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第一日目(六月十日)。
朝の八時に、俺たちは署の第二会議室に集められ、高坂の言っていたとおり拳銃の貸与と防弾チョッキを着せられた。防弾チョッキを着ていては、愛用のリュックを背負うことができない。しかたなくロッカーに入れっぱなしにしていたボストンバッグにチャーシューをつめなおし、それを手にさげた。他の同行者も泊まり込みになるので、下着などをバッグに入れて持ってきていたので俺が目立つことはなかった。署内から出た俺たちは、駐車場に置かれたボンゴ車にのせられカモメ診療所に向かった。
前日から広報車が走り、カモメ診療所のある市街に放送を流していた。その内容は、暴力団がやってくる恐れがあるので、六月二十五日までの十五日間、なるべく家から出て歩かないこと、できればこの地域から離れることを勧めていた。
やがてボンゴ車からカモメ診療所が見えてきた。カモメ診療所の周りには昨日からすでに張り付いている暴対課の連中がヘルメットをかぶり、ジュラルミンの盾を手にまるでチェスの駒のように並んで立っていた。
「もう戦は始まっているわけか」と、俺は相内を睨みながら減らず口をたたく。俺を巻き込んだ負い目を感じているのか、相内は俺と眼を合わせないようにしている。
屋内駐車場前のコンクリートの上に、数台の装甲車と大型バスが停められていた。大型バスは暴対課員の睡眠を取る寝場所にもなっていた。
その脇を通りゲートが開くと、ボンゴ車は屋内駐車場に入っていった。ボンゴ車から降り俺たちは建物の中に入った。
成宮と暴対課で話をつけていたのだろう。カモメ診療所にいた入院患者たちを他の病院に転院させていた。襲撃をされた場合を考えての対策だ。だが、転院をさせることが出来ない者たちは三人いた。彼らは継続してここにいるしかなかったのだ。
空いた病室には、俺たちが泊まることができた。目黒と高野は一一三号室、市川と後藤は一一四号室、そして、俺と相内は、一一五号室が割り当てられた。
困ったことに、成宮は患者を診ることを止めなかったのだ。俺たちが待合室に行くと、たくさんの患者が来ていた。
「これじゃ、この中に潜り込めば、いつでもこの病院内に入れるな」と、相内はこわばった声をあげた。
「成宮先生は、なにがあっても、病院を閉めるきはないそうだ」憮然とした顔で総務課の高野が言った。
「雨野辰夫はなんて言っているんだ?」と俺は高野の方に顔を向けた。
「さすが、山城組の組長だった男だね。成宮先生の好きなようにやってくれと言っているそうだよ」
「ともかく、きている患者の身体検査はさせてもらうしかない。総務課さんは、新たに受付に来た者のチエックをしてくれないかな。すでに待合室にいる者たちは俺たちが調べるしかない」
俺がそう言うと、みんな頷いていた。やはり、暴対課の連中は俺たちに楽をさせる気はないらしい。待合室にいる者たちを分担して、刃物やハジキ(拳銃)を持っていないかどうか、調べて歩いた。幸いなことに、危険な物を持っている者を見つけることはできなかった。新たに受付に来た者だけを調べている総務課だけを残して、俺たちは病院の中をパトロールして歩くことにした。
交通安全課の二人は、建物の裏口の二か所、看護師控室、清掃員控室及びゴミ置場を見にいった。俺と相内は、空いている病室や残っている入院患者たちを見て廻ることになった。
四つほどの空き病室を見た後、入院患者のいる病室で最初に行ったのは、一三二号室だった。入院患者の名前は出入口の右壁に表示されている。そこには、ひったくり犯の一人、山田がいた。
ひったくり犯の共犯者、石田からの聞き取りで山田も谷口組に属していたことがわかっている。普通の生き方から自由になれると思ってヤクザになる。だがヤクザに自由など無い。拘束と金が支配する世界なのだ。組に入れば上納金を治めなければならない。金をつくるために、犯罪に手を染めるしかない。だから、山田も、ひったくりをやってしまった。
俺が病室に入っていくと山田のベッドそばに老婆が背を丸めてパイプ椅子にすわっていた。
「どういう関係です?」と、俺は聞いた。
「山田雄介。この子は私の子供です」
「お母さんですか?」
「山田良枝と申します」
「まだ、意識は戻られていないようですね」と、相内が話に入り込んできた。たしかにベッドの山田は吸入器がつけられ、その御蔭でやっと酸素をとっていた。口を通さずに食べ物を胃に流し込む胃ろうカテーテルもつけられている。つぶられた瞳の下で山田は何を見ているのだろうか?
「こうなってしまったのは私のせいです。後の夫と雄介はぶつかりあい家出をしてしまった。それが雄介の転落の始まりでした」
そう言った良枝は泣き出していた。
「ここの先生は、すごい人らしい。死の淵にいた者が治ってこの病院から退院していった人たちがたくさんいる」
俺がそう言ってやると、良枝はふたたび涙をため頬をぬらしていた。俺たち二人は良枝に向かって頭をさげると、病室を出た。
ふたたび空き病室をいくつか覗いた後、次に行った入院患者がいる病室は一五七号室だった。入って行くと、白髪を短く刈り上げた男がベッドに寝ていた。俺たちが入っていくと、起き上がりベッドの端に腰を下ろして、すわり直そうとした。
「藤田さん、起きなくてもいいんだよ」と、相内が声をかけた。
「いや、親父を殺そうとする奴が来るかもしれない時に寝てばかりではいられませんよ」
藤田は痩せ、寝間着の隙間から腕や肩にまで彫った入れ墨が見えていた。そして藤田が親父と呼んでいたのは、雨野のことだった。
「藤田さんには身体を大切にしてもらいたいと、成宮先生が言ってたよ」と、俺が言うと藤田は眼をうるませた。
「先生のおかげで、今日まで生きてこれた。この度は、恩返しをするいい機会なんですよ」
「藤田さん、私たち警察が出て来てるんです。まかせてください」
相内がそう言うと藤田の顔は少し柔いだようだった。俺は藤田の背中に右手をかけ、左手を腰下に手を入れて抱上げ、ベッドに戻してやった。
「まずは養生に専念をしてください」と、俺は言い、二人で頭をさげると病室を出た。
また空き病室をまわり、最後の病室は一六二号室だった。その病室にいたのは、女の人だった。若くはない。だが、他の入院患者と違って、ベッドの側にある丸椅子に腰をかけていたのだ。
「警察の方なんですか?」
「そうですよ。秋川さんはなんの病気なんですか?」
「腎臓を悪くしております。ここに入れば、いつでも人工透析をしてくれる。それも無料でやってくれるんですよ。だから、ここなら生きていられる」
「警察があなた方を守りますよ。だから、安心をしてください」
俺がそういうと、秋川は小さく頷いた。俺たちは軽く頭をさげると、病室を出た。どの病室も異常はなかった。
「片倉、成宮先生と会ったことがあるのかい?」と、相内が歩きながら聞いてきた。
「あるよ。診察室に行けば、いつでも誰でも会うことが出来る」
「そうか、じゃ、雨野辰夫に会ったことは、あるのかね?」
「いや、ない。昔、週刊誌の写真で見たことがあるだけだな。どうも、隠し部屋があって、そこで暮らしているらしい」
「守ってやろうとしている警察の私たちに挨拶はないのかい?」
「お偉方とはすでに会っているのかもしれんよ。だが、いいこともある。ここには通院してきた患者が食べることができる食堂がついている。、俺たちもそこで食べることができるし、夜も午後七時までに、夕食を作って入院患者と同じく配送をしてくれるそうだ」
「いいサービスだが、大食らいのあんたには足りないじゃないか?」
俺は笑った。すでに俺は調理場に挨拶に行き、調理担当の岡村と井上という二人の女たちに俺だけの特別料理をすでに頼みこんでいた。特別料理と言っても、ただ分厚い肉を朝晩に焼いてくれるだけでいいことだ。もちろん、その分の料金は彼女たちに前金で渡している。それに彼女たちから雨野の側にずっと付き添っている影と呼ばれる男がいることを知ることができた。人間は何も食べずに生きてはいけない。彼女らが料理の数の話をしていた時に聞くことができた情報だった。だが、そのことを相内にも言う気はなかった。
「追加料理も頼めるのかい。こんな状態でいけるならば、署にいるよりもいいかもしれんな」
相内は、楽観的な見込みをたてていた。
朝の八時に、俺たちは署の第二会議室に集められ、高坂の言っていたとおり拳銃の貸与と防弾チョッキを着せられた。防弾チョッキを着ていては、愛用のリュックを背負うことができない。しかたなくロッカーに入れっぱなしにしていたボストンバッグにチャーシューをつめなおし、それを手にさげた。他の同行者も泊まり込みになるので、下着などをバッグに入れて持ってきていたので俺が目立つことはなかった。署内から出た俺たちは、駐車場に置かれたボンゴ車にのせられカモメ診療所に向かった。
前日から広報車が走り、カモメ診療所のある市街に放送を流していた。その内容は、暴力団がやってくる恐れがあるので、六月二十五日までの十五日間、なるべく家から出て歩かないこと、できればこの地域から離れることを勧めていた。
やがてボンゴ車からカモメ診療所が見えてきた。カモメ診療所の周りには昨日からすでに張り付いている暴対課の連中がヘルメットをかぶり、ジュラルミンの盾を手にまるでチェスの駒のように並んで立っていた。
「もう戦は始まっているわけか」と、俺は相内を睨みながら減らず口をたたく。俺を巻き込んだ負い目を感じているのか、相内は俺と眼を合わせないようにしている。
屋内駐車場前のコンクリートの上に、数台の装甲車と大型バスが停められていた。大型バスは暴対課員の睡眠を取る寝場所にもなっていた。
その脇を通りゲートが開くと、ボンゴ車は屋内駐車場に入っていった。ボンゴ車から降り俺たちは建物の中に入った。
成宮と暴対課で話をつけていたのだろう。カモメ診療所にいた入院患者たちを他の病院に転院させていた。襲撃をされた場合を考えての対策だ。だが、転院をさせることが出来ない者たちは三人いた。彼らは継続してここにいるしかなかったのだ。
空いた病室には、俺たちが泊まることができた。目黒と高野は一一三号室、市川と後藤は一一四号室、そして、俺と相内は、一一五号室が割り当てられた。
困ったことに、成宮は患者を診ることを止めなかったのだ。俺たちが待合室に行くと、たくさんの患者が来ていた。
「これじゃ、この中に潜り込めば、いつでもこの病院内に入れるな」と、相内はこわばった声をあげた。
「成宮先生は、なにがあっても、病院を閉めるきはないそうだ」憮然とした顔で総務課の高野が言った。
「雨野辰夫はなんて言っているんだ?」と俺は高野の方に顔を向けた。
「さすが、山城組の組長だった男だね。成宮先生の好きなようにやってくれと言っているそうだよ」
「ともかく、きている患者の身体検査はさせてもらうしかない。総務課さんは、新たに受付に来た者のチエックをしてくれないかな。すでに待合室にいる者たちは俺たちが調べるしかない」
俺がそう言うと、みんな頷いていた。やはり、暴対課の連中は俺たちに楽をさせる気はないらしい。待合室にいる者たちを分担して、刃物やハジキ(拳銃)を持っていないかどうか、調べて歩いた。幸いなことに、危険な物を持っている者を見つけることはできなかった。新たに受付に来た者だけを調べている総務課だけを残して、俺たちは病院の中をパトロールして歩くことにした。
交通安全課の二人は、建物の裏口の二か所、看護師控室、清掃員控室及びゴミ置場を見にいった。俺と相内は、空いている病室や残っている入院患者たちを見て廻ることになった。
四つほどの空き病室を見た後、入院患者のいる病室で最初に行ったのは、一三二号室だった。入院患者の名前は出入口の右壁に表示されている。そこには、ひったくり犯の一人、山田がいた。
ひったくり犯の共犯者、石田からの聞き取りで山田も谷口組に属していたことがわかっている。普通の生き方から自由になれると思ってヤクザになる。だがヤクザに自由など無い。拘束と金が支配する世界なのだ。組に入れば上納金を治めなければならない。金をつくるために、犯罪に手を染めるしかない。だから、山田も、ひったくりをやってしまった。
俺が病室に入っていくと山田のベッドそばに老婆が背を丸めてパイプ椅子にすわっていた。
「どういう関係です?」と、俺は聞いた。
「山田雄介。この子は私の子供です」
「お母さんですか?」
「山田良枝と申します」
「まだ、意識は戻られていないようですね」と、相内が話に入り込んできた。たしかにベッドの山田は吸入器がつけられ、その御蔭でやっと酸素をとっていた。口を通さずに食べ物を胃に流し込む胃ろうカテーテルもつけられている。つぶられた瞳の下で山田は何を見ているのだろうか?
「こうなってしまったのは私のせいです。後の夫と雄介はぶつかりあい家出をしてしまった。それが雄介の転落の始まりでした」
そう言った良枝は泣き出していた。
「ここの先生は、すごい人らしい。死の淵にいた者が治ってこの病院から退院していった人たちがたくさんいる」
俺がそう言ってやると、良枝はふたたび涙をため頬をぬらしていた。俺たち二人は良枝に向かって頭をさげると、病室を出た。
ふたたび空き病室をいくつか覗いた後、次に行った入院患者がいる病室は一五七号室だった。入って行くと、白髪を短く刈り上げた男がベッドに寝ていた。俺たちが入っていくと、起き上がりベッドの端に腰を下ろして、すわり直そうとした。
「藤田さん、起きなくてもいいんだよ」と、相内が声をかけた。
「いや、親父を殺そうとする奴が来るかもしれない時に寝てばかりではいられませんよ」
藤田は痩せ、寝間着の隙間から腕や肩にまで彫った入れ墨が見えていた。そして藤田が親父と呼んでいたのは、雨野のことだった。
「藤田さんには身体を大切にしてもらいたいと、成宮先生が言ってたよ」と、俺が言うと藤田は眼をうるませた。
「先生のおかげで、今日まで生きてこれた。この度は、恩返しをするいい機会なんですよ」
「藤田さん、私たち警察が出て来てるんです。まかせてください」
相内がそう言うと藤田の顔は少し柔いだようだった。俺は藤田の背中に右手をかけ、左手を腰下に手を入れて抱上げ、ベッドに戻してやった。
「まずは養生に専念をしてください」と、俺は言い、二人で頭をさげると病室を出た。
また空き病室をまわり、最後の病室は一六二号室だった。その病室にいたのは、女の人だった。若くはない。だが、他の入院患者と違って、ベッドの側にある丸椅子に腰をかけていたのだ。
「警察の方なんですか?」
「そうですよ。秋川さんはなんの病気なんですか?」
「腎臓を悪くしております。ここに入れば、いつでも人工透析をしてくれる。それも無料でやってくれるんですよ。だから、ここなら生きていられる」
「警察があなた方を守りますよ。だから、安心をしてください」
俺がそういうと、秋川は小さく頷いた。俺たちは軽く頭をさげると、病室を出た。どの病室も異常はなかった。
「片倉、成宮先生と会ったことがあるのかい?」と、相内が歩きながら聞いてきた。
「あるよ。診察室に行けば、いつでも誰でも会うことが出来る」
「そうか、じゃ、雨野辰夫に会ったことは、あるのかね?」
「いや、ない。昔、週刊誌の写真で見たことがあるだけだな。どうも、隠し部屋があって、そこで暮らしているらしい」
「守ってやろうとしている警察の私たちに挨拶はないのかい?」
「お偉方とはすでに会っているのかもしれんよ。だが、いいこともある。ここには通院してきた患者が食べることができる食堂がついている。、俺たちもそこで食べることができるし、夜も午後七時までに、夕食を作って入院患者と同じく配送をしてくれるそうだ」
「いいサービスだが、大食らいのあんたには足りないじゃないか?」
俺は笑った。すでに俺は調理場に挨拶に行き、調理担当の岡村と井上という二人の女たちに俺だけの特別料理をすでに頼みこんでいた。特別料理と言っても、ただ分厚い肉を朝晩に焼いてくれるだけでいいことだ。もちろん、その分の料金は彼女たちに前金で渡している。それに彼女たちから雨野の側にずっと付き添っている影と呼ばれる男がいることを知ることができた。人間は何も食べずに生きてはいけない。彼女らが料理の数の話をしていた時に聞くことができた情報だった。だが、そのことを相内にも言う気はなかった。
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