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おちる
しおりを挟む「ご、ごめん! バイトしてるときはマナーモードで、バイブも切ってるんだ。解除するの、忘れてた!」
あわてて謝った俺にも、真紀の激おこは止まらない……!
「いちばん問題なのは、浮気だろう!」
しかる真紀の瞳が、揺れている。
泣きだしそうに。
「幼なじみの友樹が、しょんぼりな俺に、ココアをおごってくれただけだよ!
真紀ちゃんこそ、あんなにきれいな人とふたりで夜ご飯なんて……うわ、き……」
口にするだけで、泣きそうだ。
……いや、泣きそうじゃない。
泣いてる。
だいすきな真紀ちゃんが、涙の向こうで揺れている。
「……愛希を泣かせたら、ゆるさねえから」
大地を這う友樹の声に、びっくりした俺は跳びあがって、真紀は眉をひそめた。
「さっき一緒に飯を喰ったのは、いとこだ。同じ会社で働いてて、ややこしいプログラミングが終わったから、打ちあげ。誓って何にもない」
宣誓するように手をあげた真紀が、息を吸う。
「泣かせないなんて、無理だろう。
誤解して、泣くことだってある。……俺も」
ささやきが、夜に消える。
……ほ、ほんとに、いとこ……? 何でもない……?
いや、真紀ちゃんを信じるって思ったけど──!
で、でも、すごく、すごく、お似合いだった……!
泣きそうな俺、いや泣いている俺に、真紀がつづける。
「泣かせたら、ちゃんと誤解を解いて、また笑ってほしいって思う。
それが、つきあうってことじゃないのか」
まっすぐな声だった。
相手が高校生だからとか、子どもだからとか、ごまかすことの一切ない、真摯な声だ。
「違う人間なんだから、絶対にすれ違うし、喧嘩もするし、泣いたりするだろう。同性同士だから、今は正式に伴侶になれないし、差別されることもあるかもしれない」
真紀の言葉が、夜を揺らす。
「それでも、くるしいことも、かなしいことも、愛希となら、一緒に乗り越えていきたい。
どんなにいやな思いをしたって、ずっと愛希のそばにいたい」
真紀の言葉が、沁みてゆく。
「愛希を、あいしてる」
頬を伝う涙が、熱い。
「真紀ちゃんを、あいしてる……!」
涙でぐしゃぐしゃの顔で抱きついたら
「……こんなときまで、まきちゃんか……」
ほんのり照れたまなじりで、抱っこしてくれた。
あなたの香りがする。
頭の芯まで、とろけてしまいそうな
心の奥まで、とかされてしまいそうな、あなたの香りが。
抱っこされたら
あなたのぬくもりに、つつまれたら
どこまでも、あなたに、落ちてゆくのです。
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