【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
19 / 75

いっしょ

しおりを挟む



 3年前にくるはずだった、りょーくんとのお別れが、もうすぐやって来る。

 色づいた桜の樹々を見あげる遥斗の胸が、ぎゅっと軋んだ。

 秋がくると、冬まではあっという間だ。

 3年前はお別れが突然やってきて、もう涼真の隣が終わってしまうのかと泣いた。
 今回は3年もがんばりにがんばって、だめだったから、また泣いた。

 小学校のときのバレンタイン、あのとき、もうおしまいだと思ったのに、りょーくんの傍に、もう3年いられた。

 それは、たしかなよろこびだった。


「……高校は、違っちゃうかもしれないけど。たまには、いっしょに遊んでくれたら、うれしいな」

 涼真と一緒に歩く帰り道が、たまらなくいとしくなる秋の夕暮れだった。

 目を見開いた涼真は、遥斗を見つめる。


「……一緒の高校に、行くんじゃないの、か……?」

 夜空の瞳が、かすかに揺れた。

 ……一緒の高校に行きたい、そう、涼真は思ってくれたのだろうか。
 願ってくれたのだろうか。

 それだけで、遥斗は、めちゃくちゃうれしい。


「僕、めちゃくちゃ勉強したけど、白峰高校が限界だって。りょーくんは白王も余裕って聞いたよ。
 すごいよ、白王なんて。がんばってね、りょーくん。──いや、がんばらなくてもいいのか」

 さみしく笑う遥斗に、涼真は目をふせる。

 涼真が口を開くことは、少ない。
 だからこそ、話そうとしてくれるときは、なんとなくわかる。

 言葉を待った遥斗に、涼真が低い声で聞いた。


「……ハルは、俺と一緒の高校、いや、なのか……?」


 遥斗は息をのむ。

『たまに話したかと思ったら、なんてことを言うんだ!』

『りょーくんと一緒の高校に行くために、どれだけ机にかじりついたと思ってる!』

 叫べない遥斗は、ぶんぶん首をふった。


「まさか! ずっと一緒に登下校したい。
 ……あ、白峰と白王だったら、同じ沿線じゃない? 途中まで一緒に行けるかも!」

 はしゃぐ遥斗に、涼真は黙る。
 いつものことだから、気にせずに遥斗は話をつづけた。

「うちの中学から、白王に行ける人って、すっごい少ないって。一年にひとり、いるかいないからしいよ。
 りょーくんは、やっぱりすごいな」

「今度また、いっしょに勉強教えてね」

 まるでひとりで話しているようなのに、涼真はいつも、ちゃんと遥斗の話を聞いて、うなずいたり、首をふったりしてくれる。
 それだけで遥斗はうれしくなって、いっしょに帰る道が、とても、とても短くなる。

「また明日、りょーくん」

 あと何度『また明日』言えるだろう。

 残念ながらあまり伸びない背で、遥斗は涼真を見あげて、手をふった。


「ハル、白峰?」

「がんばったら」

 涼真は、うなずいた。


「がんばれ」

 遥斗は、瞬く。


「う、うん。がんばるね」

 こんなに涼真と会話したのは、とても久しぶりな気がした。

 勉強を教えてもらうときみたい。

 熱くなる頬で、遥斗は笑う。


「僕、がんばるよ、りょーくん!」


 涼真の行く高校には届かなくても。

 もう、涼真の隣には、いられなくても。

 がんばることは、きっと、ムダじゃない。
 








 白峰高校受験の日は、雪だった。

 たまにしか積もらないので電車が止まるかと思ったけど、何とか動いてくれていた。

「がんばってね、遥斗」

 両親の励ましの見送りにさえ、胃がきしむ。

 ぎこちなくうなずいて家を出たら、見慣れた人影に飛びあがる。


「りょーくん!? どしたの、はやいよ!」

 中学校に登校するには、はやすぎる時間だ。


「白峰。受験。一緒に行こう」

 ぽかんと口を開けた。


「……え、りょーくん、白峰受けるの?」

 こくりと、うなずいてくれる。


「滑り止めにしても、もっといい高校のほうがいいんじゃ……」

 ふるふる、涼真は首をふった。


「行こう」

 うながされて、あわてて涼真の隣に並んだ。

 のばした手を、涼真の手が握ってくれる。


 いつもの位置だ。
 いつもの涼真だ。

 緊張でガチガチだった心も体も、つながる指のぬくもりに、ふうわりほどけた。


「えへへ」

 笑ったら、涼真が振りかえる。


「いっしょに受験、うれしい」

 だらしなく、にやけた顔をしたと思う。
 ほんのすこし目を見開いた涼真は、つぶやいた。


「……俺も」

 ちいさな、ちいさな声だった。
 涼真の声ならどんなつぶやきも拾う遥斗の耳だからこそ聞こえた。

 確かに聞こえたのに、嘘だろうと思って、ほんとうかなと疑って、頬だけが熱くなる。


 ぎゅう

 涼真とつながる手をにぎる。

 ぎゅう

 応えるように涼真が手をにぎりかえしてくれる。


 がんばって覚えた英単語も数式も、何もかもが吹っ飛びそうな気がしたけれど。

「いっしょに、がんばろう、ハル」

 涼真が微笑んでくれたら、手をつないでくれたら。

 どこまでも、がんばれる気がするんだ。









 試験は、夢中でがんばった。

 どんな問題が出たかも覚えていないけれど、まあまあ回答できたと思う。

「心臓、口から出るかと思った」

 笑う遥斗のとなりで、涼真の唇の両端が、かすかにあがる。


「ハルなら、だいじょうぶ。ずっと、がんばってたから」

 しずかな、やさしい声に、泣きたくなった。


「……ありがとう、りょーくん」

 鼻の奥が、つんとした。






 電車に乗って、改札を出たら、雪交じりの北風が吹きつけた。

「さ、む──!」

 あわててコートの襟を立てたけど、寒い。
 おかしいな、と思ってはじめて、マフラーをしていないことに気づいた。

 受験会場に忘れてきたわけではなく、家に忘れてきたみたいだ。朝は、受験の緊張と、涼真と一緒に受験できるうれしさで、寒さを感じなかったらしい。
 受験が終わって、ほっとしたら、寒さがこたえるようになったのだろう。

「ん」

 涼真が差しだしてくれたマフラーに、跳びあがる。

「りょーくんが寒いよ!」

「ん」

 差し出しつづけてくれるマフラーを見つめた遥斗は、ふつうのマフラーより長くてあったかそうなマフラーの端っこを自分の首に巻いて、もう片方を涼真の首に巻いた。


「これだとふたりで、あったかいよ。くっついてないと、歩けないけど」

 笑う遥斗に、目をまるくした涼真も笑う。


「首が絞まるよ、ハル」

「じゃあ、やめる?」

 ひとつマフラーで繋がっているから、こんなに近くに涼真がいる。

 いつも使っているのだろうマフラーから、涼真の名のとおり、凛とした、すずやかな香りがする。


 ……りょーくんの、マフラーだ。

 さっきまで、りょーくんの首に巻かれていたから、まだほんのりあったかい。

 りょーくんの、体温だ。

 思うだけで、発火した。


 どきどきして、顔をうずめるマフラーは、りょーくんの香りがする。


 いつも一緒に帰っている涼真の隣は遥斗の定位置だったけれど、それでもここまで近づいたことはない。

 手を繋いで歩くときでさえ、もうすこし身体は離れていた。


 近すぎる涼真に、うっとりしてしまった遥斗は、自分から『マフラーを外す』とは言いだせなかった。

 ふたりで同じマフラーにくるまっていたいから。

 こんなに近いところにいる涼真を、離したくないから。


 涼真は、遥斗のいたずらみたいな『いっしょにマフラー』に、顔をしかめたり、態度や視線で、いやそうにしたりしなかった。

「ちょっと、歩きにくい」

 ほんのり朱いまなじりで、ぽそりと言っただけだった。


「……はずす……?」

 ほんとは全く全然聞きたくなかったことを、心配で思わず聞いてしまった。


「さむい」

 ……たしかに。

 おかしくて、笑ってしまった。


 涼真にとったら、寒いから、ふたりで一緒のマフラーにくるまるのも、やぶさかではないのだろう。

 そこには『ともだちだし、幼なじみだし、まあいいんじゃないか』という透きとおった感情だけがあった。

 遥斗の『すこしでも傍にいたい』『傍にいられたら、うれしい』あまい熱と香る恋慕とは、まるで真逆だ。



 ──まったく脈がない。

 わかっていても突きつけられるとショックだろうと思うのに、遥斗は笑っていた。


 涼真らしい。



「僕もさむいから、もちょっとゆっくり歩いて、りょーくん」

 笑ってマフラーを引っ張ったら、涼真が引っぱりかえす。


「ハルが、速く歩けば?」

 おお、今日はいっぱい話してくれる! うれしい!

 りょーくんのマフラーに顔をうずめた遥斗は、にまにま笑ってしまう。


「雪で滑って危ないだろ」

 ほんとうは、涼真とくっつく時間がのびればいいと願うだけ。


「じゃあ、運命共同体」

 ほんのり笑った涼真が、遥斗の手をにぎる。


「ころぶときは、いっしょだ」

 とくりと胸が、音をたてる。



 幼稚園の運動会のときみたいに。


 鼓動が、跳ねるたび

 きみが、笑ってくれるたび

 きみが、手をつないでくれるたび


 きみに、恋に、落ちてゆくんだ。










しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

処理中です...