82 / 149
がんばるよ
しおりを挟むじっと僕は筋肉さんを観察してみた。
つやつやしてる──!
もりもりしてる──!
すごい!
じゃなかった!
ていねいに筋肉を……身体を見回してみたけれど、眠り王子には、セゥスさまやトトラみたいに、真っ暗なもやが見えたりしない。
ただ、やすらかに眠っているように見える。
呼吸も心音も脈も問題ないみたいだ。
だからこの世界の医士も、どこがわるいのか、わからなかったのだろう。
元第一王子の寝台のそばに座った僕は、そっとたくましい手をにぎる。
目を閉じた僕は、僕の体の中にある魔力と、世界に満ちる魔素を混ぜて、ちいさなちいさな緑のひかりをつくってゆく。
眠る王子の魔力を邪魔しないくらい、僕の魔力はちいさいから。
きっと、そうっと、入りこめる。
つないだ手から、そっと、そっと、魔力を流した。
痛くないように。
苦しくないように。
のーすちゃんが、してくれたみたいに。
僕のちいさな緑のひかりが、そうっと王子の指に入った。
ぴくりと、無反応だった王子がふるえる。
「お兄ちゃん!?」
声をあげたトトラを止めてくれたのは、カイだった。
「ユィリおぼっちゃまが大変集中なさっています。
大変大変大変めずらしいことです。
どうか、ゆりさまのお邪魔をなさらないでください」
………………。
めずらしいに、大変が3回もついてたんだけど!
気になって集中が途切れるんだけど──!
助けてくれてるのか、邪魔してくれてるのか謎なカイ──!
ちょっとしょんぼりしつつ、僕はふたたび意識を集中した。
ちいさな、ちいさな緑のひかりを、王子の指先から、そうっと、そうっと、痛くないように気をつけながら、王子の身体を巡らせてゆく。
王子の魔力を邪魔しないように。
そっと、そっと、寄り添うように。
目を閉じた僕の視界が、王子の身体の魔脈になる。
きらきらする陽のひかり、あぁ、のーすちゃんと同じ、セゥスさまと同じ、光の魔力だ。
……13年そばにいた僕がいちばんよく知ってる、いちばん僕になじみの深い、光の魔力だ。
──いや、ここで、『炎とか地とか闇の魔力の方が、なじみ深いだろ』というつっこみは、聞こえないのです──!
ほら、気もちね。
『炎や地や闇を知りたい!』っていう気もちと、『光の魔力を知りたい、そばにいたい』っていう気もちと比べると、わかってくれるよね……!
──うぅ、なんか自分で自分をえぐってる気がする……
きゃ──!
「ゆーり、だいじょうぶか?
病みあがりなんだ、無理するな」
のーすちゃんの声に意識を取り戻した僕は、あわあわ魔力探索を再開する。
外傷がないなら、身体の中の病気か、魔脈に問題があると思うんだよね。
病気なら、真っ暗なもやが見えると思うんだけど、見えないから。
魔脈に問題があるのかなって──
「あぅうぅう……」
よわよわ悪役令息な僕の魔力が切れました……!
え、本気で魔力がちょっぴりなんですけど……!
魔力探索さえできないなんて……!
しょんぼりする僕のお背なを、トトラが、ぽんぽんしてくれました。
「魔力が少なすぎてびっくりしたけど、がんばってくれてありがとう!
お兄ちゃんも、きっと喜んでるよ!」
トトラはやっぱり、真実を告げて、ちょっと僕をおこにしちゃう天才みたいです?
「僕ちょっと魔力が少ないみたいで、また回復した明日やってみてもいいかな?」
ちょこっとおこになりながら聞いてみました。
「もちろんだよ、ありがとう!」
トトラが両手で僕の手をにぎってくれました。
わるぎは、ちっともないみたいです?
「魔力なら、わたくしが補充しましょう」
カイが、とろけるように笑ってくれる。
「じゃあ、俺も」
のーすちゃんが、やさしく肩を抱いてくれました。
ただ単に魔力補充のためとは重々わかってるけど、それでも両手に花とか、おかしくない……??
僕、ちっちゃいだいふくな悪役令息だよ?
主人公は、向こうの可愛いアーシェくんです!
────────────────
ずっと読んでくださって、ほんとうに、ありがとうございます!
ちょっと肩が痛くなったので、無理はひかえめにと(笑)ずうっとストック0なユィリが1日1回更新になったのですが、みなさま、きんにくひめ、おすきですか??(笑)
びっくりなことに、一瞬だと思うのですが24hポイント1位、だいふくユィリが!(笑)
返り咲いたのは初めて?(笑)かもしれなくて、ユィリと皆といっしょに、めちゃくちゃうれしいです、ありがとうございます!
お気に入り、いいね、エール、ご感想のおひとつおひとつが、応援してくださるお気もちが、とても、とてもうれしいです。
心から、ありがとうございます!
1,634
あなたにおすすめの小説
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)
たたら
BL
久々の新作です。
全16話。
すでに書き終えているので、
毎日17時に更新します。
***
騎士をしている公爵家の次男は、顔良し、家柄良しで、令嬢たちからは人気だった。
だが、ある事件をきっかけに、彼は【不能】になってしまう。
醜聞にならないように不能であることは隠されていたが、
その事件から彼は恋愛、結婚に見向きもしなくなり、
無表情で女性を冷たくあしらうばかり。
そんな彼は社交界では堅物、女嫌い、と噂されていた。
本人は公爵家を継ぐ必要が無いので、結婚はしない、と決めてはいたが、
次男を心配した公爵家当主が、騎士団長に相談したことがきっかけで、
彼はあっと言う間に婿入りが決まってしまった!
は?
騎士団長と結婚!?
無理無理。
いくら俺が【不能】と言っても……
え?
違う?
妖精?
妖精と結婚ですか?!
ちょ、可愛すぎて【不能】が治ったんですが。
だめ?
【不能】じゃないと結婚できない?
あれよあれよと婚約が決まり、
慌てる堅物騎士と俺の妖精(天使との噂有)の
可愛い恋物語です。
**
仕事が変わり、環境の変化から全く小説を掛けずにおりました💦
落ち着いてきたので、また少しづつ書き始めて行きたいと思っています。
今回は短編で。
リハビリがてらサクッと書いたものですf^^;
楽しんで頂けたら嬉しいです
もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた
谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。
就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。
お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中!
液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。
完結しました *・゚
2025.5.10 少し修正しました。
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
傾国の喪失
零壱
BL
不幸な事故で自分のことをすっかり忘れてしまったラティ。
でもラティは不幸じゃない。大好きな養父のネイヴァンがいるから。
自分のルーツを探す旅なんかには出ないし、過去の傷も別に思い出したりしない。
何もわからないけど、それでいい。
お茶目で楽天家なラティの小さな恋と日常。
最初だけシリアス。
最初だけかわいそう。
あとはほのぼのです。
わだかまりが解決とかはしません。
続きません。
他サイトにも同時掲載です。
のろまの矜持 恋人に蔑ろにされすぎて逃げた男の子のお話
月夜の晩に
BL
イケメンエリートの恋人からは、雑な扱いばかり。良い加減嫌気がさして逃げた受けくん。ようやくやばいと青ざめた攻めくん。間に立ち塞がる恋のライバルたち。そんな男の子たちの嫉妬にまみれた4角関係物語です。
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる