カオル、白魔女になります!

矢野 零時

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イバラの森大戦

17 病院の中

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 城の中におかしな者たちがいなったので、これでひと安心です。この後、いつもなら魔法学校の授業に顔を出していたのですが、今日はそれをしません。まず病院に行って、トムの様子を確かめなければならないと思っていたからです。
 病院はお豆腐のような建物です。でも病院のドアだけは黄色いアブラゲを思い出させる色をしていました。
 ドアは自動ドアになっているので、カオルが近づいただけでドアが開きました。

 病院に入って受付の人に話しかけようとしてカオルは驚いてしまいました。
 受付は女の人なのですが、頭に長い耳をはやしていたからです。どうやら、エルザがウサキを魔法で人に変えたのでしょう。
「すいません。肩に怪我をしたトムがここにやってきたと思うのですが」
「はい。その通路をまっすぐ行って、突きあたりにある病室にいます」
「わかりました」
 確かに長い通路の向こうに白いドアが見えました。でも、右は畑になっていて、耳の長い者たちがお茶のような木から葉をつんで腰につけたカゴに入れていました。
 白衣をきたお医者さんと思える人が通りかかりましたので、カオルは「あの人たちは何をしているのですか?」と、聞きました。
「かれらはね。育たてた薬草をつんでいるんだよ。ここには薬局がないだろう。だから、薬は病院で作らなければならないからね」
 カオルがお医者さんにお礼を言うと、片手をあげて笑いながらお医者さんは離れて行きました。
 お医者さんは、耳が長くありませんしお腹が出ていましたので、タヌキだったのかもしれないと思いながら、カオルは歩き出し、突き当りのドアを開けて病室に入りました。

 中は広くたくさんのベッドが置かれていました。カオルが見まわすと、カオルに向かって手をあげてふっている者がいました。トムです。
「だいじょうぶ?」と言いながら、カオルはトムに近づいて行きました。大ネズミにかみつかれた肩には包帯がまかれています。
「カオル、ありがとう。助けてくれて。傷口に薬をたっぷり塗ってもらったからね。これで大丈夫! 病院の薬はすごく効くんだよ」
「よかった。その調子ならば、すぐなおるわね」

 安心をしたカオルは気持ちに余裕がでてきましたので、病室の中を見まわしてベッドに寝ている人たちを見ることができました。どこから、この病院にやってきたのでしょうか。カオルが知らない人たちばかりです。でも、魔法学校の生徒たちもいました。おそらく、ホウキにのって高い空から落ちてしまったのでしょう。

 突然、カオルは首をかしげました。
 それは二つの彫刻がベッドの上にのせられていたからです。どう考えても彫刻を病室のベッドの上に置かなければならない理由をカオルには思いつきません。
 彫刻の一つは長い髪のすらりとした女の姿で長いドレスを着ていました。もう一つの彫刻は背中に羽がはえていて、頭に冠をかぶっていました。
 何故か、長い髪の女の彫刻のそばに、おばあさんが立っていて彫刻の背中に刷毛はけで何かを塗っていたのです。すぐにカオルはおばあさんの所に行きました。
「おばあさん、こんにちは」
「やあ、いらっしゃい。トムを助けてくれたそうだね。ありがとう」
「どうして、病室に彫刻を置いているのですか?」
「この彫刻は病人なんだよ。だから、ここに置いて治療をしてもらっているのさ」
「えっ、病人なの?」
「そうだよ。こちらは美をつかさどる女神ビーナス。むこうは、幸せをもたらしてくれる女神ハッピー」
 改めて、カオルが目の前の彫刻を見ると、たしかに、いままで見たどんな女性よりも美しい姿をしています。
「あっ」と、カオルは声をあげました。カオルと目が合った彫刻の茶色の目が動いたからでした。
「この彫刻は生きている!」
「そうよ。前はこんな石になってはいなかったからね。だから、石化した体を元に戻してあげなければならない」
「でも、どうして、こんなになったの?」

 カオルの問いに、おばあさんはため息を一つついた後、経過を話してくれました。
「前に十五歳になったのに死ななかったオーロラj姫をオードリが殺しにやってきたことを話してあげたよね。それを知った白魔女や女神たちが集まり、オーロラ姫を助けようとしたんだよ」
 おばあさんは片眉をあげて少し辛そうな顔をしながら再び話し出しました。
「あの時は、私は他の時空に行っていたんだよ。それに女神の二人がいてくれれば、オードリなんか問題にならないと思っていたからね。だが、違った。オードリは恐ろしい力を手に入れていた。それは石化光線。光をあびた者を石にする力なんだ。オードリに石にされ、オードリが連れてきた巨人たちに斧をふるわれ粉粉にされた魔女たちが出てしまった。緊急の連絡を受けたので、私が飛んできた時には、女神二人も石化光線を浴びて石になっていた。巨人たちが斧をふる前に創成魔法で石壁を作って女神たちを守り、病院に運び込んで置いたのさ。オードリには立て続けに炎を七つぶつけて倒してやった。だが、私は油断をしてしまった。生き残っていた巨人に大石をあてて壊している間に、オードリは死んだ命をすてて、最後の命にのりかえたんだよ。その命で羽のついたガーゴイルとなって逃げて行ったよ」

 ちなみに、ガーゴイルについて、説明をしておきます。
 ガーゴイルと言うのは、城の雨水をとおす雨どいに彫られた鬼の彫刻なのですが、年数をへると本物の鬼となって動き出すことができるのです。でも、弱い鬼ですので、暗がりから人を驚かすことぐらいしかできません。

「命をいくつも持っている魔女なんて、怖いわ」
「そうだね。黒魔女たちは悪魔や魔人たちに生贄をささげたり、自分で人を食べることによって命を増やすことができる。恐ろしいことだよ」と言いながら、おばあさんは手に持っていた広口びんの中に刷毛を入れました。
 瓶の中の薬を刷毛にたっぷりとつけると再びビーナスの背中に薬を塗っていました。薬を塗ったところが、やがて肌色に変わり出したのです。
「あっ」と、カオルは思わず声をあげました。
「いろんな薬草を試して、前のような肌をとり戻せる薬草をやっと見つけることができたよ」と言って、おばあさんは笑い声を出しました。それを聞いたビーナスの目から涙がこぼれ出していました。


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