イスティア

屑籠

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第一章

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 目が覚めると、知らない場所に寝ていた。
 それはそれは、最近のラノベなどの滑り出しのような常套句。

「どこだ、ここ……」

 当たりを見回せば、ここがそれなりに金のかかった場所だということは判断がつく。
 ガンガンと痛む頭を抱えながら、上半身を起こすオーガ。
 顔に手を当ててみれば、仮面の有無さえも分かった。まだついてることに、はぁと息を吐く。
 そして、ん?とベッドから何とか降りて外を見る。
 それなりに高い場所にあった部屋からは、城壁の外が丸見えだった。

「……スタンピード、か?くそっ」

 痛む頭を抱え、それでも状況を確認しようとオーガは部屋を出る。
 扉を開けて転がり出たとたん、きゃあっ!と女性の悲鳴が上から聞こえた。
 転んでしまったオーガに驚いたのと、オーガが起きているとは思ってもみなかったからだ。

「おい」

 オーガは苦しそうな声を上げ、彼女を呼び止める。

「はっ、はい!」
「今の状況は?ここは王宮なのか?なぜ俺はここにいる?外はどうした?答えろ」

 まるで、悪役の物言いだが、オーガにはそれ以上相手を気遣った問いは言えなかった。

「で、殿下が連れてきたのです」
「殿下?……ラジュールか。それで、あいつはどこにいる?」
「守りの棟に」

 守りの棟?と疑問がないわけではなかったが、とにもかくにもどういう状況か確かめなければいけない。
 オーガがどう動いた方がいいのか。
 ……いや、ひどい頭痛の中、それだけは明確にわかるような気がした。
 くそっ、と悪態をつきながら、バタバタと駆け回る城の使用人たちを捕まえ一番高い場所にあるテラスへの道を聞く。
 そうして、どうにかふらつきながらあかない扉は破壊してたどり着くと、ちゃりっ、と虫籠を取り出す。

「レティ、あの子たち連れて出てきてくれ」

 ふわり、と風が吹くとスライムを数匹連れたレティが現れる。

「レティ……」
「わかってるわよ、リカルド達の応援に行けばいいんでしょ?い・け・ば!!」

 ぶすっとした顔をしているレティがスライムたちを引き連れて飛んでいく。
 レティはフィンリルであるから自分の属性以外も多少の魔法も使える。
 風魔法でスライムたちを運びながら自分も行くなんてことは朝飯前のこと。
 悪いな、とオーガはレティたちを見送りながらもう一度虫籠に触れた。

「出てこい、紫電……」

 ダァアアアアアアン!!!ともの凄い轟音を立ててオーガの前に雷が落ちる。
 ばちっ、ばちっ、と静電気を視覚化させたような雷を纏い、灰色の長髪に紫色の瞳の男がオーガの目の前に立っていた。
 その男は不機嫌そうな顔で、オーガを見下している。

「紫電……お前は、レティたちと反対側に行って敵を殲滅しろ。人間には手を出すなよ」
「……」

 チッ、と舌打ちをしてそのまま雷の如く駆けていく紫電。
 彼は雷獣。オーガの、只唯一の使役獣だ。契約獣であるレティたちとは違い、紫電は、契約を課せられ縛られ従属している。
 オーガとの契約内容は秘密だが、オーガに紫電は逆らえはしない。レティたちが契約獣と言うのは、一方的な契約ではないが、紫電にあるのは一方的な契約だ。
 契約の効力の強さは、力量差に比例する。
 オーガはまだその契約が生きていることに安堵し、息を吐いた。
 あの紫電と言う雷獣は、ONIの世界では言わずと知れた厄介者だった。
 それが、開発者側の悪戯なのかは分からないが、彼は第5都市に入る手前にある雷の棟の主。
 第4都市が解放されると同時に、紫電はプレイヤー狩りを行いだした。
 まるで、プレイヤーたちの行く手を阻むように。
 オーガも参加した、掃討作戦でアルトたちと共に追い詰め、オーガが使役獣としたのだ。復活され、再び邪魔されても困る。
 それ以来、虫籠から出したことはなかったのだが、仕方がないだろう。今の状況下では。
 今は、紫電を信用するしかない。
 オーガはそれより、と息を深く吸い込んだ。
 ストレージから杖を取り出し、握りしめる。

「裁きの時は来た」

 その声に、魔力が乗ってふわりと広がっていく。

『その腕に抱きし同胞よ』

 同時に、魔力の声が杖を通し響く。
 脳へ直接語り掛けるような声。
 二重の詠唱。
 魔力量何て足りるわけがない。だから、借りてくる。

「玲瓏なる者たちよ
 虚ろなる者どもに
 判決を下せ」
『我の言葉を胸に刻め
 終の住処と四方の山
 それより先は死者の国』

 ふわりふわりと広がっていくホワイトイエローと黒い光の玉。
 それの一つ一つが、オーガの魔力の塊である。
 誰も、居ないことが悔やまれるくらいその場は神々しくて。

「罪深き深淵を這う者たちに安らぎを
 理から外れた哀れな者たちに慈悲を」
『黄泉の同胞、我らと再び会い見えん
 終わりなき戦、漂う者どもへ』

 今から放たれようとしているのは、魔力の色からわかる通り、光と闇の魔法。
 使い手が、世界で探してもあまりいない、光の魔法。オーガ自身は、その適正があるなんて、思ってもみなかった。
 どうせ、土とか水とかそういうありきたりな魔法の適正だと思っていたのに。
 そして、オーガ自身は闇の魔法をほとんど使えない。
 だからこそ、闇の魔法を使えるようになれるよう、工夫した。どれだけ努力しても使えないものは使えないのであれば、もう道具に頼るしかない。
 今握っている杖、それが闇魔法を使える秘密。ONI時代に作った武器の一つ。
 魔力を流せば闇魔法の第五位以上を使えるようになる魔道具でもある。

「罪なき聖者へ遺憾無く癒しを
 今降り注げ、ジャッジメント!」
『我は願う
 今は眠れ愛しき子らよ、ディープドロップ』

 ジャッジメントは、本当に雨のように細い光の粒が空から降り注ぎ、あふれ出てきた魔獣や魔物などにかかるとそのかかった場所から溶けていく強力な光の魔法である。
 もちろん、味方とオーガが認識している人間にかかっても死なない。むしろ、怪我を治す役割もある。
 スライムたちをレティに連れて行かせたのは、怪我人を癒すためでもあるし、その場で出た不衛生な布などを処理するためでもある。
 燃やすよりも彼らに任せた方が手っ取り早い。 ゴミも出ないし。
 ディープドロップは、強制催眠の闇魔法だ。王都を中心とした半径50キロを的に、黒いドームのようなものに覆われ、その中のオーガが対象としたものを眠らせたり麻痺させたり、混乱させたりする。
 ディープドロップの怖いところは、以上耐性を持っていたとしても必ずかかることだ。流石に無効まで行くと相殺されるが。
 
 流れ出していく魔力に、足りない魔力を補填しようと吸い上げる。
 
 どこから?
 
 この、世界から。
 
 抜け出ていく魔力を感じ、世界から吸い上げる様に魔力を補給する。
 が、オーガはふと変な感覚に襲われた。

(……吸い上げている魔力も、俺から抜け出ていく魔力も、同じ?)

 今は集中を切らすことができないから、ぼんやりとしか考えられない。
 ある程度の魔物たちが片付いたら、ふぅ、と息を吐き、オーガはその場にばたっ、と倒れた。
 魔力切れだ。もちろん、人間が魔力を失ったところで死ぬわけではない。妖精族などではない限りそれはあり得ない。
 だが……

「今のは何だ……?うぅ……っ、頭が、割れる……っ」

 考えれば考えるほど、頭が割れる様に痛む。
 まるで、何か思い出してはいけない記憶を掘り起こしているように。
 はっ、はっ、と苦しそうな息を吐くオーガだが、不幸なことにこの場所には誰もいない。
 レティたちも、後始末に奔走していることだろう。戻って来るのは、まだまだ先の事だ。
 ぐっ、うぅ、とうめき声をあげているが、気絶できるほどの痛みではない。
 だから、余計に苦しい。痛みを和らげようと頭を抱え、丸くなるが、そんなことをしても無駄だけれど。
 そもそも、世界、イスティアから力を借りたのに、自分の内側から力が吸われていくなんてどういう事だと考える。
 痛みでまともな思考にならないが、それでも考えていた方がまだ頭痛はマシになった。

「オーガっ!!」

 その声が聞こえてきたのは、一体どのくらいの時間がたったころだろう?
 まだ、それほどの時間はたっていないのかもしれないが。

「ぃ、ぃたぃ……いたい……」
「あぁ、分かっておる。わかっておるとも」

 オーガの体を抱きしめ頭を抱え込んだラジュールはよしよしとオーガの頭をなでる。
 不思議なことに、そうされると痛みがすぅっと消えていくような気がした。
 だが、オーガはそれよりも不思議な事が有る。

(俺は、この感覚を、知ってる?)

 困惑を浮かべた表情でラジュールを見上げれば、困ったように笑われた。
 日本に居た頃ではない、もっと、その前の……大事な記憶が抜け落ちている気がした。

「今は眠るがいい、オーガよ。目覚めれば、我から説明しようぞ」
「やく、そく……」
「あぁ、約束じゃ……」

 目元に手を当てられ、その温かさに目を閉じれば、不思議とすんなり意識は落ちていった……。

「お主が思い出さぬなら、その方が良いのだろうが……それは、無理であろうなぁ」

 オーガの体を抱えたラジュールはその体を極力揺らさないようにそっとそのテラスを後にした。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 side:レティ

 オーガちゃんは、スタンピードが始まっても暫く起きなかった。
 いいえ、起きれなかったのよ。
 この世界が、オーガちゃんに干渉してきていたから。
 魔力が馴染み、この世界へと溶け込むように。
 勇者たちは、はっきり言えば異物。でも、オーガちゃんは違う。

「レティ、カオ、コワイ」
「レティ、コワい、コワい」
「うっさいわね、あんた達!」

 スライムのドーレーミーの音階たちが口々に言う。オーガちゃんのネームセンスもどうかと思うわ。
 彼らは、優秀よ。回復魔法や毒消し、洗浄など様々な能力が使える。だからこその、オーガちゃんの契約獣なんだけど。
 スライムがどっから発声してるのかなんて私は知らないわよ?そんなの、知るわけないじゃない。

「レティ、オコ?」
「レティ、オコオコ」
「仕方がないでしょ?せめて私だけでも外に出してくれれば違ったのに!!」

 まぁ、オーガちゃんも倒れるなんて思ってもみなかったでしょうから?仕方がないとはいえ、やっぱりムカつくわ!
 危機管理が足りないと前にも言ったのに!どうして彼だけこの世界が呼んだのか、全く理解してない!
 それに、私たちが飛んだあと、紫電の動き出す匂いがしたわ。魔力が、伝わってきたのよ。
 紫電は今まで一度としてオーガちゃんは呼び出したことがなかったのに、今回はそれだけヤバいってことなのかしら?
 でも、気に入らないわ。紫電の奴、使役される前は、オーガちゃんに酷い怪我負わせたんだから!
 それに、私より弱いくせにモーションかけてくるのよ?あり得ないわ!強くなってから出直してきなさいっての!!

「レティ、アソコ、アソコ」
「レティ、トマレ、アソコ」

 ん?と城門付近で止まり、地上を見れば、見知った顔があることが分かる。
 んー、と少し考えて私はスライムたちを彼に預けることにした。

「リカルド!」
「っ、レティか!?久しぶりだな、と言う事はオーガは回復したのか……」

 良かった、とリカルドは息を吐いた。

「えぇ、目が覚めて今無茶してるところだわ。それより、ここって怪我人が多いのでしょう?」
「あ、あぁ。ここは後方だからな」
「だったら、この子達置いていくわ。オーガちゃんの契約獣だから役に立つわよ」

 と、手に抱えていたスライムをぼたりと地上に落とす。
 他のスライムたちも、風魔法を切れば地上に落ちた。

「レティ、ヒドイ、オニ!」
「レティ、オニ!オニ!」
「レティ、ヒドイ!」
「うるさいわよ!スライムなんだから落下ダメージ何てあるわけないじゃない!!」
「レティ、オニ!」
「うるさいわ!!私はフィンリルよ!!」
「レティ、アクマ!」
「えぇい、うっさいわ!!黙ってリカルドに従ってなさい!!」

 じゃあね!と鬼だの悪魔だの言うスライムたちを置いて、前線へと駆ける。
 スライムたちを気遣わなくていい分、とても早くいける。
 外と街を分ける壁を超えるとき、結界に引っかかるかしら?と思ったけれど、そんなことはなかった。
 オーガちゃんの契約獣としての制約があるから、大丈夫なのね。
 ウォーーーーン!!と遠吠えを一つ。
 
【闇の弾丸(ダークネスショット)】

 ぶわり、と体の周りに無数の黒い球が浮かぶ。
 それが勢いをつけ、魔物たちの元へと向かっていった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 side:???

イスティアがその姿になったのは、とても久しぶりのことだった。
オーガたちが落ちた世界、そのものと言われているイスティア。
だが、オーガが去ったあと、人型、それもこの世界のだれでもない、イスティアだけの姿をとった彼とも彼女とも取れない中性的な顔立ちの人。
どこか、ラジュールに似ている気がする。他人の空似、なのかもしれないが。

「久しぶりだねぇ、その姿を見るの。本物の、イスティアが居た頃以来かな?」
「……」

答えることなく、イスティアはただただ己(世界)に目を向け、オーガの周囲を探る。
彼が安寧を手に入れられるように、と。
レスティアは、なおもけらけらと笑いながら話す。

「この世界は、双子の陰と陽であった」

それは、創世神話の一説。だが、大体が真実である。
双子の陰と陽。
人間は知っているだろうか?陰と陽は本当は隣り合わせで一つの存在なのだと。

「けれど、ある日のこと」

そう、レスティアが続ける物語は、今はシーファの王族しか知らない物語。
創世神話にもどこにも記載されていない、この世界が半分消えてしまった話。

「奇麗な悪魔だと罵られる陰の、不幸、偽りの象徴だった”レスティア”に幸せを教えるため、幸福、真実の象徴だった醜い”イスティア”が自らの身を犠牲にして、”レスティア”に幸福を与えました。すると、”レスティア”は”イスティア”になり、本物の”イスティア”は消えてしまったのでした」
「……っ」
「そして、世界は不安定になった。だから、世界を管理している上層部がこの世界に、管理者として送り出した、レスティア。さて、不幸とはだれの事だろうか?」

にやり、と笑うレスティアをにらみつけ、再びイスティアは光の玉に戻ってしまう。
レスティアの言葉が聞くに堪えないと。自らの過ちを突き付けられているようで。
その様子を、レスティアはたいそう面白そうに見ていた。

「あの子が、イスティアなんでしょ?」
「……」

先ほどから、レスティアの言葉を無視するように、何も話さないイスティア。
それでもずっと、オーガの行方は追っていた。

「君が、この世界の誰でもあって、誰でもない君が、彼にだけなれないというのは、そういうことでしょ?」

ニコニコと笑うレスティア。もうすぐ、俺の役目は終わるな、と楽しそうに笑う。
このレスティア、本来は一体何なのだろうか?


☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 side:リカルド

「おっ、おいレティ!?」

 レティは宣言通り、スライムたちを置いて前線へと行ってしまった。
 落とされたスライムたちはレティにとても憤っているようだが、損傷はないみたいだ。
 いや、それよりも。

「何でしゃべってるんだ……?」
「スライム、ハナスゾ!」
「ソウダ、ヘンケン、ヨクナイ!」
「ヨクナイ!」
「わっ、分かったから静かにしてくれ」

 はーい、といい子たちのようにスライムたちはおとなしくなった。
 しかし、スライムたちが人の言葉を話し、かつ、理解しているのは珍しいのではないのだろうか?
 野生のスライムたちや、街の地下水路で飼われているスライムたちは、人の言葉を理解しないし、人語を話すこともない。
 オーガの契約獣だからだろうか?いや、そうなのだろう。

「で、お前らは何ができるんだ?」
「ドドハ、キズヲナオス」
「レ―ハ、イジョウカイフク」
「ミーハ、ボウショク、オソウジ」
「ファー、マリョク、カイフク」
「ソラ、センタク」
「シード、ケッカイ、ハレル」

ドレミファソラシド、という事なのだろう。ネームセンスに、リカルドはため息を吐いた。
オーガらしい、と言えばオーガらしい。

「じゃあ、それぞれの得意分野を生かしてそれぞれ手伝ってくれ」

はーい、といいお返事で散りじりに彼らは散っていく。
オーガが起きない間に、スタンピードは始まった。
だからとは言わないが、けが人が多数いて、手が回らない状態だ。仕方がないことだろう。
早速、ドドは患者を飲み込んでは吐き出している。患者の傷跡は、奇麗に治っていた。
毒やしびれを受けたものは、そのままレーに渡され、レーの体内で解毒され吐き出される。
でろでろにスライムの粘液で濡れてはいるが、元気に回復しているので良しとしよう。
ファーは魔術師たちのところに行き、魔力回復薬を提供しているらしい。ソラは、衛生的に良くないものを徹底的に掃除している。
ミーは、ボウショクと言った通り、ゴミと判断されたものや、使えなくなったものを片っ端から食べていっている。
食べて、吐き出すこともあるが、基本的に消化しているのではないだろうか?よくわからないが。
シードは、後方の結界維持の魔術師たちの下に行き、ローテーションに加わるみたいだ。
シードがいるだけで、とても助かるだろう。

「……規格外だな、助かるが」
「リカルド、あいつら何なんだ?助かるが……」
「オーガの、契約獣だ。詳しくは俺に聞くな、俺も今日初めて会ったんだ」

レティ以外の契約獣がいるような会話をレティとしてたことは知っている。
だが、見たことはあのレンジ以外なかったのだ。
ドォオオン!!と雷の落ちる音がする。これもきっと、オーガの仕業だろう。
聞こえてきた向きからして、王都の兵士や騎士たちが対応している場所だ。
全く、と何とも言えない気持ちになっていると、空が曇り、雨が降り始めた。
金色の雨だ。

「魔法……第十位、ジャッジメント……?嘘だろう、誰が……」

裁きの雨、と呼ばれるその魔法は、使える人間がいないのではないか、と言われた古の魔法。
聖なる雨は善なるものの傷を癒し、悪を打つ。
その雨が降りあたる場所の魔物がだんだんと数を少なくしていくのが、後方からでも目に見えて分かった。
それと、黒いドーム型の魔法も展開されている。
闇魔法だろう。

「……こんなことするのは、オーガぐらいだな……」

ぽつり、と呟いたが、リカルドにはオーガが無事かどうかが少し心配になった。
ついさっきまで寝ていたのだ、こんな大魔法をつかって、体に不調が現れないわけがない、と。
だが、ここを離れて様子を見に行くわけにもいかない。まだ、敵は残っている。

「……くそっ」

そう、悪態をつきながら、城に居る、王太子を思う。
オーガを連れて行った本人なのだ、何とかしてくれることを願って。
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