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ゼァル
ゼァルの愛?
しおりを挟むキーアとゼァルが正式な伴侶になるには、キーアの18歳の成人を待たなくてはならない。
ふつうなら、一緒に暮らすと、えちえち生活を送っていると思われて白い目で見られてしまう。主に、ゼァルが。
しかし、ゼァルの信頼は、天を衝きぬけている。
「ゼァル将軍が無体など、なさるわけがない!」
「万一何かあったとしても、それはキーア・キピアが誘ったからであって、ゼァル将軍は無罪だ!」
「寝室も別だって」
「さすが将軍!」
「ゼァル将軍なら、間違いなど起こりようがないな!」
というわけで、家族の愛はたしかにあったものの、ゼァルとしてはあまり居心地のよくなかったという大公宮から、ちっちゃなキピア邸へと引っ越してきてくれた。
「……キーアといっしょに、いたいから」
手を握ってくれた。
……いやもう、絶対、夢だよね……?
つねるほっぺは、今日も痛い。
最愛の推しに、もっとも愛する人に、抱きついても、叱られない。
「ちゅう」
キーアが突然キスしても、叱られない。
ふた色の瞳をやさしくほそめて、笑ってくれる。
「キーア」
低くあまくかすれる声で名を呼んで
ちゅ
あまいくちびるをくれる。
夢だとしか思えないのに、ゼァルはあったかくて、やわらかくて、笑ってくれて、とろけそうにいい香りがする。
うっとりしても、うっとりしても、まだうっとりしてしまうくらいかっこよくて、とろけてしまうくらい、やさしい。
いつも夢みたいにぽわぽわしてしまうけれど、夢じゃ、ない、のかな。
見あげる瞳は、やさしい鋼と紫だ。
「……将軍になんて、向いてないんだ」
しょんぼりするゼァルに、キーアは微笑む。
「無理して、したくないこと、しなくていい。ゼァルがしたいこと、しよう。
今までしたくてもできなかったこと、ぜんぶ、一緒にしよう!」
抱きしめたら、鋼と紫の瞳が輝いた。
「じゃあキピア家の領地経営がしたい」
おぉお……? そ、そうなの?
「ま、まことでございますか、ゼァルさま……!」
ヨニが歓喜の涙をこぼしそうだ。
そう、スーパー執事ヨニが今までがんばってキピア家の公都での公務をすべてこなしてくれていたんだよ……!
「お、俺も一緒に勉強する!」
ちょっと苦手だし、心配だけど、ゼァルといっしょなら、がんばれる気がする……!
手をあげるキーアの頭を、ゼァルもヨニもなでなでしてくれた。やさしい。
ゼァルは武術より学術を極めたいみたいだけれど、せっかくここまで鍛えあげたのに、休むとすぐなまってしまって、もったいないから。
「かるい運動だけしようよ。俺と手合わせして!」
誘ったら、渋々だったゼァルが、キーアの双剣の振り抜きを見た瞬間、目を変えた。
「……なるほど」
喉を鳴らすゼァルに首をかしげる。
「皆がキーアに夢中になる意味がわかった」
「え?」
「こんなに可愛いのに、こんなに強い」
微かに笑みをえがいた唇が、引き結ばれる。
ゼァルのまとう、大気が変わる。
「参る──!」
「きゃ──!」
BLゲームのスチルを遥かに凌駕する圧倒的かっこよさを拝んでる場合ではないのです──!
見えないほど、速い……!
風圧と感覚だけを頼りに交差させた双剣を振りあげた。
ガキィイイイン──!
鍔さえ削れそうな衝撃に、腕がしびれた。
必死で受け止める剣が、重い……!
「やはり、止めるか」
ゼァルが、ちいさく笑う。
「止められたのは、はじめてだ」
「そ、そんな一撃必殺を、伴侶(予定)にお見舞いしないで……!」
涙目なキーアに、ゼァルは笑った。
「キーアなら、絶対止めると信じていたから」
ゼァルの愛と信頼が重たいです。
……剣の衝撃という意味で、物理的に。
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