【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ

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白い花?

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 厳正な身分制が敷かれたレイサリアでは、底辺の平民リイは常に敬語を強いられる。
 新人で緊張している上に、慣れない敬語は覚束ない。

 あわあわなリイをわかってくれるのだろうキールに笑う。

「ありがとう。折角だから聞きたい。
 貴族でルフィスという名の方を知らないか?」

「女か!
 やっぱりお前もそうか!」

 いかめしさを削ぎ落とし、はち切れる笑顔でリイの背を叩くキールに、廊下をゆく貴族諸侯が振り返る。


「男だ。
 淡い亜麻色の髪に、蒼と碧にきらめく目をしてる。
 歳は俺と同じくらいだ。爵位がよくわからなくて――」

「隠すな。
 ひめのために闘うは名誉だ!」

「男だ!」

 リイの頭をヘッドロックしたキールが、によによした。


「恋人か」

 そうだったらいいな……!

 ……でも、10年も前の話だ。
 リイには命を懸ける大切な思い出でも、ルフィスにとってはそうじゃないかもしれない。

 思うと、いつも落ち込む。

 悄気るリイに、キールは眉をひそめた。


「き、聞いたらいけないことだったか」

 こくりと頷くリイに、キールが頭を下げる。


「す、すまない!
 傷心を抉ったな!」

 その言葉が抉ってるよ!

 思ったけれど、頭を下げてくれるキールにびっくりする。


「……キール、貴族なのに」

「わるいことをしたら頭を下げるのは当然だろう」

 ふんと鼻を鳴らすキールに、目を見開いたリイは、ちいさく笑う。


「ありがとう、キール」

 キールの鳶色の瞳が見開かれて、止まる。
 まじまじ顔を覗き込まれたリイは、キールを見あげた。


「何かルフィスさまについて知らないか?
 瑣末なことでいいんだ」

 記憶を探るように、しばらく沈黙したキールは、首を振った。


「知らぬ」

 落ちるリイの肩に、キールの凛々しい眉がさがる。


「友人のお前にも家名を告げぬなら、隠し子だろう。家の傷になる。話せんのだ。
 捜すのは難しいやもしれぬ。
 ここは表舞台だ」

 息をのんだリイは、唇を噛んだ。

 光騎士になれればすぐに会えると思っていたのに、ルフィスが霧のなかに消えてゆく。


「…………地道に捜すよ。ありがとう」

 目を伏せて微笑んだリイの顔を、キールが覗き込む。


「――驚いた。
 決勝戦では化け物だったが、普段は白い花だな」

「…………は?」

「ひめさま方へのご挨拶は、これからだろう。
 いいかリイ、よく聞け」

 キールの鳶の瞳が吊りあがる。


「ロエナ様には絶対! 手を出すな!!」

 指されたリイは、口を開けた。

 田舎者を自覚するリイですら知っている。


 ロエナ様は、レミリアさまの次に花と謳われる王女殿下だ。

 レイティアルト殿下の腹違いの妹ひめ。

 レミリアさまの、腹違いのお姉さまだ。




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