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ぜったい
しおりを挟むあんぐり口を開ける俺に、エテナ王太子殿下が笑う。
「あんぽんたんだなあ、ジーク! 貴族の言うことなんて聞いてたって、国はちっともよくならないんだよ!
民の生の声を聴くことこそが、国を変える力になるんだ!」
拳をかかげる王太子は、立派だ。
頭もよい。性格も、まあよい。志も、よい。
それは尊敬するけれど。
「いや、うん、顔に『今から遊びに行きます』って書いてあるけど?」
つっこんでみた。
「遊びと実益を兼ねるんだよ。これこそ査察!
ジークも行ってみよー!」
元気な王太子に手をひかれる。
人を振りまわすことさえ、かわいいとか、頼りにされてるなんてと、うれしくなってしまったりするエテナはきっと、愛され王太子なのだろう。
大陸のなかで小国が生き残ってゆくために大切なのは外交力だ。
どれだけ他の大国に『……まあ、エテナかわいーから、攻撃しないでおいてあげよう♡』と思ってもらえるかに掛かっている。
国をかけて愛され体質を磨いてきた王家の力の結集と言えるのだろう。
桃色頭の少年の違法薬物使用で叶う愛され体質ではなく、綿々と受け継がれ、研ぎ澄まされてきた愛され体質!
もちろん、ジークもエテナには弱い。
しかし、お忍びでお出かけとか、やったことないんですけど……!
「……え、いや、俺は庶民の服を持っていなくて──」
「僕が用意してある! 僕のおつき兼護衛という、栄誉な役を与えてやろう!」
ふんぞりかえる王太子が、かわいい。
が。
「もし万一、殿下がおけがでもしようものなら、俺の首が飛んでゆくあれでは?」
だよね?
「まちがいない!」
王太子が、とってもいい笑顔です。
ひどいな!
思いつつも、俺はエテナの護衛兼、お目付け役で王都にやってきた。
いつも買い物は従僕たちがしてくれるし、馬車で通りすぎるだけで、街を歩いたことはない。
にぎやかな呼び声と、いろんな香り、たくさんの人が楽しそうに歩いているのに、びっくりする。
「おー! えーちゃん、いらっしゃい!」
「おいしい桃が入ったんだよ! 買ってって!」
笑顔で王太子殿下に声をかけてくる王都の人にはもっと、びっくりだ。
「……皆、あなたが王太子だって知ってるんですか」
そうっと聞いたら、エテナは首をかしげた。
「知ってる人も、知らない人もいるんじゃないかな。いちおう式典で手を振ったりするからね」
にこにこしてる。
「じゃあ、桃をひとつもらおうかな」
しゃっと巾着から小銭を出すことまで、慣れてる!
「……びっくりしました」
のけぞる俺に、エテナが笑う。
「ジークが、ものすごーく落ちこんでるから、元気が出たらいいと思って。
魂のつがいのオメガに逃げられたの?」
心配そうに小首をかしげて聞いてくるエテナは、かわいい。
が。
「……元気を出させたいのか、傷をえぐってくるのか、どっちですか──!」
涙目で叫んだときだった。
桃の匂い、馬の匂い、焼き串の匂い、たくさんの匂いであふれる城下町で、爽やかで涼やかなのに脳髄からとろけてしまいそうな、きみの香りがする。
「ルゼ──!」
叫んだ瞬間、駆けだしていた。
アルファの嗅覚を、なめるな。
ぜったいに、きみを、つかまえてみせる──!
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