いつも、隼斗(はやと)

矢野 零時

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14近況報告

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 今晩も弘子に私は呼び出された。いつも待ち合わせに使っている喫茶店ノールで、私は待っていた。
 弘子は、いまだに隼斗のファンクラブに入っていて、隼斗への執着と未練を消すことができないでいた。だから、私がどうしているのか、気になるらしい。私は飽きることなく、隼斗の持っているラジオ番組にハガキでリクエストをして、隼斗によって読み上げられているのを弘子は知っていたのだ。
 窓側の席にすわっていると、弘子は店に入って来て、私を見つけるとすぐに私の前にすわった。
「見せなさいよ。隼斗から、手紙を持ってきてくれたんでしょう?」
 言われるままに、私は、用意してきた隼斗からの手紙をハンドバッグから出して弘子に渡した。弘子は、熱心に手紙を読んでいた。
「甘い言葉を信じているの?」
「信じていて悪いかしら」
「あんた、バカね。こんなのマネジャーの真理子か、プロダクションの事務やっている人たちが書いているのよ」
「でも、書いている字は、私の記憶にある隼斗の字よ」
「バカね。あんた、バカよ。似たような字を書く人たちを用意ぐらいしているわよ」
「でも、・・・」
「あんた、額にしわができているわよ。それだけ、私たち年をとったということよ」
 たしかに、私は二十七歳になっている。いつの間にか、考えにつまると額に三本のしわが寄るようになっていた。
「あたしもね。白馬の王子様さがしはやめることにしたの」
「弘子、隼斗はいいの?」
「ガキのせりふね。大人にならなければ」
 弘子は、笑っていた。私の問いがそんなにおかしかったのだろうか?
「前に報告していたでしょう。まだ、私もてるのよ。私をお姫様と思ってくれる人はたくさんいるわ。今のうちなら、私、高く売りつけることができる。お父様の会社にいる人が、私に結婚を申し込んできたの。総務課の係長。将来性はありそうだわ。男の価値は出世よ」
 弘子は、父親のコネで、父親の会社に就職をしていたのだ。私は黙るしかない。弘子は、そんな私をおもしろそうに見ていた。
「週刊誌ナウ読まなかったの?」
 すぐに私は顔を曇らした。
 週刊誌ナウに隼斗に恋人ができたと言う記事がでていたのだ。
 その恋人は、東京映画祭で新人賞をとった若い女、木田めぐみだった。もちろん、先週発行のシャッターというタブロイド雑誌でも、二人が一緒にレストランから出てきた写真をのせていた。
「隼斗は、私たちと別な道を歩き出しているのよ。そのことに気が付かなければ」
 弘子は、さとったようなことを言い続けている。それは、自分が結婚できる有利な立場になっているからだ。だが、同時に自分を納得させるための呪文を声に出しているようにも、私には聞こえた。
 私にもわかっていた。隼斗を自由にさせてあげなければならない。いえ、私が隼斗から卒業をしなければならない時が近づいている。そんな気がしていた。
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