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初仕事
しおりを挟む「実は商業同盟から依頼があってな、同盟を結んだ商家が、競合の商家に情報を流してるって噂が出てるんだ。従業員の密告らしい。だが証拠がねえ」
冒険者同盟のおじちゃんの言葉に、すかさず透夜は頷いた。
「なるほど、証拠を捏造すると」
「いやいやいや、それは犯罪だから!」
ちがった!
悪役だと思ったら、考え方が悪役寄りに!
「うひひひひ」
孤児仲間たちが、隣で笑ってる。
ユィルが、恥ずかしそうに首を振った。
ロロァがぱちぱち拍手してくれる。
「とーや、かっこぃー!」
天使だ。
「敵に情報を垂れ流す商家に潜入、競合に情報漏洩している証拠を押さえてくれ」
「了解。報酬は」
透夜の目が鋭くなる。
おじちゃんは、にやりと笑った。
「この家が丁度買える」
「乗った!」
むんと力こぶを盛りあげる透夜に、ぱちぱちロロァが拍手してくれた。
天使だ。
仕事は見つかった。
家の目星もついた。
しかし、今夜の寝床がない!
困ったときには、相談だ。
「皆、行くとこがないから、ここの隅っこで、ちょっと休ませてくれないか」
ロロァのガリガリに痩せた細い手足に、酷い痣の痕を見たおじちゃんは、たゆたゆの腹を揺らし、チョビ髭を摩った。
「……かわいそうになあ。ひと晩なら、冒険者に貸す寝床がある。その後は要相談だな」
「ありがとう!」
冒険者同盟は帝都の中心からちょっと外れた場所にあるからか、広やかだ。
一階に、依頼を貼った掲示板と受付があり、その奥が急患を収容する寝台のある部屋になっていて、急患がいない時は冒険者たちが眠ってよいことになっているという。
毎晩寝られると困るので、ひと晩きり、という制約があるそうだが、相談に乗ってくれるというやさしさだ。
案内してくれた冒険者の寝床には、ぐおーがおー鼾をたてる冒険者たちが腹を出して寝ていた。
思わずそっと毛布を掛け直してしまう。
「あんまり休めないかもだけど、今日だけは我慢してくれ。証拠が出そうになかったら、サクッと捏造するから!」
親指を立ててみた。
「だめだろう!」
ユィルに突っ込まれた。
「……はぁい」
渋々頷く透夜が、一番悪役っぽい。
おかしい。
「わがきみ、ここでユィルと仲間たちと一緒に、眠ってくださいね」
「とーやは……」
「お仕事に行ってきます」
スパダリっぽく、やさしく微笑んでみた!
「……き、気をつけて、ね。けが、しない、でね」
天使だ!
「はい、わがきみ」
ロロァの前に膝をつき、そのちっちゃな手を額に押しあてる。
ぷくりとユィルの頬がふくれた。
「そ、そんなの、私はしてもらったこと、ない──!」
透夜はちいさく笑う。
「ユィルは俺の、ともだちだろ」
「は! そ、そうか!」
真っ赤になったユィルが、うむうむしてる。
チョロかわいー。
「行ってくる。ユィルとロロァさまを頼む」
孤児仲間、ひとりひとりの目を見て告げる。
「任せろ!」
「仕事、手伝う?」
「おお、喋れるようになったうえ、やさしーな!」
感嘆した透夜は微笑んだ。
「まず下見にひとりで行ってくるよ。人数は少ないほうが目立たないからな。警固が多い場合は協力頼む」
「おう!」
胸を叩いてくれた皆に手を振った透夜は、依頼書に書かれた商家を確認、夜の闇へと飛びだした。
よし、初仕事だ!
がんばっていこー!
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