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おまけのお話
やばい
しおりを挟むとつげきの決意とともに、ジゼはちいさな拳をにぎる。
「若、大きくなられて……!」
潤んだ目を拳でぬぐうコゴに
『……まだちっちゃいんだがな……』
ジゼの目が遠くなる。
残念ながら父上の半分くらいだ。
同年代と比べる機会があまりないが、おそらく小柄な部類だと思われる。
──これから伸びると期待したい。
切実に。
複雑な気分で見守るジゼの前で、コゴは手早く軽食を用意してくれた。
「若、どうぞご武運を──!」
湿布薬と軽食を持たせてくれたコゴが祈ってくれる。
「ありがとう」
微笑んだジゼは、コゴの愛にあふれたお盆を持ち、おそるおそる邸の2階の最奥にある父の寝室に向かった。
普段は、全く近づかない。
大人には、オトナの事情があるだろうという配慮だ。
『ジゼ──!?』
みたいな事態にならないようにと配慮している。
我ながら優秀な8歳児だと思う。
しかし今回は例外だ。
……父親と伴侶の、そういう声とか、荒い息遣いを聞くのは、なんというか、もう、勘弁してほしいという気もちでいっぱいだ。
こちらが恥ずかしい──!
しかし耳栓をしていては様子をうかがえないし、会話もできない。
頼むから何も聞こえませんように……!
祈りながら、ジゼはわざと足音をたててゲォルグの寝室へと近づいた。
『これから行きますよ、止まってください、ちょっとだけ』
願いをこめて、かるい体重を思いきりのせて足を踏みしめる。
カツカツ鳴るかかとに、まるで音のしない邸がふるえた。
今聞こえるか、今聞こえるかと、おそるおそる近づいた部屋からは、何の物音もしなかった。
ギシギシ軋む音とか、荒い息とか、あまい声とか、とろける悲鳴とか、何にも聞こえない。
『よかった……!』
泣きそうになりながら安堵したジゼは、そびえたつ深い飴色の扉を、やわらかに叩いた。
「父上、セバ、ジゼです。もう10日になります。お加減は、大丈夫でしょうか。
湿布薬と軽食をお持ちしました。顔を見せてはくださいませんか」
声を張るのと同時に、氷魔法で防御壁を展開する。
父ゲォルグの氷魔法の得意技は、貫通だ。
ふつうの魔術士が張る防御結界を撃ち砕き、氷柱で貫く。
ふつう、死ぬ。
ドディア帝国の守護を司るとまで言われるジーグおばあさまは規格外だが、父ゲォルグも必殺魔法が使える。
帝王陛下が勅命を使ってでもその血を残したいと願ったのも当然だろう。
……勅命がなければ、ゲォルグは決して、セバ以外と子をつくろうとしなかっただろうから。
そうして生まれたジゼは、おそらく、父ゲォルグの必殺貫通魔法を唯一防げる存在だ。
……いや、ジーグおばあさまも氷魔法が使える以前に根性で防ぎそうだし、メナも何とかする気がするけど、ここにいるなかでは、唯一防げる存在だと思う。
……まさか、寝室に籠もりきりになってしまいがちな父とセバを心配するためだけに生まれたわけじゃないよな……?
引きつりながら氷魔法を展開し、父ゲォルグの必殺魔法に備えた。
まだ8歳なジゼは魔力が成熟しきっていない。氷魔法で完全に防げなかった場合、大けがするかもしれないが、死なないと思う。
父とセバの、荒い息やあまい声や、寝台がギシギシ揺れる音を聞く心配と同時に、殺されそうな心配をしながら、8歳のジゼはお盆を左手に、魔力を右手に、声を張る。
「父上、ジゼです。だいじょうぶですか!」
…………………………。
無音が続いた。
氷魔法は襲ってこない。
…………だいじょうぶ、なの、か……?
心配だが、邪魔されたくないのかもしれない。
仕方ない。この隣にある小窓に盆を差しこめばいいんだな。
吐息したジゼが動こうとしたとき、ゆっくり、寝室の扉が開いた。
艶が、したたる。
壮絶な色が香る。
「……ジゼ……?」
濡れたくちびるで、乱れた月の髪で、紅い痕が無数に散らばるうなじで、かすれた声で、名を呼ばないでください、父上──!
……卒倒しそうだ。
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