最愛の番になる話

屑籠

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 次の日から、俺は風都と一緒にまた学校へ通い始めた。
 言われた通り、午前中だけの出席にして。
 もとより、あまり通う事のできない学校だから、出席日数とかは関係ないんだけど。

「ねぇ、一週間も発情期だったの? 大丈夫?」

 教室に着くと、雫が待っていましたとばかりに近寄ってきた。
 少し、発情期の話をすると、心配したように顔を近づけて来る。

「え、何が?」
「学校来て大丈夫なのかって話。だって、番と発情期を過ごしたんでしょ? よく学校なんて来させてもらえたね」
「う、ん? 別に、閉じ込めようなんてされて無い」

 すると、雫はとても変な顔をして後ずさった。
 うわぁ、と俺を風都を見比べているようだ。
 俺が振り向くと風都は何でも無いように、にっこりと笑っている。

「うん、君の番が寛容だってことは分かった」
「は?」
「君は、本当にアルファについて何も知らないんだね」
「……もともと、ベータだったからな」

 雫の物言いに、少しむっとしてそっぽを向く。
 けど、雫は気にしていないのか、バンバンっ、と机をたたいてくる。
 
「だとしても、だよ! 意図的に関わりを避けていたとしか思えないね」
「……別に。避けては、無いと思う。興味がなかっただけで」

 興味を持ったところで、それを知ったところで、ベータが関われるわけがないと思ってたから。
 だから、興味を無くした、と言えばいいのか。
 
「興味がない!? アルファとオメガについて、ベータでも君より知ってるよ! てか、発情期のあとなんて特に番のアルファはオメガを離さないものだけどね!」
「そうなの? ……あぁ、でも啓生さんもなんか微妙な顔してたっけ」
「それはそうだよ! そもそも、アルファのことはアルファに聞きなよ!」

 それもそうだ、と思って振り返って風都を見ると、風都は首をゆるく横に振った。

「啓生様については一般的なアルファとは少し異なりますので、私には分かりかねます」
「一般的なアルファの話をしてるの!」
「一般的なアルファ……番のアルファってそんなに独占欲が強いんだ」

 首を傾げると、風都も困ったように笑っていた。
 そんなに、一般のアルファと啓生が違うなんて思わなかった。
 そして、一般的なアルファと啓生が違うのなら、学校に通う意味はこれ以上ないのかもしれないと思い始める。
 思えば、啓生の事が知りたくてアルファオメガについて知りたかっただけだし。
 
「えぇ、まぁ。発情期と合わせて短い人で一週間、今回の場合だと二週間ぐらいはお休みすることになるかと思います」
「それは、またなんで?」
「発情期明け、と言うのは大事な時期ですので」
「大事な時期?」
「君、何でオメガが生む性だと言われてるか知ってる?」
「あ……? うーん? えっと、あぁー、妊娠? でも、そんな閉じ込めたところで変わらなくない?」
「そんな考える事じゃなくない? 僕らは発情期と妊娠はセットだよ。だから、今どき抑制剤とか抑制器とか避妊薬なんかが発達してるんだから」

 未だに、オメガになったとて本当に妊娠するようになるのか、そんな風には思えない。
 でも、そうか。発情期明けで、妊娠している可能性があるのか。
 そこで、朝陽がもう一度病院に来いと言った意味が分かったかもしれない。
 その為の検査をするんだろう。
 
「アルファの精液ってすごく粘着質で、オメガって普通より流産しにくいって言う特性があるけど、それでもアルファって確実に受精させるまで動かしたくないんだよ。どれだけ、避妊してたとしても」
「でも、そんなに休んだところで変わらなくないか?」
「だから、アルファの精液って粘着質だって言ってるでしょ?」

 呆れたように雫が言う。
 けど、そうか。
 アルファが確実に孕ませるための期間が必要なんだと、理解した。

「でも、啓生さんって何も言わなかった」
「啓生様は、なるベく咲也様の願いを叶えようとなさいますので」
「アルファなら番の願いを叶えようとするのは当然だよ」

 そういうモノなのか? あぁ、でも啓生は言ってた。捕らわれる以外は叶えられることは叶えてあげるって。
 だから、そういうものなのかもしれない。
 
「……俺だって、説明されたらちゃんと納得する、多分」
「ふふっ、我慢なさる咲也様も啓生様は愛でますが、それ以上に嬉しそうになさる咲也様を愛しておられますよ、啓生様は」

 その言葉と表情に、風都でさえ俺の事をかわいいと思っているんじゃないかと思う。
 別に、俺はかわいくない。そう思ってるのは、どうやらあそこでは俺だけみたい。

「むっ……、俺、風都さんにもかわいいとか思われてんの?」
「納得いかなさそうなお顔ですが、一族のアルファからすると、とてもお可愛らしい方ですよ」
「それをどうして、俺に直接言っちゃうの」
「申し訳ございません。本心ですので」

 そう言いつつ、風都の顔は笑っていた。
 ムッとしながら、帰ったら啓生に話してやると心の中で誓う。

「ねぇ、雫」
「え、何? 君がいきなり名前呼んでくるとか、怖いんだけど」

 うわっ、と雫が俺から少し距離を取る。
 何で? 俺、別に何もしないのに。
 
「何が? と言うか、雫から見ても、俺ってかわいく見えるの? どう見ても、ベータじゃない?」
「それを僕に聞く? 君を溺愛してるアルファの前で」
「風都さんも啓生さんも何もしないよ、多分」

 雫も俺も風都を見るが、風都はにっこりと笑うだけだ。
 ていうか、俺は啓生の番であって別に風都に溺愛されてるわけじゃないと思うけど。
 風都は、俺が啓生の番だから仕えてくれてるだけだし。
 
「多分って何、多分って! まぁ、僕からしてみれば? 君の見た目は完全にベータとオメガの中間だけど」
「ベータとオメガの中間?」 
「そ、中間。何て言うか、仕上がってない感じ? まぁ、でも普通のベータよりはかわいい顔してんじゃない?」

 なるほど、とうなずく。
 でも、オメガとして仕上がってないのか、年だから仕上がってないのかは分からないけど。
 でも、オメガとしても見えるし、ベータとしても見えるって事?
 俺、啓生の番になるまでベータ以外に間違えられたことないのに。
 
「雫はツンデレだな」
「ツンデレって何!? もう、そんなこと言ってるともう答えてあげないんだから!」
「ごめんごめん。なんか、雫が面白くて」
「僕を笑いのネタにしないでよね! と言うか、僕を揶揄わないで!」
 
 もうっ! と怒っている姿も可愛らしい。
 やっぱり、俺には雫みたいなオメガが可愛らしいオメガなんじゃないかと思うんだけど。
 啓生たちの目はどこかおかしいと思う。
 でも、きっと番が一番なんだろうな、アルファってやつは。
 そんなの、知ってた、けど。
 ふと、自分の両親を思い出して首を傾げる。
 父は、アルファだったけど母に興味は無かった気がした。
 どうでもいいと、思っているようだった。
 夫婦、だったけど、番、だったのだろうか?
 分からないな。

「番に興味のないアルファなんているのか?」
「運命の番以外は、番のアルファに別の番を作られるリスクって言うのは常に抱えてるものだよ? だから、僕たちオメガは番のアルファをメロメロにするために自分磨きをするんだから」
「そうなのか……オメガって、かわいいだけじゃないんだな」

 そう言えば、同じ顔立ちしてたのに光也はベータに間違えられたことは無いし、そもそも俺と光也が双子なのに間違えられたことは無いのはそう言う事なのだろうか?
 光也の部屋にはいろいろ美容品が整っていた気がする。それに、服とかも俺はあり合わせな感じだったけど、光也のはちゃんと選ばれていた気がする。
 まあ、あの家で適当にされてたのは俺だけだったけど。
 兄も姉も、衣食住すべてにおいて整えられてたし。

「それはそうだよ。別に、でもそれはベータもオメガも変わらないじゃない?」
「……ベータも? 別に、ベータ関係ないと思う」

 ベータの夫婦を知ってるわけじゃないけど。
 そう言えば、周りに居る夫婦と言えば皆、アルファとオメガだった。
 坂牧の家がある地区に、あまりベータの夫婦が居なかったのかもしれないけど。
 
「でも、ベータの夫婦だって努力しないと離婚しちゃうんだから変わらないよ。まぁ、その点オメガの方がリスクは大きいけど」
「ふぅん……まぁ、そうだな。なぁ、風都さん」
「はい、何でしょう?」
「俺も、何か努力した方がいい?」

 俺に目線を合わせて来た風都に首を傾げながら聞く。
 啓生がそれを望むのなら、俺はできる範囲で努力しようとは思う。
 どこまでできるかなんて、分からないけど。
 それを言ったら、風都は少し目を見開いてそれから、笑う。
 おかしそうに、楽しそうに。
 
「っ! んっふふ、啓生様なら今の咲也様で十分溺愛されてますので、これ以上なさると、手が付けられなくなるかもしれませんよ」
「そう? ……んー、確かにそうかもしれない」

 啓生がこれ以上、俺にかわいいとか言ってきたら困るし。
 別に、言われてるだけならいいけど、でも俺は自分で自分をかわいいとは思えないから。
 だから、やっぱり困る。
 俺が、俺自身をかわいい見た目だと思ってたら別かもしれないけど。
 
「まぁ、でも啓生様が、自分のために何かをしてくださる咲也様に喜ばないわけはないですが」
「啓生さんはいつも変だからな」
「自分の番をそういうのはあまり良くないよ?」
「いいんだよ、啓生さんだから。雫も会う機会があったらわかるよ」
「そう? 君の番だから、怖い気もするけど」
「どういう意味?」
「そのままの意味」
 
 啓生が怖いって、どういう事なんだろう?
 風都を見るけど、笑っていて否定も肯定もされないけど、無言って事は肯定なのかな?
 でも、啓生が本気で怖かったことなんて、一度もなかった気がする。
 なんだこの人、とは出会ったとき思ったし、そう思うって事は怖かったんだとは思うんだけど。
 でも、そこまで警戒してなかった気もする。
 でも、ずっと変な人だとは思ってる。今も、多分これからもずっと、啓生とは価値観がすれ違うたびに俺は思うんだと思う。
 
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