ水を使わないでください」
「どうすればいいんですか。鍋に水を入れて煮て欲しいのよ」
「そんなことをする必要があるのですか?」
「水を熱で殺菌するためよ」と、私は疑問を口にした侍女たちに答える。
大鍋で煮たお湯を今度はしゃもじを廻して冷やし、冷やし終わった水を使って月のしずくを侍女たちは洗い出した。 洗った月のしずくを彼女らはザルに分けて入れていた。
「この後、いかがいたしましょうか?」と、庭園から戻ってきたアンナが聞いてきた。
「本によれば、三通りの薬、塗り薬、粉薬、水薬が作れるらしい。だから、三通りの薬を作ってみるわ」
そのために、月のしずくを二つわけて、半分を専用室の窓辺に並べておき、干すことにした。
アンナは、侍女たちと一緒に半分の月のしずくを窓辺に運んだ。下に大きな敷布をしき、その上に、月のしずくがくつかないように間をおいて並べた。窓辺は南に向いていたので、日が出さえすれば、いつも光があたり、薬草を乾かし続けてくれるはずだ。月のしずくが渇いたならば、これを鉢に入れてすり、粉にする。粉になった月のしずくはそのまま粉薬として使うことができるし、この粉にごま油を入れて練り上げると塗り薬にすることができる。
だが、その作業ができるのは、まだ後のことであった。
私ができるのは、残りの月のしずくを使って水薬を作ることであった。
すぐに、かまどに火を起こし、寸胴鍋に水を4分の1ほどを入れて、かまどにかける。煮立ち始めたら、残っている月のしずくすべてをそこに入れた。
私は寸胴鍋のそばから離れることはできない。かまどの火を弱めると、ゆっくりとに煮続けないといけないからだ。
私が夕餉もとらないでいることをアンナから聞いたリカードは私の様子を見にやってきた。
「ナターシャ様、食事を取らないと、お体にさわります。私どもに言いつけていただければ、いかようにもお手伝いをいたしますのに」
私は首を左右にふった。
「この薬を作ることは、私がすべきことだと思っているの」
「そう言われると思っておりました。そこで、パンの間にハムとサラダをはさんだものを作ってまいりました。この料理名はサンドイッチだそうです。これを食べながら、作業をしてください。体に気をつけていただかねば、お薬も完成させることはできませんぞ」
サンドイッチとは、伯爵の名前だ。彼は賭け事が好きで、一日中カードをいじり、食事をとる時間もおしがった人だ。そこでゲームをしながら、食事をとれる方法として、パンの間に具をはさんで食べる料理を彼が思いついた。そのことが有名になり、その料理方法に伯爵の名前がついてしまったのだ。
私もその話は聞いたことがあった。
私は汚れていた手を布巾でふいた後、リカードからサンドイッチを受け取り、私はほおばっていた。
だが、私がすべきことは何なのか分かっている。まず一日でも早く採ってきた月のしずくを薬に作り上げなければならない。私が王と会える時は、作り上げた薬を王に渡すことができる時だ。
そこで、私はすぐにアンナを探した。アンナには私が死んでいた時に私がやっていたことを、やってもらえるように教え込んでいた。だから、協力をしてもらうとすれば、アンナに頼むしかない。
私の部屋の前の通路でアンナに出会った。
「ナターシャ様、ご無事でなによりです」と、アンナは涙ぐんでくれた。
「月のしずくを採ってくることができたわ」
「それはようございましたね」
「さっそく薬を作りたいの」
「お手伝いをいたしますが、どのようにいたしますか?」と、アンナは不安げに眉を八の字によせた。
「ちょっと、待ってね」と、私は言った。
私も月のしずくを薬に作ったことはない。だが、亡くなられた王妃が使っていた図書室に植物総合図録という本があって、その中に薬にする方法も書かれていたのだ。それをよりどころに、私は薬作りを進めるつもりでいた。
私は竹かごを背負ったまま、図書室に行き、その本を見つけると、それを持ってアンナのところに戻った。
「調理台の一つを使わしてくれる」
「調理室の一つをいまは薬作り専用室にしてございます。そこに調理台がありますので、それをお使いください」
私はアンナに案内をされて専用室に行き、背中にせおってきた竹かごの中の物を調理台の上に開けた。白く可憐な花がついている植物が山に積まれることになった。
その時に、私は月のしずくの根がしっかりついているのを、三房とりあげた。
「これを、薬草庭園の使っていない場所に植えてきてちょうだい」
「はい、かしこまりました」と言って、アンナは私からそれを受け取るとすぐに専用室から出て行った。
持ってきた月のしずくだけでは、王をなおす薬の原料として足りないかもしれない。もし、庭に植えて増えてくれれば、それをすぐ使うことができるはずだ。だが、私が勝手に思い込んでも、月のしずくは庭園で育たないかもしれない。ともかく、これをやってみる価値はある。
専用室に残った私は、本を読みながら作業を進める。
「まず、泥や小石を取り除いてもらおうかな。それに枯れた草はよけてちょうだい」
私が指示をだすと、アンナが連れて来た侍女たちは調理台を囲んでゴミと思える物をとりのぞきだした。
「その後、薬草を水洗いをするのだけど、井戸から組んだ水を使わないでください」
「どうすればいいんですか。鍋に水を入れて煮て欲しいのよ」
「そんなことをする必要があるのですか?」
「水を熱で殺菌するためよ」と、私は疑問を口にした侍女たちに答える。
大鍋で煮たお湯を今度はしゃもじを廻して冷やし、冷やし終わった水を使って月のしずくを侍女たちは洗い出した。 洗った月のしずくを彼女らはザルに分けて入れていた。
「この後、いかがいたしましょうか?」と、庭園から戻ってきたアンナが聞いてきた。
「本によれば、三通りの薬、塗り薬、粉薬、水薬が作れるらしい。だから、三通りの薬を作ってみるわ」
そのために、月のしずくを二つわけて、半分を専用室の窓辺に並べておき、干すことにした。
アンナは、侍女たちと一緒に半分の月のしずくを窓辺に運んだ。下に大きな敷布をしき、その上に、月のしずくがくつかないように間をおいて並べた。窓辺は南に向いていたので、日が出さえすれば、いつも光があたり、薬草を乾かし続けてくれるはずだ。月のしずくが渇いたならば、これを鉢に入れてすり、粉にする。粉になった月のしずくはそのまま粉薬として使うことができるし、この粉にごま油を入れて練り上げると塗り薬にすることができる。
だが、その作業ができるのは、まだ後のことであった。
私ができるのは、残りの月のしずくを使って水薬を作ることであった。
すぐに、かまどに火を起こし、寸胴鍋に水を4分の1ほどを入れて、かまどにかける。煮立ち始めたら、残っている月のしずくすべてをそこに入れた。
私は寸胴鍋のそばから離れることはできない。かまどの火を弱めると、ゆっくりとに煮続けないといけないからだ。
私が夕餉もとらないでいることをアンナから聞いたリカードは私の様子を見にやってきた。
「ナターシャ様、食事を取らないと、お体にさわります。私どもに言いつけていただければ、いかようにもお手伝いをいたしますのに」
私は首を左右にふった。
「この薬を作ることは、私がすべきことだと思っているの」
「そう言われると思っておりました。そこで、パンの間にハムとサラダをはさんだものを作ってまいりました。この料理名はサンドイッチだそうです。これを食べながら、作業をしてください。体に気をつけていただかねば、お薬も完成させることはできませんぞ」
サンドイッチとは、伯爵の名前だ。彼は賭け事が好きで、一日中カードをいじり、食事をとる時間もおしがった人だ。そこでゲームをしながら、食事をとれる方法として、パンの間に具をはさんで食べる料理を彼が思いついた。そのことが有名になり、その料理方法に伯爵の名前がついてしまったのだ。
私もその話は聞いたことがあった。
私は汚れていた手を布巾でふいた後、リカードからサンドイッチを受け取り、私はほおばっていた。
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