【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
11 / 152

魔法使い

しおりを挟む



「僕のせいでリイが傷つくなんて、絶対いやだ!!」

 きょとんとしたリイは、震えるちいさな肩を抱きしめる。


「愛する人のために傷つくのは、勲章なんだって」

 胸を張ったリイに、ルフィスが真紅に染まる。


「……あ、愛して、くれる、の……?」

「うん!」

 燃える頬で、笑う。


 すきとか、愛とか、まだよく解らないけれど。



 すきになるなら、ルフィスがいい。

 愛してるのは、ルフィスがいい。



 真っ赤なルフィスが手を握って、恥ずかしそうに、とびきりうれしそうに、とろけるように笑ってくれる。

 一緒に手を繋げたら、ふたりでどこまでも行ける気がする。


 どこまでも、ふたりで。

 どこまでも、ずっと、ずっと。








 春の夜の山に、耳を澄ませる。

 狼の遠吠え、ふくろうの鳴き声、鹿が枯れ葉を踏みしめる音に混じる、人間が立てる音を選り分けるように、リイは目を閉じる。

 近づこうとする足音と気配がないことを確かめたリイは、吐息した。


「ちゃんと撒けたみたい。
 ……あんな山奥の洞窟にまで来るなんて」

 リイの呟きに、ルフィスは細い眉を顰める。


「……魔術士が来てるのかもしれない」

 ちいさな声に、目を瞠る。


「魔術士!」

 リイにとって、魔法は夢物語みたいなものだ。
 レイサリア光国では使える人がいると聞いてはいたが、身近にはいない。

 平民には魔力の多い者は少ないらしく、魔力があったとしてもよく解らず、教育も受けぬまま終わってしまう者が多いのだという。

 生まれた時に魔力の有無を確かめられ、魔術学院に通え、その使い方を学べる貴族たちがその才を開花させると言われている。

 なので、リイは魔法を見たことがない。
 魔法使いも、見たことがない。

 あんぐり口を開けるリイに、ルフィスはちいさく笑った。


「僕も使えるよ、魔法」

 ふわりとルフィスの指に、光が燈る。


「ふわぁあああ……!」

 大声を出してしまいそうだったのを、慌てて呑み込んだ。


「ルフィス、すごいすごいすごいすごいすごいすごい!!」

 飛び跳ねて拍手するリイに、照れくさそうにうれしそうにルフィスが笑う。


「ほとんどの魔力は封じられてるけど、明かりくらいは」

 ルフィスの言葉に、リイは唇を噛んだ。


「……ルフィス、監禁されて、酷いことされてるの?」

 リイの囁きに、ルフィスは目を伏せる。


「……部屋から、出れない。
 光国の最果てにあるこの山に来れたのは……殺されるためだと思う」

「ルフィス――――!」

 リイの悲鳴に、ルフィスはやわらかに蒼碧の瞳を細める。


「哀しんでくれたのは、泣いてくれたのは、リイだけだよ」

「ルフィスは、俺が絶対、絶対、絶対守るから――――!!」

 叫んだ瞬間だった。


 山の大気を裂くように、紫紺の光が走る。


「ぐ、ァア――――!」

 雷の直撃を受けたように、リイの身体が硬直した。







しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。 *こちらは元の小説の途中に、エピソードを追加したものです。 文字数が倍になっています。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...