きみの騎士

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きみの傍

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 レイサリアの冬が過ぎゆき、春が巡る。

 きみに出逢えた春が、香りたつ。


 暁の噴水の苑を染めあげるように、セレネの花がほころんだ。
 清かな香りが舞いあがり、春の陽にきらめく水の雫が虹をえがく。

 やわらかな明けの光のなか、リイは繋がるあたたかな指を、にぎる。


 きみの手を、にぎる。


「ルフィス、セレネの花みたい」

 熱い頬で囁いたら、ルフィスの赤い頬が、ぶすくれた。

「僕には、あんまり褒め言葉じゃないよ」

 ふくれたルフィスに、リイは考える。

「じゃあルフィス、星みたい」

 ルフィスが紅い頬で笑ってくれる。

「リイは月のひめみたい」

「ありえない」

 笑ったリイは、目をふせた。

「……俺の方が男みたいで、ごめんねルフィス」

「そんなことない!」

 叫んだルフィスに、リイは首を振る。

 知らない人が見ると今までの統計187人中187人、リイが男でルフィスが女だと思われる。


 きみのために、光騎士になりたかった。

 男と対等に扱われたかった。


 後悔はしていないけれど、女ではないものになってしまったみたいだ。
 それはそれで、ルフィスの騎士には、ふさわしいかもしれない。

 吐息するリイに、ルフィスは首を振る。


「女らしい、男らしい、女々しい、雄々しい、女みたい、男みたい、ぜんぶ差別だ。
 性によって、人格、装い、言葉遣い、行いを強要することも、能力を断定することも、ぜんぶ差別だ」

 リイの頬を、ルフィスのてのひらが包みこむ。

「僕は、僕で。
 リイは、リイだ」

 ルフィスの掌の下で、リイの頬が熱くなる。

「可愛いところなんて見せたら、もっと男が寄りまくるからだめ!」

 拳をにぎるルフィスに、目をまるくしたリイが笑った。
 朗らかな笑い声が朝を渡る。

「珍獣を面白がってるだけだよ」

 ルフィスの指が、リイの頬を引っ張った。


「──リイは月のひめで、僕の騎士だ」

 あたたかな腕に、抱きしめられる。
 ルフィスの香りに、包まれる。

 ……とくとく駆けてゆく鼓動が聞こえるかな。
 意外に広いルフィスの胸に頬を寄せたら、強い腕に抱き寄せられた。


「……ごめんなさい」

 かすれたルフィスの声に、リイが瞬く。

「リイはずっと、僕との約束を守るために、厳しい鍛錬をしてくれたのに……
 僕は記憶を失くして…………リイを忘れて…………何も知らずに笑って…………」

 幾度も皮がずる剥け、豆が潰れ、槍を、剣を握るために変形した手を包んでくれるルフィスの瞳から、涙が落ちる。

 そっと、あたたかな雫をすくったリイは、微笑んだ。


「ルフィスに逢えた。
 …………夢だったんだ」


 蒼にも碧にもきらめく涙の瞳が、俺を、また、映してくれる。

 …………夢みたいだ。






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