カオル、白魔女になります!

矢野 零時

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イバラの森大戦

18 城の外では

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 病院で薬草から作った薬を塗ってもらい、トムはすっかり元気になりました。
 でも、大ネズにかまれたことをトムがたいへん恥ずかしいことだと考えていました。そこで、トムはシンドに相談をして、武器になる物を持たせてもらいたいと申し出たのです。
 シンドはいろいろ考えてくれ、新しい魔法の杖を持たせてくれました。それは、長い棒の形をした物、そう羊飼いたちが持っている杖に似ていました。これを使うと、炎は以前のより大きな炎を発することができますし、念を強めれば、雷を発生させることもできるのです。
 そのためには、エルザから杖に雷を起こす方法を教えてもらう必要がありました。トムはその特訓を必死でうけとめ、いつでも雷を起こせるようになったのでした。

 雷を起こせるようになったトムは、花壇そばに作られたお墓に手を合わせに行きました。もちろん、カオルもいっしょについて行きました。そこに白い十字架をたてて大ネズミに殺されたネコたちを葬むっていたのです。大ネズミを送り込んできたオードリを必ず倒すとトムとカオルはお墓の前で誓ったのでした。

 その後、二人は小屋に行き白いドアの前に立ちました。
 お互いに顔を見合わせた後、白いドアを開けて中に入り、おばあさんを呼びました。
 すると「なにか、ようかい?」と声がして、おばあさんが現れました。白い服を着て、すまし顔で両手を前で合わせています。 
「おばあさん、相談があります」と、カオルは声をあげました。その後、トムはさっそく相談したいことを話し出しました。
「サラ、仲間のネコたちが死んでしまった。その後をやってくれるネコたちを集めて置きたいんだ。いやオードリたちがまた襲ってくる前に、それをしておいた方がいい」
「そうだね。トムのいう通りだわ。そろそろオードリが攻めてくることを考えて準備をしておく必要があるね。トムにネコたちを集めて戦うための訓練をしてもらいましょう!」
「それで、サラ。ネコたちを集めるために、城から外に出て町に行きたいんだ」
「そうね。それならば、カオルにいっしょに行ってもらいなさい。カオルならば、トムの手助けをしてくれると思うわ。ともかく、まずグリスにきてもらいましょう」

 やがて、グリスがおばあさんの部屋ににやってきました。トムから話を聞いたグリスは何度もうなずいてから話し出しました。
「いまはね。動物だった者でも人間の姿をしていれば通れなくしているんだ。イバラたちに頼んで、トムとカオルは城門から出て行けるようにしておくよ。ところで、トムがいない時に、城の見回りは誰がやるのかな?」
「トラネコに、ぼくの代わりをしてもらおうと思っているんだ」
「じゃ、エルザに言って、トラネコが人に成れるようにしてもらおう。ちょうどトムの弟に見える男の子の姿がいいよね。名前はそうだ。ジムでどうだい?」
 トムとカオルはうなずいていました。

 翌日。トムとカオルは、おばあさん、シンド、エルザ,グリス、ドナ、それにジムに見送られて城門から出ていきました。
 
 城の外へ出て林の中を歩いていると、町の家並みが見えてきました。
「トムは、どんなネコに声をかけるつもりなの?」
「そうだな。ノラネコならば、いつでも城の中に来ることができると思うんだ」
 やがて、二人は、店が並んでいる商店街に入っていました。
 たしかに、店や店の間をネコたちが歩いています。でも、どのネコもノラネコらしくは見えません。どの店の人たちもネコを見れば、声をかけているし、ネコたちも彼らのそばによって、なついているのでした。時々、ネコに餌をやっている人もいます。
「トム、ここにノラネコなんていないわよ」
「でも、どのネコも、家に飼われているようにも見えないよ」
「じゃ、どういうことかしら?」
「彼らは、町ネコなんだ。町の人たちみんなに可愛がられているんだよ」

 二人がネコの後を追うようにして歩いていると商店街の真ん中にある公園にきてしまいました。
 二人が休んで公園のベンチにすわっていると、馬にのって背に赤いマントをたらした男がやってきました。その男は、後ろによろいを着て手に長い槍を持った兵隊を二人連れていたのです。
 男は馬から降りると、公園にいた人たちに向かって大声をあげました。
「掲示板にここに集まるようにお触れを出しておいただろう。どうして、集まっていない」
 男が指差した先には掲示板があって、いろいろなお知らせのチラシが貼られていました。その中にここに集まるように書かれたチラシも貼ってありました。でも、ここに集まるように書かれたチラシの右下には、隣の国であるウンド王国広報部と書かれていたのです。

 仕方なさそうに、お年寄りたちが三人ほど家と家の間から出てきて男の前に並らびました。
 すると、男は腰につけていた袋から巻物を取り出して、それを広げ読み出しました。
「以前には一軒の家の税金は五十ゴールドとしていたが、今日からは倍の百ゴールドにするものとする。ウンド王国広報部。以上じゃ」
「馬鹿な。前の値上げで倍になっていたのに、今度はさらにその倍。昔の税金の四倍になっております。そんな高い税金など払うことができません」
「そちは、何者じゃ?」
「私はこの町の町長をしている者です」
「ならば、ちょうどいい。町の者たちにちゃんと知らせるのじゃ」
「それは、無理でございます」と、町長は前に出て、男を睨みつけました。
「ウンド王国の言うことが聞けないのか!」と言って、男は町長の横顔を殴りつけたのです。町長の顔に紫のあざができていました。
「ちょっと、待ってくれないかね」と、トムは声をあげました。
「ここはシズカ王国の町のはずだが」
 すると、男は笑い出しました。
「シズカ王国だと。イバラに囲まれて誰も出てこない王国などないも同然じゃ。いまは、この町からもわしらの国が税金を取りたてている。税を取りたてる国が支配している証拠じゃ」
「ほほう、私はシズカ国の者だが、そんな無体な税の徴収は、私を倒してからにしてほしいものだな」
「おまえがシズカ王国の者だというのか。ちょこざいな」
 男は後ろの鎧を着た者たちの方を振り返っていました。三人いれば、なんとかなると思っていたのです。男は剣を抜き、鎧を着た二人は槍をかまえ出していました。
 すぐにカオルは顔をさげました。公園の中に落ちている石をさがしていたからです。あちらこちらに小石が落ちていました。これでカオルは武器を手にしたようなものです。男はにやけながら剣を手に前に出てきました。それに合わせるように鎧を着た者たちは一緒に槍をトムに向けてきました。

 カオルはすぐに小石を飛ばして鎧を着た者たちにあてました。石があたった鎧は大きな音をたてました。鎧を着た者たちは後ろから誰かが襲ってきたと錯覚を起こして、後ろを振り向いていました。その間に、トムは杖を正眼に構えてマントをはおった男の顔に雷を落としたのです。男は丸太のように後ろに倒れて行きました。まさか、いつも威張っている男がやられるとは思ってもいなかったのでしょう。鎧を着た者たちは倒れた男をみつめていました。
「どうだ。思い知ったか。シズカ王国に不満があるならば、いつでもイバラの森をのりこえて、城内にせめてくるがいい」
 すると、鎧をきた者たちは、雷で顔を黒くなった男を両脇から抱えあげて逃げ出していきました。

「あなたがたは、シズカ王国の兵士の方々でしたか、本当にありがとうございます。それでは、税金はいくらほどお支払いをすればよろしいのでしょうか?」と、町長が尋ねてきました。
「いや、税金はいりません」
「なに、税金はいらない!」
「そのかわり」
「そのかわり、なんでしょうか?」
「ネコたちをお貸しいただけないでしょうか?」
 そこで、ネコに城にやってくるネズミなどを退治してもらいたいことや、できれば魔法で兵隊になって警護もさせたいことをトムは町長たちに伝えたのでした。
「なるほど、それではネコの子供を五匹うんだばかりの親子を連れて行っていただくことは、いかがでしょうか? 子ネコたちをどのように育てようかと私どもも悩んでいたのです」
「子ネコ五匹に親が二匹、あわせて七匹だね」
 トムはどうだろうと言う顔をして、カオルの方を見ています。
「いいと思うわ。私、子ネコ、前から育ててみたいと思っていたのよ」
「私の案を受け入れていただいて本当にありがとうございます。少しお待ちください」と言って、町長はそばにいたお年寄りと一緒にどこかに行ってしまいました。

 しばらくして、町長たちは、大きなカゴを二つずつ手に提げて戻ってきたのでした。町長は子ネコを二匹と、三匹の二つに分けてカゴに入れていました。もう一人のお年寄りは親ネコのオスネコとメスネコを一匹ずつカゴに入れていました。
「これで運びやすくなりましたよ」と言って、町長は満足げにトムとカオルの手にカゴを持たせていました。カオルは子ネコのいるカゴを持ったので嬉しくてたまりません。思わず。笑顔になっていました。
 

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