【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ

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ぼうけんしゃ?

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 あるじが、かわいい。

 めちゃくちゃ、かわいい。

 期待のおめめが、きらきらしてる。



 ………………しかし、ぼうけんしゃ……?

 あの、ドガーン、バゴーン、ズガーンの?

 こんなにちっちゃくて、かわいーあるじが?


「冒険者?」

 こくこくロロァがうなずく。

「魔物を倒して、お金を稼ぐの!
 町の皆がね、わーって言ってくれるの。
 ……治癒の力、きもちわるく、なぃ、みたぃなの……」

 揺れる藍の瞳に、息をのんだ透夜は叫ぶ。

「わがきみは、奇跡の力を授かった、至高の方です──!」

 びくんとふるえて、びっくりしたように透夜を見あげるロロァをなだめるように、ユィルのちっちゃな手がぽんぽんした。

「ロロァ、きみは奇跡の子だ。
 国の希望であり、世界の希望。
 きみの家族は、自分が持っていない力を持つきみがうらやましくて、だから酷い虐待を。
 そんな輩の言葉なんて、ひと欠片も、おぼえていなくていいんだよ」


 ユィルのほうが、圧倒的にスパダリな件について。


 ……いやもう顔のスペックからして圧倒的だけど!

「ふぇ……ユィル……」

 やさしくロロァの髪をなでなでしてあげるユィルこそが、スパダリ。

 これってやっぱり、ユィル×ロロァなのかな?
 俺は見守る係なのかな……?


 遠い目になる透夜の肩を、孤児仲間の皆が、ぽんぽんしてくれる。
 そっとハンカチを差しだしてくれた。


 泣いてた。


「とーや? だぃじょうぶ?」

 心配してくれるロロァが、天使だ。



「ぼーけんしゃ、できる、かな……?」

 期待のあるじの、きらきらの目は大変に愛らしいのですが!
 勇者になりたい気もちも、とってもよく、わかるのですが!
 ちっちゃい頃の夢だよね!

 しかし

「わがきみ、それは帝都の外に出ないと、できないのです。我々は帝都から出られませんので……」

「あぅう」

 人生最大の夢を潰された、泣きだしそうな顔になってる……! 大変だ!


「わがきみ、おひとりだけならできますよ!」

 はげましてみた!


「とーやと一緒じゃなきゃ、こわぃよう!」

 抱きつかれた。

 至福を、かみしめた。


「……トゥヤの、あんぽんたん」

 ぷいと横を向いて、透夜のすそを、ぎゅっとにぎってつぶやくユィルの唇が、きゅっと、とがってるんですが!


 そうか、両手に花って、こういうことを言うんだな。

 子どもに、なつかれてるだけとか、全く全然聞こえない!
 ああ、欠片だって、聞こえないさ!


 これが、俺の史上最大のしあわせだ──!



「トゥヤ」

 孤児仲間が、そっとハンカチを差しだしてくれた。

 泣いてた。

 ハンカチ、ありがとうございました。




「しかし、わがきみ、冒険者というのは、よい策かもしれません」

 透夜は首をひねる。

「魔物を倒したり、迷宮を踏破するのも冒険者の仕事ですが、偵察や監視を請け負ったりもしますからね。俺たちの専売特許です。それを売りにした会社を立ちあげてみましょうか」

「目立つのはよくないぞ。国外逃亡が目的なのだろう?」

 ユィルの指摘に、透夜は笑う。

「俺たちの顔と名をおぼえている者が、どれくらいいる? 秘されて育てられていたなら、ユィルでさえ、両親だけしか知らないなんじゃないか?」

 ぐ、と詰まったユィルは、さみしそうに、うなずいた。







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