【完結】オメガの俺に、推しの愛が届かない

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
20 / 26

ぜったい

しおりを挟む



 あんぐり口を開ける俺に、エテナ王太子殿下が笑う。

「あんぽんたんだなあ、ジーク! 貴族の言うことなんて聞いてたって、国はちっともよくならないんだよ!
 民の生の声を聴くことこそが、国を変える力になるんだ!」

 拳をかかげる王太子は、立派だ。
 頭もよい。性格も、まあよい。志も、よい。
 それは尊敬するけれど。

「いや、うん、顔に『今から遊びに行きます』って書いてあるけど?」

 つっこんでみた。

「遊びと実益を兼ねるんだよ。これこそ査察!
 ジークも行ってみよー!」

 元気な王太子に手をひかれる。

 人を振りまわすことさえ、かわいいとか、頼りにされてるなんてと、うれしくなってしまったりするエテナはきっと、愛され王太子なのだろう。

 大陸のなかで小国が生き残ってゆくために大切なのは外交力だ。
 どれだけ他の大国に『……まあ、エテナかわいーから、攻撃しないでおいてあげよう♡』と思ってもらえるかに掛かっている。

 国をかけて愛され体質を磨いてきた王家の力の結集と言えるのだろう。

 桃色頭の少年の違法薬物使用で叶う愛され体質ではなく、綿々と受け継がれ、研ぎ澄まされてきた愛され体質!

 もちろん、ジークもエテナには弱い。

 しかし、お忍びでお出かけとか、やったことないんですけど……!

「……え、いや、俺は庶民の服を持っていなくて──」

「僕が用意してある! 僕のおつき兼護衛という、栄誉な役を与えてやろう!」

 ふんぞりかえる王太子が、かわいい。

 が。

「もし万一、殿下がおけがでもしようものなら、俺の首が飛んでゆくあれでは?」

 だよね?

「まちがいない!」

 王太子が、とってもいい笑顔です。





 ひどいな!

 思いつつも、俺はエテナの護衛兼、お目付け役で王都にやってきた。
 いつも買い物は従僕たちがしてくれるし、馬車で通りすぎるだけで、街を歩いたことはない。

 にぎやかな呼び声と、いろんな香り、たくさんの人が楽しそうに歩いているのに、びっくりする。

「おー! えーちゃん、いらっしゃい!」

「おいしい桃が入ったんだよ! 買ってって!」

 笑顔で王太子殿下に声をかけてくる王都の人にはもっと、びっくりだ。


「……皆、あなたが王太子だって知ってるんですか」

 そうっと聞いたら、エテナは首をかしげた。

「知ってる人も、知らない人もいるんじゃないかな。いちおう式典で手を振ったりするからね」

 にこにこしてる。

「じゃあ、桃をひとつもらおうかな」

 しゃっと巾着から小銭を出すことまで、慣れてる!


「……びっくりしました」

 のけぞる俺に、エテナが笑う。


「ジークが、ものすごーく落ちこんでるから、元気が出たらいいと思って。
 魂のつがいのオメガに逃げられたの?」

 心配そうに小首をかしげて聞いてくるエテナは、かわいい。

 が。

「……元気を出させたいのか、傷をえぐってくるのか、どっちですか──!」

 涙目で叫んだときだった。


 桃の匂い、馬の匂い、焼き串の匂い、たくさんの匂いであふれる城下町で、爽やかで涼やかなのに脳髄からとろけてしまいそうな、きみの香りがする。



「ルゼ──!」

 叫んだ瞬間、駆けだしていた。




 アルファの嗅覚を、なめるな。

 ぜったいに、きみを、つかまえてみせる──!








しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

処理中です...