【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
48 / 132

なんていい子!

しおりを挟む



 …………………………。

 沈黙が痛い。
 痛すぎる。


「あ、あなたは、お茶会の時の……?」

 キァナの問いに、きょとんとした透夜は、瞬いた。

 見られてた?
 周りにはミィと、ミィのおかあさんしかいなかった筈だけど──

 ここはスルーだ。

「あの、ぱんつの色を教えてくれたら、すぐにいなくなるから!」

 必死で言う自分がつらい。

「……え、と、あの……ぱんつ、とは……?」


 …………………………。

「……下着の色を、教えてください」

 深々と、頭をさげた。


 真っ赤になったキァナが、もごもごする。

 月の光に濡れたように輝く上目遣いの瞳で、そうっと唇を開いた。

「……え、えと……あの……今日は……白、です……」

 教えてくれた!
 なんていい子!

 そんな愛らしい、いい子のぱんつの色を聞いてしまった透夜は、果てしなく項垂れた。

 汚れ仕事に間違いない。
 でもこんなのは全然スパダリじゃないし、絶対間違ってる──!

「ごめんよ、借金があって、どうしてもきみの下着の色を知りたいっていうおじちゃんがいて、依頼を受けてきたんだけど、でもきみが厭だったら言わないから──!」

 泣けてきた。

 汚れ仕事なんて、するものじゃない──!


「しゃ、借金?」

 ドン引きなキァナに、切なくなった透夜は目を伏せる。

「前金貰って依頼を受けたんだけど、失敗しちゃって、もう前金は使っちゃったから」

 キァナは細い眉を顰めた。

「前金、というのは、仕事の成功失敗に関わらず貰えるものでは?」

「え、そ、そうなの!?」

 あんぐりする透夜に、キァナは頷く。

「手付金とも言います。仕事に着手するためのお金であって、成功したら成功報酬が支払われますが、失敗したらありません。でも手付金は貰ったままで問題ないはずです」

「そうなんだ! じゃあ貰ったままで──」

 言いかけた透夜は止まる。

 そうだ、報酬の半分を前金として寄こせと言ったのは透夜で、ボホはそれを了承してくれただけだ。ふつうの前金じゃなかった!
 確か依頼には、成功報酬しか書かれてなかった。

「……成功報酬の前借りだった……」

 がくりと項垂れる透夜に、ちょっと楽しそうな声が降る。

「あぁ、なるほど。お金に困っていらっしゃると」

 にこりとキァナは微笑んだ。

「僕の従者になりませんか? 思うままの贅沢をお約束しましょう」

 きょとんとした透夜は、首を振る。

「だめ」

 細い水の眉が跳ねあがる。

「なぜ?」

「俺にはもう、主がいるから」

 ふんとキァナは鼻を鳴らした。

「あなたにお金の工面をさせるなんて、情けない主ですね」

「いや、最高の主だ」

 微笑む透夜に、キァナの頬がふくれる。


「……僕の下着の色を聞いたくせに」

 ほんのり赤い頬で、上目遣いで睨まれた透夜は、跳びあがる。


「いやもうそれはほんとにごめん! もうちょっと真っ当な仕事を選んで頑張るよ。寝る前の時間に驚かせてごめん。誰にも言わないから!」

 あわあわして屋根裏へと飛び立とうとする透夜を、キァナの声が止める。


「真っ当な仕事……僕の護衛は?」

「ずっとは無理」

 透夜の即答に、ぷくりとキァナがふくれた。






しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...