147 / 148
ますこっと?
しおりを挟む「また逢おうね、ユィリくん!」
泣きだしそうな瞳で、それでも笑ってくれるトトラに、ぶんぶん僕は手をふった。
「アーシェくんも、またね!」
「ユィリくん、気をつけてね! 3秒ルールとか、だめだから。地面に落ちたどーなつは食べたらだめだから!」
アーシェくんの注意が、切実です。
「わ、わかった」
ちょっと泣きそうな僕の頭を、セゥスさまとカイとのーすちゃんがなでなでしてくれる。やさしい。
のーすちゃんも、僕たちと一緒に市中で駅馬車を見つけて帰るんだよ。僕の家族は、ロベナ王国の王族とは何にも関係ございませんなお顔で、別のルートで別の馬車で帰ります。
「ゆりちゃん、何かあったらすぐに帰ってくるんだよ!」
「気をつけてね!」
「うわぁあん! ゆりちゃん……!」
泣いて抱っこしてくれました。
僕も、泣いて抱っこしました。
「元気で、がんばるね!」
つよつよの治癒士になれたら。
僕が、僕を誇りに思えるようになれたら。
あなたに、ふさわしい人になれたら。
『あなたの伴侶になりたい』
胸を張って、言う日のために。
今日を、はじめるんだ。
城下街に降りたら、ラゼン王国はお祭りみたいな、にぎやかさだった。
「ラディ殿下が目覚めたって!」
「よかったなあ!」
「ちょっと鍛錬しすぎで、ちょっと寝すぎちゃったんじゃねえの?」
「ラゼン王国の未来が明るくなったよ!」
きんにくひめの目覚めをお祝いしてくれているみたいです。
愛され、きんにくひめ!
にぎやかな街はとっても活気があってよいのですが。
「……僕たち、目立ってる……?」
なんか視線が、刺さってくるよ?
そうっと聞いた僕に、しっかりカイがうなずいた。
「目立っています。そこのふたりが、きらきらしてるので」
お服がね。ちょっと王族だったね!
「ゆーりが、可愛い小動物みたいになってるからだろ」
真っ白な魔法使いのローブを着て、フードをかぶった僕が、マスコットみたいになっているみたいです?
握手できるよ!
ぴょこぴょこ跳ねる僕に、セゥスさまも、のーすちゃんも、カイも、胸を押さえてる。
城下街の古着屋さんで、平民ぽい服を買ってみたよ!
白いシャツにベージュのボトムスとか、どこにでもいそうな服のセゥスさまと、黒シャツに黒いボトムスの、のーすちゃん!
「きらきら具合、あんまり変わらない……?」
首をかしげる僕に、しっかりカイがうなずいた。
「……どう見ても王族の、お忍びですね……」
セゥスとノゥスが、しょんぼりしてる!
意味がなかったみたいです??
トトラが着せてくれた真っ白な魔法使いのローブは、可愛いので! とっておきとしてカイが持ってくれて、僕は目立たないベージュのローブになりました。マスコット感ダウンだよ。
「ユィリ、かわいー♡」
抱っこしてくれるセゥスさまに、のーすちゃんも、カイも、うむうむしてる。
のーすちゃんとは、ここでお別れだ。
「たくさんお世話になりました。
ありがとう、のーすちゃん!
これからも、よろしくね!」
ぎゅ
ごつごつの手をにぎったら、かすかに顔をゆがめたのーすちゃんが、ちっちゃな僕の手をにぎり返してくれた。
「ゆーり、無茶しないで。
ぜったい無事で」
のーすちゃんの、陽のひかりの瞳が揺れる。
僕の目も、うるうるだ。
だいすきな、幼なじみの、のーすちゃん。
久しぶりに逢えてから、ずっと僕を心配してくれた。
『のーすちゃん、だいすき』
言ってしまったら、セゥスさまも、のーすちゃんも、傷つけてしまうかもしれないから。
幼なじみの『だいすき』伝えるように手をにぎる。
「クゥスと、ノクさまに、よろしく」
何もかもをわかったようにセゥスが微笑んだ。
「兄貴、ゆーりを頼む。カイも」
ノゥスの手が、ふたりの手をにぎる。
「ぜったい無事で」
ささやくノゥスに、セゥスもカイも真摯な瞳でうなずいた。
ロベナ王国ゆきの馬車に乗りこむ、のーすちゃんに手をふる。
「またね、のーすちゃん!」
微笑んで手をあげてくれるのーすちゃんは、今日も最高にかっこいい幼なじみです。
636
あなたにおすすめの小説
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~
蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。
転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。
戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。
マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。
皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた!
しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった!
ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。
皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。
【本編完結】攻略対象その3の騎士団団長令息はヒロインが思うほど脳筋じゃない!
哀川ナオ
BL
第二王子のご学友として学園での護衛を任されてしまった騎士団団長令息侯爵家次男アルバート・ミケルセンは苦労が多い。
突撃してくるピンク頭の女子生徒。
来るもの拒まずで全ての女性を博愛する軽薄王子。
二人の世界に入り込んで授業をサボりまくる双子。
何を考えているのか分からないけれど暗躍してるっぽい王弟。
俺を癒してくれるのはロベルタだけだ!
……えっと、癒してくれるんだよな?
【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー
エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。
生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。
それでも唯々諾々と家のために従った。
そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。
父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。
ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。
僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。
不定期更新です。
以前少し投稿したものを設定変更しました。
ジャンルを恋愛からBLに変更しました。
また後で変更とかあるかも。
完結しました。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる