144 / 152
きみの傍
クグとメデュ
しおりを挟むお茶とお菓子を持って魔道具研究室に行こうとしたら、クグに腰にタックルされた。
「リイ、ほんとにほんとにほんとにごめん!!
まさかレイティアルトさまにガセネタ掴まされるなんて、機密院の名折れだ!」
号泣するクグをぽふぽふして、丁度持っていたお菓子をあげる。
「最高機密を教えてくれたこと、感謝してる。
ありがとう、クグ」
微笑んだら、お菓子を握り締めたクグが更に号泣して、いつも開かずの間になっている魔道具研究室の扉が、バァン! 音をたてて開いた。
「どさくさで抱きつくな──!!」
目を吊りあげて怒ったメデュが、リイの腰に抱きつくメデュをブン投げた。
「…………あれ、メデュ、もしかして強い?」
首を傾げたら、いつも微笑んでくれるメデュの眉は吊りあがったまま、大変おこだ。
一応魔道具研究室には入れてくれたけど、無言。圧が怖い。
「あ、あの、お菓子持って来たよ、メデュ!
メデュのすきな、さくさくのパイだよ! 粉砂糖たっぷり!」
お菓子の白い箱を振ってみたのに、メデュの頬は膨れたままだ。
「…………ひとりで、行くなと言った」
拗ねたみたいに目を伏せるメデュに、リイは頭をさげる。
「……ごめんなさい。
ずっと辛い目に遭ってきたメデュが俺のせいで処刑されるなんて、絶対だめだと思ったんだ。
メデュの気持ちが、うれしくて。
それだけで俺には、充分だった」
メデュの桔梗の瞳が瞬いた。
「…………うれし、かった?」
「めちゃくちゃ!
レイサリアで俺はメデュのことだけは、裏切ってない。
そう思ったら、すごく俺の支えになってくれたよ。
メデュにだけは、ほんとうを話せたから。
ありがとう、メデュ」
丁寧に頭をさげたら、ふわふわメデュの頬が紅くなる。
「…………う、うん」
こくりと頷いたメデュは、白い箱に手を伸ばす。
「お菓子」
「いっぱい食べてね!」
こくりと頷いたメデュは、両手でお菓子を持って、さくさくのパイを噛み締める。
人形みたいに整ったかんばせが『ぱあ』と音をたてるように輝くだなんて、めちゃくちゃ可愛い。
にこにこしながらお茶を淹れたリイは、微笑んだ。
「ルフィスに逢えたよ。
やっとルフィスの騎士になれる。
メデュがパソコンを完成させてくれたら、完璧だよ!」
見開かれた桔梗の瞳が、止まる。
「…………え…………?」
照れながらリイは微笑んだ。
「えへへ。
あんなに落ち込んで悩んでたのが全部解決した!
ルフィス、敵国の王子じゃなかった!」
ぱちぱち拍手して笑うリイに、桔梗の瞳が遠くなる。
「…………そ、うか…………」
ぽたりとメデュの手から、パイが落ちた。
「メデュ? どうかした?
もしかしてパソコン、行き詰まってる?」
しあわせいっぱいのリイを見つめたメデュの瞳が遠くなる。
「…………すべてのやる気が、今、消失した」
「えぇえ!?」
「パソコン、無理」
「えぇええええ────! そ、そこを何とか!
お菓子いっぱい持ってくるから!」
涙目のリイにちょっと紅くなったメデュは、拗ねたように唇を尖らせた。
「無理。
やる気、なくなた。
…………でも、リイが来てくれたら……ちょっと、出る、かも……?」
「わ、解った、厳選したお茶とお菓子を持って逢いにくるから、元気出してね!」
拳を握るリイを見つめたメデュは、こくりと頷く。
「呪いの魔道具は、つくらないであげる」
「…………え、何の呪い?」
「内緒」
ちいさく笑ったメデュの唇の端に粉砂糖がくっついていて、とても可愛かった。
しかし完成しそうだったパソコンは、遠のいたみたいだよ──!
応援ありがとうございます!
7
お気に入りに追加
47
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる