【完結】オメガの俺に、推しの愛が届かない

  *  ゆるゆ

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きみがいない

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  * * *   


 俺が傷ついている間に、ルゼは逃げた。

 アルファの俺が、身体能力に自信のある、魔導騎士の俺が全力で追いかけたのに、びっくりするほど足が速い。

 ……え……?
 ほんとにオメガか──!

 のけぞる間さえなかった。

 闇に溶けるように、きみがいなくなる。


 ……俺のオメガが、消えてしまった。



 ルゼは俺の魂のつがいだ。
 誰が何と言おうと、ルゼが違うと言ったら泣いてしまうけど、それでもぜったい、ルゼは俺のつがいだ。

 いなくなったら、儚くなってしまう。


 ルゼを知らないうちは、ルゼなしで生きていける。


 なのに、きみの香りで胸を満たして。

 きみを抱きしめて。

 きみと唇を重ねたら。


 もう、きみなしで、生きていけない。




 半狂乱になった俺は、『ルゼ』を探した。

 ふだん一人でいることの多い、孤独が大すきな俺が、突然貴族の茶会だの舞踏会だのに参加し、手あたり次第、会う貴族すべてに聞いた。

「誰か『ルゼ』の家名を知らないか?」

「息をのむような夜空の目をしてる」

「とても華奢で、はかなげで、白い花のようなオメガだ」

 足は豪速だけど。
 つよつよな感じだけど。

 でもきみは、白い花のようだった……!


 血走る目で、泣きそうな目で、懸命に探すのに

「ルゼ?」
「知らないなあ」

「貴族のオメガなら全員知ってるけど、そんな名のオメガはいないぞ」

「夢でも見たんじゃない?」
「わるいクスリでもしちゃったの?」

 誰も『ルゼ』を知らなかった。



『ルゼ』
 きみが教えてくれた名さえ、いつわりなのかもしれない。

 ……俺は、きみに、名も教えたくないほどに、厭われてしまったのだろうか。



 俺はもう、きみが隣にいてくれないと、泣いてしまうのに。





 大地にめりこみそうなほど落ちこみつつも、舞踏会で聞き込みを続けていたら、またあの桃色頭の少年がやってきた。

 えぇ……?

 また来たの……?

 まあでも、きみのおかげでルゼに逢えたんだから、わるいことばかりでもない、か……?

 首をかしげていたら

「今度こそ! くらえ!
『オメガの蜜』──!」

 あやしい小瓶の中身をぶっ掛けられそうになった。


 さすがに、三度目だからな。うん。
 ルゼにも、気をつけるように言われていたからな。うん。

 つがいの言うことは、ちゃんと聞く。
 これぞアルファ!

 オメガの尻にしかれたい!
 これがアルファ!


 しゃっと、あやしい雫を避けて、現行犯で衛士に突きだしておいた。

「えぇえええ──! そ、そんな……! え、僕、課金アイテム使っただけ……!
 犯罪じゃないよ……!
 ぎゃ──!」

 泣いてた。

 自分の所業を深く反省してほしい。
 まあでも、ルゼに逢わせてくれたことだけは、感謝しておこう。






 筆頭上位貴族の次期当主な俺が、王宮舞踏会でオメガに違法な発情誘発剤をぶっかけられそうになって、相手が捕まったというのは、ちょっとした騒ぎになった。 

「いやあ、ジーク、もてるのも大変だな!」

 肩をぽんぽんしてくれたのは、さらさらの陽の髪に彩られた陽の瞳がきらめく、ほんとうにきらきらしい青年、エーテ王国の王太子だ。
 いちおう側近に加えてくれているので、気軽に声をかけてくれる。のは、ありがたいのだが……

「……殿下、なぜ、庶民の服をお召しに?」

 王宮の最奥近く、王太子殿に、きらっきらの顔面の王太子が、王都の貧民が着るような服を着ているのは、どうなのかな?

 さらに、きらきらの顔面のくせに、着こなしてるみたいですけど?

 さらに、着慣れている感が出てるんですけど?

「何やってんの、あんた」

 つっこんでしまった!





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