カオル、白魔女になります!

矢野 零時

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天空魔人グール

5 友だち

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 今日から二学期の授業が始まります。
 天気もよく、雲一つない青空。カオルは元気よく学校への道を歩いていました。
「カオルちゃん、待って」
 後ろから声がしたので、カオルがふりかえると、知世が走ってくるのが見えました。
「知世ちゃん、おはよう」
「カオルちゃん、足が早いのね。私、カオルちゃんの家によって見たのよ」
「そうなの。ごめん」
「ううん。私が勝手によったのだから。これから、朝に迎えに行ってもいい?」
「いいわよ。朝は知世ちゃんを待って、いっしょに学校に行くことにするわ」

 畑を右に見ながら歩いていると、やがて二本の松の木が並んで立っているのが見えてきました。
 二本の松の木は仲良く、まるで双子の兄弟が肩を組んでいるように見えます。木々のそばまでカオルたちがくると道路は二つ別れていました。左の方に行けば、商店街がある所に出ることができます。右に行けばカオルたちの小学校に行くことができるのです。
 二人が右に曲がろうとすると、左から近づいてくる人がいました。ランドセルを背負っているので、同じ小学生です。それも笑いながら手をふっていました。
「おはよう」
 珠代です。
「ここにくれば、みんなと顔を合わせることができるわね」と喜んでいます。

 三人が横に並んで歩けるなんて、都会の道路では考えられないことです。いつもそばに車が通っているので、左によって音がするたびに顔をそちらに向け、くさい排気のにおいを嗅がなければなりませんでした。
 やがて、学校が近づいてきました。
 学校は山の背景と重なり、絵のようでした。 
 学校に入ったら玄関口に置かれた靴箱に外靴を入れて上履きに履きかえました。三人は階段を上がり、五年二組の教室に「おはよう」と言いながら入っていきました。
「おはよう」
 顔をあげずに朝の挨拶をしてくれたのは、荒川義男でした。自分の席にすわっていて、机の上で何か作っていたのです。カオルたちはランドセルを置いてから義男に近づきました。

 机の上に箱が置かれていました。
 大きさや形から、これはデコレーションケーキが入っていた箱に間違いありません。箱の上に、長さ5センチ、幅1センチの穴が開けられています。
「その箱でなにをするつもりなのよ?」と、珠代が聞きました。
「自由研究の投票箱だよ」と義男に言われて、三人は彼が学習委員であることを思い出しました。

 三人が見ている前で、義男は箱の高さの倍の長さのある厚紙を箱の背にセロテープで貼りつけだしました。
 カオルが、その厚紙をのぞくと次のように書かれていました。


  自由研究で、いいと思う作品名を書いて投票してください。


「投票用紙はどうするの?」と、知世が聞きました。
「先生からコピー用紙をもらっているので、それを切って作ってあるよ」と言って、義男は茶色の封筒から細長い紙を出して見せました。

「おはようございます」
 声がしたので、カオルたちは一斉にふり返りました。そこに高島玲子が立っていました。
「高島さん、投票用紙を作りましたので、長テーブルの上に置いときますね。まだ箱をのせるぐらいの場所はありますよね?」
「そうですね。少しいいですか」と言って、玲子は義男の机の上に置かれていたマジックを手にすると、箱をかかえ、厚紙に、『投票は今週の水曜日までに終えてください。』と、書き添えていたのでした。
「なるほど」と義男は言って、うなずいていました。

 しばらくすると、生徒たちが次々と教室に入ってきて、やがて先生もやってきました。先生は長テーブルの上に投票箱が置いてあるのを見るとニッコリとしていました。
 やがて休み時間がくるたびにクラスのみんなは投票を始めたのでした。

 
 次の日から、知世はカオルの家に迎えにきてくれたのです。おかげで、カオルは楽しく学校に通えるようになりました。
 知世のお母さんが商店街の中にあるスーパーマーケットで働いていることを、カオルのお母さんが「私と同じね」と言いながら教えてくれました。知世のお父さんはすでに亡くなっていて、お母さんが一人で知世を育ててくれていたのです。夜には居酒屋でも働いているそうでした。知世がお母さんに代わって洗濯をしたり食事を作っていることを知って、カオルは自分の生活が甘いと思ってしまいました。
 それなのに、いつも明るくしている知世をカオルは尊敬してしまったのでした。

 今日の朝、知世との話題は、自由研究でクラスの投票で選ばれ、職員室前に展示された作品の話になっていました。
 そんな話になったのは、五年二組から選ばれた作品の中にカオルの作ったチラノザウルスが入っていたからです。他には義男が採集したキアゲハやカラスアゲハを入れた標本箱が選ばれました。さらにもう一点、それは珠代が作った作品でした。
 大きな模造紙に折り鶴をたくさん貼った物です。鶴はいろいろな色の物や大きさの違った物があって、鶴が群れを成して空に飛んでいく様子は胸を打つものがありました。

 やがて、二人は道路が三つまたに分かれている所にきました。ここには、まるで目印のように二本の松が立っている所で、いつものようにカオルと知世は並んで少しの間、待ちました。
 やがて、珠代が北の道をやってきました。
「おはよう」
「珠代ちゃん、おはよう」
 三人は並んで歩き出しました。
「珠代ちゃんの鶴いいわね。まるで銀河が流れているみたい」と知世が言いました。
「ありがとう。実はね。折り紙を使うアイデア、カオルちゃんから貰ったものなのよ」
「あら、私の恐竜こそ珠代ちゃんの要望を受けて作ったものなのよ」
「展示が終わったら、私チラノサウルス、もらう約束になっているのよ。そうよね」と、珠代が言いました。
「ええ、そうよ」と言って、カオルは笑いました。
「そうだ。よかったら、知世ちゃん。模造紙にはった折り鶴をあげるわよ。もらってくれる?」
「え、ほんとう、いただけるの?」と言った知世は目を輝かせていました。
  
 職員室前での展示が終わり、それぞれの作品が戻ってきました。
 カオルはチラノサウルスの紙粘像を珠代に上げることにしていましたので、彼女の家に運んで行くことにしました。前もって、カオルは風呂敷を持って学校にきていましたので、チラノサウルスを風呂敷に入れて手に提げました。
 珠代は手提げ紙袋を持ってきていました。
「巻物のように丸めれば、折り目がつかないわよ」と言って、珠代は折り鶴の貼った模造紙をまるめてセロテープでとめ、紙袋に入れて珠代に渡していました。
 その後、珠代は知世も自分の家にくるように誘ったのです。もちろん、知世は喜んで珠代の家に行くことになりました。

 カオルと知世が行った珠代の家は、居間には炉がある古民家と言った感じの大きな家だったのです。そして、珠代のお父さんは地元の農協に勤めているそうでした。
 ちなみに、農協は農業協同組合の略で、農民たちを組合員として生活や農業について協力しあう組織です。

 珠代の部屋はさすがにチラノサウルスがふさわしい部屋でした。本棚には、怪獣図鑑が置かれ、アンモナイトの化石も飾られ、プラスチックで作られたブロンドサウルスやトリケラトプスの像が置かれていました。

 カオルからチラノサウルスを渡された珠代は本棚の一番上にチラノサウルスを飾りました。そして「私、恐竜オタクなのよ」と言って、珠代は笑っていました。
 やがて、珠代のお母さんが紅茶とモンブランのケーキを運んできてくれました。
 美味しいおやつを食べる楽しい時間を過ごした後、帰りは珠代が二人を二本松のある三つ股まで送ってくれたのでした。
 珠代もまだ話足りないと思って名残おしかったのでしょう。










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