【完結】オメガの俺に、推しの愛が届かない

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
16 / 26

ひどい

しおりを挟む



 * * *


「お前のために護衛を雇ったら赤字になるからな。幽霊だと思われとけ」

 オメガな俺の親父が、ひどすぎる件について!

 知ってた!


 馬車に揺られた俺は、貴族街に入る前に捨てられそうになった。

「じゃあな!」

「じゃあな、じゃねえよ。その屋敷が、どこにあるかも知らねえよ。送ってけ!」

 かみつく俺に、親父はびっくりしたらしい。


「……いや、ルゼ、おまえほんとに、突然つよつよになったな……たおやかで、かわいいルゼが……!」

「ちょっと大人になったんだよ」

 口がね。

 口だけね。


「よくやった、ルゼ!
 この調子で、金づるをつかむんだぞ!」

 ぽんぽん俺の肩をたたいた親父が、俺を馬車から無理やり降ろそうとする件について。

「ひどくない!?」

「何言ってんだ。お前はこれから幽霊になるんだ。
 どこの幽霊が、高位貴族の馬車で幽霊屋敷に乗りつけるんだ!」

 親父にしては、まともなことを言ってる。

 ……いや、ぜったい、これ以上、俺を馬車に乗せたくないだけだ!


「ちょっと待て、地図を書いてやるからな。それを見て行け。
 まあ、迷わんだろう。見たらすぐわかる。幽霊屋敷だから!」

「ひどくない!?」

 涙目な俺は、きちゃない地図き、いつでも屋敷が使えるようにいつも持っているらしい鍵を渡され、馬車から降ろされた。

 ひどすぎる!

 知ってる!




 仕方なく夜明けに近づく街を、ぽれぽれ歩いて、貧民街の隅で借りていた自室に戻る。
 セキュリティやばやばの、襲ってくださいな部屋とは、これでお別れだ。

 少ない荷物をまとめ、朝になってから部屋を引き払い、荷物をかついで郊外までやってきた。
 歩くことはできる俺。えらい。

 地図のとおりに歩いていったら、閑静な住宅街になり、それを越えて、郊外の森に近づいたら、ようやく邸らしきものが見えてきた。

 もう昼だよ!
 いくら健脚な俺でも、きつい……!


 近づいてみたら、建っているのが不思議なほど、崩れそうな屋敷だった……!

 ……え、やばくない……?

 命の危険を感じるレベルなんですけど──!


 ……しかし、不気味な幽霊屋敷ではあるものの、いちおう閑静……いや、周りに畑とか森しかない王都郊外にある。王都の貧民街の片隅で、いつ襲われるかと恐々としながら暮らしているより、ずっといい。

 ごくりと喉を鳴らした俺は、近くの森にのみこまれてしまいそうなボロボロの幽霊屋敷に足を踏みいれた。

「……いや、これ、鍵の意味が、なくね……?」

 ぼーぼーの草が、地面だけじゃなくて、屋根からも生えてるだけなら、かわいい。見たことある。癒される。

 しかし!
 家の中から、窓を突き抜けてもしゃもしゃ草が生えてるのは、どうよ!?
 家のなかに草が生えてる……!

 屋根に穴が開いてるから!
 植物の生える家!

 おしゃれな、あれじゃないから!
 屋根に穴だから!

 ふりーだむ!


「……夏はいいけど、冬、どうするの……?」

 ひきつった頬が、ひくひくしてる……!


 ちょっと泣きそうになった俺は、親父の厳命

『掃除するな!』

 を思いだした。

『きれいになってみろ、誰かが引っ越してきたんだなって思われるぞ。幽霊屋敷に、ひとりで成人したオメガが住んでる、助けなんて来ない、襲われ放題になるぞ──!』

 こわい顔をされた。
 もともとすごい顔が、ホラーなことになってた。


『……いや、うん、たすけの来る、警備が厳重な、いちおう高位貴族の邸の隅っこに置いてくれないかな……』とか言っても、このくそ親父が絶対に聞いてくれないのは分かってる。

 自分の身は、自分で守るしかない!

 やってやるぜ!


 というわけで、掃除しない。

 ぼーぼーの草と共生だよ。


「よろしくな、草! いっしょに住むことになったルゼだ」

 あいさつしてみた。

 肩のうえで、風の精霊のシフィが笑ってる。







しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

処理中です...