【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ

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ほんとうに?




「カティも俺も平民なんです」

 告げたルティに、クヒヤはこともなげに、うなずいた。

「知ってる」

「あまりきれいなところじゃないし、ごちゃごちゃしてますけど、俺とカティが育った町です」

「いい町だ」


 水の瞳をほそめるクヒヤには、厭悪も蔑みも、何もなかった。

 ただやさしい、あたたかな瞳が、カティとルティの暮らす街を見渡した。


「これから買い物するんです。もしよかったら、色々ご説明しましょうか」

 微笑んで見あげたら、クヒヤは首を振った。

「やめておくよ」

「平民とは一緒に歩きたくない?」

 確かめるように、ルティは水の瞳をのぞきこむ。


「まさか! 厚遇されておいて言う言葉じゃないかもしれないが、人間のつくった身分に意味などない」

「では、俺が気に入らない?」

 笑ったルティに、目を剥いたクヒヤは首をふる。

「まさか! ああ、誤解させてしまったね、申しわけない」


 他国の王族が、平民に対して謝ってくれたことに、息をのむ。


「もしカティが、ルティと僕が一緒に買い物をしているところを見たら、悲しむかもしれないと思ってね。
 カティを苦しめる可能性のあることなど、ひとつもしたくないんだ」


 ……え、ちょっと待って。

 愛があふれてるよ、カティ……!



「カティとは、その、親しくしてくださっているのですか……?」

 そうっと聞いたルティに、クヒヤは涼やかな眉をあげた。


「いや、全然。めちゃくちゃ避けられてる」

 清かな水が流れるような、かろやかな声をたててクヒヤが笑う。
 とても、楽しそうに。


「そんなことをされたのが初めてで、とても新鮮でね。目が離せないんだ」

 逃げられると、追いかけたくなるらしい。

『ハンターですね』

 前世の言葉を口にしそうになって、ルティはあわあわ口をつぐんだ。

『狩人ですね』っていうのも、他国の王子に対して不敬だから!

 ……でも、不敬とか、気にしないでくれるのかな?

 もしかして、クヒヤ殿下は、いい人なのかも……?

 言ってみる……?


「狩人なんですね」

 多少のことはゆるしてもらえる、カティにそっくりな笑みを浮かべてみた。

 水の瞳が、まるくなる。

 クヒヤの顔は、朱くならない。
『カティ!』血迷って抱きついてきたりしない。

 ただルティの言葉に驚いたように、瞬いた。


「……ああ、うん、今まで与えられるばかり、寄ってくるばかりで、そんなことを考えたこともなかったのだけれど。そうなのかもしれない」

 照れくさそうに、楽しそうにクヒヤが笑う。

 今まで『カティ!』攻略対象に叫ばれてばかりだったルティの、クヒヤの評価は急上昇した。


 だからこそ、聞きたくなる。

「カティに逃げられているなら、お話する機会を設けましょうか?」

 クヒヤは楽しげに唇の端をあげた。


「諾と言えば、カティに逢わせないようにする気だろう?
 そういう駆け引きは恋人とするといい。他の人にしては、侮辱になる」

 ぜんぶ、見抜かれてた……!


「……っ 申しわけありませんでした──!」

 深々と頭をさげたら、クヒヤは笑った。


「いや、兄君に近づこうとする男を牽制する弟君の気もちを、尊くおもうよ。
 カティの弟君だから大目に見てしんぜよう」

『無礼だったから』そう言って平民の首を飛ばせるのが王族なのに、笑ってゆるしてくれるクヒヤに、顔をあげたルティは、ふたたびうやうやしく頭をさげる。

「寛大なお言葉を、ありがとうございます、クヒヤ殿下」

「またね、ルティ」

 かるく手をあげたクヒヤがきびすを返す。
 すぐに護衛なのだろう騎士たちが近づいてクヒヤを守り、ちいさくなる背を見送った。


 ……カティを愛してくれているのかな。ほんとうに……?


 ぼんやりしていたら、名を呼ばれた。


「ルティ!」

 抱きつかれた衝撃に、よろめいた。






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