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たすけたい
しおりを挟む巨大な魔道具のなかには幾本もの柱が立ち並び、干からびつつある魔導士に繋がれている。魔力を吸いあげられているのだろう、壁面を埋め尽くすように奇怪な魔紋が輝いて、魔導士から流れ込む魔力と連動するように明滅していた。
巨大な魔道具全体が、鼓動を打つように振動している。
不気味な光が、侵入者を確かめるように透夜に向けて放たれるより速く、跳んだ。
ビィイイイ──!
走る深紅の光線に、透夜がいた場所の壁が熔ける。
『とーや!』
「援護頼む!」
どこが光線を出したのか正確に把握した透夜の槍が、風の精霊さんの加速を受けて、熱線の発射口を貫いた。
ドォオォオン──!
爆発に、地下全体が揺れた。
その音と振動で、ようやく気づいたように、魔導士たちが顔をあげる。
「……あ……」
うつろな目が、透夜を見あげる。
魔導士たちの手足には枷がつけられ、長い鎖で魔道具へと繋がれていた。
「クズなことしかしねえのか、この国は──!」
憤激の透夜の剣が、魔導士たちの枷を打ち砕く。
外傷は見られないが、衰弱が酷い。
ミイラになる一歩手前のような、落ちくぼんだ目が瞬いた。
「歩けるか。衛士は倒してある。階段を登れるか?」
焦点の合わない魔導士たちが、頭を振った。
「……あな、たは……?」
「このクソ魔道具を壊しに来た。これが帝都に結界を張り、暗殺人形を造り、エゥリケ王太子とバギォ帝太子を殺す原動力なんだな?」
顔を見合わせた魔導士たちが、ぼんやり頷く。
「……たぶん?」
生気がない。
思考もない。
暗殺人形だった皆と、同じだ。
悔しく唇を噛んだ透夜は、ひとりひとりの枷を丁寧に外した。
「つらかったな。頭もおかしくなるよな。来るのが遅くなって、ごめん。歩けるか?」
干からびるまで繋がれた魔導士たちは、歩こうとしてくずおれた。
「風の精霊さん、うえに運べるか?」
『運んだら、殺されちゃうよー』
『繋いでても死んじゃうけど』
『魔導士の墓場なんだって』
『ここにいる闇の精霊さんが教えてくれた』
酷い話はたくさんあって、どこにでも転がっている。
なのに聞くたび、胸が抉れる。
「何とかたすけられないかな」
『魔道具壊すんでしょ?』
『大爆発!』
『死んじゃうよ』
「前で伸びてる衛士さんも?」
『死んじゃうねえ』
たすけられる命なら、たすけたい。
「仕方ない、運ぶか。風の精霊さんと結界の精霊さん、手伝って。風の精霊さんはこの人たちを運ぶのを手伝ってほしい。上に着いたら結界の精霊さんは、他の人には見えない結界を、魔導士さんたちを囲うように張ってくれるかな?」
『わかった!』
『がんばる!』
「ありがとう! はちみつめちゃくちゃ奮発するな!」
『はちみつ!』
『はちみつ?』
『あまーいよ!』
『あまーい!』
喜んでくれる精霊さんたちが、天使だ。
「よし、急ぐぞ!」
風の精霊さんが透夜を加速しつつ、風で一緒に衛士さんや魔導士さんを運んでくれる。
ガチムチ衛士さんを3人担いだ透夜は、階段を十段飛ばしで登り、飛び落ちて、また登り、を繰り返し、のびた衛士さんと魔導士さんの運搬を5分で完了した。
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