【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
17 / 21

おちる

しおりを挟む



「ご、ごめん! バイトしてるときはマナーモードで、バイブも切ってるんだ。解除するの、忘れてた!」

 あわてて謝った俺にも、真紀の激おこは止まらない……!


「いちばん問題なのは、浮気だろう!」

 しかる真紀の瞳が、揺れている。
 泣きだしそうに。


「幼なじみの友樹が、しょんぼりな俺に、ココアをおごってくれただけだよ!
 真紀ちゃんこそ、あんなにきれいな人とふたりで夜ご飯なんて……うわ、き……」

 口にするだけで、泣きそうだ。

 ……いや、泣きそうじゃない。

 泣いてる。


 だいすきな真紀ちゃんが、涙の向こうで揺れている。


「……愛希を泣かせたら、ゆるさねえから」

 大地を這う友樹の声に、びっくりした俺は跳びあがって、真紀は眉をひそめた。


「さっき一緒に飯を喰ったのは、いとこだ。同じ会社で働いてて、ややこしいプログラミングが終わったから、打ちあげ。誓って何にもない」

 宣誓するように手をあげた真紀が、息を吸う。


「泣かせないなんて、無理だろう。
 誤解して、泣くことだってある。……俺も」

 ささやきが、夜に消える。



 ……ほ、ほんとに、いとこ……? 何でもない……?

 いや、真紀ちゃんを信じるって思ったけど──!

 で、でも、すごく、すごく、お似合いだった……!


 泣きそうな俺、いや泣いている俺に、真紀がつづける。


「泣かせたら、ちゃんと誤解を解いて、また笑ってほしいって思う。
 それが、つきあうってことじゃないのか」

 まっすぐな声だった。

 相手が高校生だからとか、子どもだからとか、ごまかすことの一切ない、真摯な声だ。


「違う人間なんだから、絶対にすれ違うし、喧嘩もするし、泣いたりするだろう。同性同士だから、今は正式に伴侶になれないし、差別されることもあるかもしれない」

 真紀の言葉が、夜を揺らす。


「それでも、くるしいことも、かなしいことも、愛希となら、一緒に乗り越えていきたい。
 どんなにいやな思いをしたって、ずっと愛希のそばにいたい」

 真紀の言葉が、沁みてゆく。


「愛希を、あいしてる」


 頬を伝う涙が、熱い。


「真紀ちゃんを、あいしてる……!」

 涙でぐしゃぐしゃの顔で抱きついたら


「……こんなときまで、まきちゃんか……」

 ほんのり照れたまなじりで、抱っこしてくれた。
  




 あなたの香りがする。


 頭の芯まで、とろけてしまいそうな


 心の奥まで、とかされてしまいそうな、あなたの香りが。




 抱っこされたら


 あなたのぬくもりに、つつまれたら


 どこまでも、あなたに、落ちてゆくのです。









しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

処理中です...