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……え……?
しおりを挟む全速力で走った。
エーテ王国で最強の魔導騎士の俺の足をなめるな──!
……いや、ルゼのほうが速かったけど……!
ちょっと涙目になりながら、ルゼの香りがしたほうへ爆速で走った。
「ルゼ──!」
叫んで、つかまえて、振り向かせたら──…………え…………?
夜の髪が、陽の光にくすんだように揺れた。
──きみじゃ、ない。
……俺が追いつける時点で、ルゼじゃないとか、聞こえない──!
「…………え…………?」
突然肩をつかまれて、振り向かせられた通りすがりの人も、もさもさの夜の髪とちいさな青い目をまるくして驚いてる。
……たぶん、この人はベータだ。オメガじゃない。
お互いにきょとんとして、ぼうぜんと見つめあってから、気まずく俺は咳払いした。
「す、すまない。きみから最愛の人の香りがして──そ、そうだ、きみはルゼを知っているか? 親しいのだろうか」
メラメラやきもちが燃えてる気がするけど、はげしくメラッメラな気がするけど、なんとかこらえて微笑んで聞いてみた。
口元が引きつってて、にらみつけてるかもしれないけど、ゆるしてほしい。
だってルゼと仲よしだなんて、うらやましすぎる──!
肩をつかんで揺さぶる勢いで聞いた俺に、とまどうように相手の目がさまよう。
「……え、いや、知りませんけど」
………………知らないの?
『よかった! ルゼと仲よくなかった!』じゃ、ない──!
「で、でも、きみからルゼの香りが──」
くんくんしてみた。
やっぱりする。
ルゼの匂いだ。
爽やかで、涼やかなのに、ほんのりあまい。
最愛の魂のつがいの香りを、アルファな俺が、かぎわけられないはずがない──!
ふふん、俺の鼻、すごい。犬を超えるかも──!
ううーん、この香りはどこから……?
「ちょっと身体をさわってもいい?」
「な、ななななにするんですか──!」
うれしそうな紅い頬で叫ばれてもな。何にもしないよ。身体検査だ!
というか、匂い検査だな。うん。
くんくんさせてください。
「……ジーク……!」
突然駆けだした俺を追いかけてきてくれたらしい、ぜえぜえしながらエテナがやってくる。
「……はや、すぎ……!」
「いや、遅い。俺のオメガは、つかまえられないから」
「……それって、ほんとにオメガなの……?」
エテナの目が、不審になってる。
「た、たすけてください、突然この人が俺のこと──!」
真っ赤な顔で、もじもじしてる。
「うれしそうだね?」
エテナのつっこみに、もじもじが加速してる!
「まあまあ、ちょっとだけ」
くんくんしてみた。
ふんふん
くんくん
「わかった! ここだ!」
胸からルゼの匂いがする!
「あぁん♡ やだ♡ 責任とってください♡」
うれしそうだね?
「いや、胸をかいだだけだから。これは?」
胸にさしてあったのは白い布だ。愛らしい花の刺繍がついている。
「あ、ああ、これ。知らないんですか? いま王都で大流行の、幸運を呼ぶお守りなんですよ。
こんなかっこいー人が俺を追いかけて走ってきてくれるなんて、ほんとに幸運を呼んでくれた! すごい!」
きゃわきゃわしてる。
「どこで買ったのか、教えてくれる?」
「えー♡」
もじもじしてる!
「金貨で頬を叩いたら教えてくれるか?」
ぺちぺちしてみた。
「くぅう──!」
泣いてる。
まちがったらしい。
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