14 / 90
おねがい
しおりを挟む僕は顔をあげた。
月の瞳でリィフェルが微笑んでくれる。
「果物をとりにゆこう。
たべる、をしてみよう」
食べたら僕は、汗と血と排泄と死の匂いがするようになるだろう。
リィフェルが僕をきらわないようにしてくれるのは、きっと父親の覚悟があるからだ。
汗と血と排泄と死の匂いのする人間なんて、精霊は大きらいだ。
僕はリィフェルの手をにぎった。
ちいさな指で、懸命ににぎった。
首を振る。
「たべゆ、ぃや」
「でも食べないと、月の水ばかりではトェルが壊れてしまうかも……」
口にするのもいやだというように唇を引き結ぶリィフェルの手をにぎる指に、力をこめる。
「みにゅ、くだしゃ」
「……トェル……」
おとうさんに、きらわれるくらいなら、しねばいい。
──……あぁ、ちがう。
こわれてしまうことより、しんでしまうことより、おとうさんに、きらわれてしまうことのほうが、こわい。
「……おねがぃ、ぉとーた」
すがりつく僕を、リィフェルの腕が抱き寄せてくれる。
あたたかな腕を、清冽なのにあまやかな香りを、やわらかな微笑みを、おとうさんを失ってしまうくらいなら、しんでいい。
あふれる涙で見あげる僕に、おとうさんは困ったように眉をさげ、アライアは吐息した。
「……ちっちぇえのに、いっぱしなんだな」
伸びた手が、真っ暗な髪をなでてくれる。
「帰るか、リィフェル」
「し、しかし、このままではトェルが──」
「精霊界にも果物はあるだろ。ノォナに頼めばちょこっと分けてくれるんじゃねえか? あれを食って、様子を見よう」
「でも母上は──」
伸びたアライアの手が、リィフェルの頭をぽんぽんする。
「下界の果物を食わせて、トェルが排泄して、汗と血と死の匂いがするようになって、それにリィフェルがほんのちょっとでも反応したら。トェルの心が壊れるかもな」
風に揺れる緑の草の向こうで、棒切れを振りかぶった人間が土を掘り起こしていた。
ちいさな苗を掲げる人間が見える。
ほがらかな笑い声が、遠く近く渡ってゆく。
「ほんとうは、トェルはここで暮らすはずだった。
人間として汗をかき、排泄し、歌い、笑い、殺して食べ、その罪を負うように老いさらばえて死んでゆく。人間として生きる時をトェルは奪われ、殺された。
救ったのは、リィフェルだ」
アライアの手が、おとうさんの、僕の頭を掻きまぜる。
「リィフェルは、人間として死んだトェルを生かした。人間の身体には負担かもしれん。長生きできないかもしれん。
でもなリィフェル、ほんとうならトェルはもう、死んでる」
「しかし──!」
「逆にさ、下界の果物は、月の水で育ったトェルの身体には毒かもしれねえぞ」
アライアの言葉に、リィフェルが息をのむ。
「誰にも、月のきみにさえ確かなことなんて解らねえんだ。
トェルが、いやだって言うなら、トェルが生きたいように生かしてやってもいいんじゃないか」
わしゃわしゃ頭をなでてくれるアライアを見あげた僕は、アライアの指をつかまえる。
「あーりゃ、あーと」
「おうよ」
ぐしゃぐしゃ僕の髪を掻きまぜたアライアが、照れくさそうなまなじりで笑ってくれた。
「……トェル」
心配そうに目をのぞきこんでくれるリィフェルの指もつかまえる。
「みにゅ、おねが、おとーた」
「……だが私は……トェルに生きてほしい」
まるで 哀願するような、切ない 響きの声だった。
おとうさんが、僕が生きることを願ってくれる。
泣いてしまいそうだから
「がんば、ゆ!」
手を挙げて、笑った。
────────────────
ずっと読んでくださって 、ありがとうございます!
ほんとにふぁんたじーで(笑)異世界転生でも悪役令息でもないので(笑)読んでくださる方はいらっしゃらないかもしれないと思っていたので、 びっくりして、 とてもとてもうれしいです。
ほんとうに、ありがとうございます!
御礼の気持ちを、めいっぱいこめて、 トェルとリィフェルの動画を作ってみました(笑)
インスタ @siro0088
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
お気に入り、 いいね、 エール、 ご感想、 おひとつおひとつに、 応援してくださるお気持ちに、ずっと読んでくださる、あなたさまに、感謝の気持ちでいっぱいです。
心から、 ありがとうございます!
1,120
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
本編、両親にごあいさつ編、完結しました!
おまけのお話を、時々更新しています。
本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】かわいい彼氏
* ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは──
ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑)
遥斗と涼真の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】オメガの俺に、推しの愛が届かない
* ゆるゆ
BL
主人公に発情誘発剤を盛られて発情しちゃったアルファな最愛の推しを助けるために、オメガで悪役令息っぽい俺、がんばるよ! でも勘違いはしないから、心配しないでね!
最愛の推しを遠くから応援したいオメガと、愛してるのに逃げられて泣いちゃいそうなアルファの、オメガバースなお話です。
本編完結済。
続きを読みたいとリクエストいただいたので、ちょこちょこおまけを更新しています。
ルゼとジークの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります ほぼ毎日更新
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願いします!
もふもふ獣人転生
* ゆるゆ
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。
本編、完結済です。
魔法学校編、はじめました!
リクエストのお話や舞踏会編を読まなくても、本編→魔法学校編、でお話がつながるように書いています。
リトとジゼの動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。
読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】奪われて、愛でられて、愛してしまいました
* ゆるゆ
BL
王太子のお飾りの伴侶となるところを、侵攻してきた帝王に奪われて、やさしい指に、あまいくちびるに、名を呼んでくれる声に、惹かれる気持ちは止められなくて……奪われて、愛でられて、愛してしまいました。
だいすきなのに、口にだして言えないふたりの、両片思いなお話です。
本編完結、本編のつづきのお話も完結済み、おまけのお話を時々更新したりしています。
本編のつづきのお話があるのも、おまけのお話を更新するのもアルファポリスさまだけです!
レーシァとゼドの動画をつくりました!(笑)
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる