【完結】残念な悪役の元王子に転生したので、何とかざまぁを回避したい!

  *  ゆるゆ

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おまけのお話

月がきれいです

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 ようやく涼しくなって、秋らしくなってきた夜に、月の光が降りてくる。
 おんぼろ寮のちいさな部屋から夜空を見あげた俺は、ディーの手を引いた。

「ディー、月がきれいだよ」

 顔をあげたディーの蘇芳の髪が、月の光にきらめいた。

「俺、あんまり知らないんだけど、前世の世界でね『月がきれいですね』って『あなたがすきです』っていう意味なんだって」

 月明かりに透ける緋の瞳が瞬いた。

「へえ」

 そっけなく呟いたディーのまなじりが、ほんのり朱に染まる。
 伸びた長い指が、俺の手を握ってくれる。

 秋の夜に懸かる月は、いつもより輝いて、いつもより清かに見える気がするのは、名月と謳われるからだろうか。

 春も夏も冬もきらめく月は、あなたの隣で見るから、こんなに愛しい。

「……月、きれい、だな」

 ぽそぽそ、ちいさな声がした。
 尖った耳を真っ赤にして、ディーが手を握ってくれる。

「ディー、だいすき!」

 ぎゅう、と抱きついたら

「……俺も」

 紅い頬で、抱き寄せてくれた。




 ふたりで並んで、月を見あげる。

 いつもディーに夢中で、振り向いてほしくて必死だったから、ふたりで一緒の穏やかな時間なんて、あまりなかった気がする。

 今も、どきどきしてるから、ほんとはちっとも穏やかじゃないけど。

 顔が熱くて、鼓動がうるさくて、繋がる指が、たまらなく甘い。

 指がふれるだけで、心がつながるわけじゃないのは解ってる。
 でも、きゅ、と握るたび、ぎゅ、と握り返してくれたら、その目に俺を映してくれたら、鼓動が跳ねて、吐息が溶けて、どんどんディーしか見えなくなる。

 熱い頬を隠すように、笑う。

「お月見って、お団子つくるんだ。月を見ながら食べる」

「ふうん」

「明日、一緒につくる?」

「……リユィがしたいって言うなら」

 ぽそぽそ呟くディーの耳が紅い。

「ディー、かわいー!」

 抱きついたら、抱きしめてくれる。

「リユィが、かわいー」

 赤い頬で、笑ってくれる。

 瞳が重なって、ふうわり唇が重なった。

 心まで、繋がるわけじゃない。
 ディーのことを、ぜんぶ解ってあげられるわけじゃない。


 でも、指を、唇を、身体を重ねるたび

 だいすきが、降り積もって

 ディーでいっぱいに、なってゆくから


「ディーも、俺でいっぱいになったらいいのに」

 精悍な頬に指をすべらせて囁いたら

「俺の台詞」

 唇が、くっついた。


 すぐにとろけて、訳がわからなくなっちゃうから、うなじを滑ってゆくディーの指をつかまえる。

「だめ。今日は、お月見なの」

 からめたディーの指先に口づけて、笑う。
 ふわ、と紅くなったディーが指を抜こうとするのを、ぎゅっと掴んで止めた。

「だめ」

 笑ったら、真っ赤になったディーが、掴まえていない方の大きな掌でちいさな顔を覆う。

「……生殺しか」

「どきどきするから、もっと月がきれいに見えるよ」

 ディーを抱っこして、笑う。


 もっと、もっと、だいすきになるから

 もっと、もっと、だいすきになってね



 伝わったかな



 尖った耳の先まで真っ赤になったディーが

 ぎゅうぎゅう、抱きしめてくれた。




 今日も、月が、きれいです。








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