CRYSTHL―クリスタル―

気紛屋 月影

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昔話、そして再会。

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 少しだけ、昔の話をしよう。
 今となっては昔話じゃなくて、記憶辿りの御伽噺おとぎばなしかもしれない。けど、これは本当にあった出来事だと私は今も信じている。

 これは、私が転生する前の記憶。
 
 世界は無数にあって、私が居た世界は”絶”と呼ばれていた。
 今の私が生きるこの世界――”転”の言葉で”絶”を表すとしたら、「異世界」という言葉が当て嵌まる。
 ”絶”は争いが絶えなかった。
 毎日何処かで人は死に、血が流れるのが日常な世界。

 そんな世界で私は、あの人に出逢った。
 
 初めは敵として。
 敵将であった私の髪を褒めた物好き。
 流星の石の神託に従うがまま、私が属していた国は、あの人――黒蒼の国を滅した。
 
 王都を占拠した私は部隊を退却させた後、黒蒼を探して街を駆けた。
 敵であるはずなのに、何故だろうな? この時の私の行動を知る者がいたら、失笑していたかもしれない。今となっては、どうでもいいが。
 
 「ぁ……ぁあああアあァああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼」

 走り続けた先に見たのは、血の海に沈む黒蒼の姿だった。
 無数の刃に貫かれ、誰にも看取られずに息絶えたであろう彼に、私は息の続く限り絶叫した。絶望。その一言だけが、重く圧し掛かる。
 敵であった。けれど、敵でありながら惹かれてしまった。
 だからこそ、絶望したのだ。

 「一人は、嫌だ……ひとりは、苦しいッ……」

 物言わぬ骸を抱き、私は黒蒼の所持物で自らの命を絶った。
 そこに迷いは無かった。元々、仲間内でも弾かれていた理由もある。悔いも何も無い。
 真紅に染まる世界の中。
 自分と黒蒼以外、誰も居なかった。幸せだと感じた。

 そこまでが、私が覚えている最期の記憶。


 ――――そして、現在。
 「現在いまは、この時、この時間を大切にしたい」
 それが、黒蒼の傍に居られるから。
 もしも、流星の石が”転”の世界に気付いたらどうなるのか。不安でならない。
 流星の石の力は絶大だ。
 平和すぎる”転”を知ったら、何を仕掛けて来るのか解らない。事実、”絶”では平穏な暮らしをしていた村や町が、一夜にして壊滅することもあった。
 「……もし、”転”この世界でも力が使えるなら、今からでも訓練しておこう」
 ”絶”では珍しくもなんともなかった「魔法」を思い浮かべ、”絶”からの転生者――乱銀はそう呟いた。
 
 彼女は願う。
 どうか、どうかこの甘く優しい夢という名の”今生の生”に、長く浸らせて、と。
 二つの記憶を保有することは、二つの世界を混合して見てしまう事でもある。乱銀はそれを知っていながらも、見て見ぬふりをした。
 すべては――惹かれ憧れた、黒蒼の傍に居ることが、彼女にとっての幸せなのだから。

 ※

 桜舞う。
 ひらひらと舞い上がる花弁達は、春風と共に踊る。
 「桜舞い上がる、今、水面に映る我がおもて
 満開の桜を咲かすその木に登り、寝そべるようにしてその身を預ける少年がいた。
 「桜木の下で、再び巡り合う我等の運命さだめ
 思い浮かぶ言葉を何気なく声に出す。思い浮かべ、その時に感じる想いを紡ぐのはただの気紛れ。

 今日から新しい学年、新しい生活。

 大事な時間でもあるというのに、黒蒼は桜木の上に居る。大勢いる生徒の一人が抜け出しても、気付かれないであろうと、本人は思っているのだ。しかし――
 「授業サボリ、みーつけた」
 下から、聞き覚えのあるフレーズ。
 ハッとして下を見下ろせば、少女と目が合った。「………」何も言えずにそのまま見詰め合っていると、「いーけないんだ、いけないんだ」と歌う。
 「……お互い様、だろう?」
 苦い気持ちで頭を掻き言えば、――
 「三年後、またここで逢おう」と、覚えのある言葉。にぃ、と無意識に口角が上がった。
 「あの時の……覚えていたのか」
 「当たり前。約束したじゃない」
 会話しながら、出会った時より成長した乱銀が桜木をよじ登るのを、片腕一つで黒蒼は引き上げてやる。太い枝に二人分の重み。沈黙が二人の間を支配。

 「もしかして、忘れてたの」

 沈黙に耐え切れなくなったのか、それともまた別のことか解らないが、乱銀が呟く。それに少し動揺して首を振った。
 「いや、忘れた日なんてない」
 桜吹雪に目を向けていた乱銀が黒蒼を振り返る。小首を傾げる様が愛らしく感じて、思わず顔を近付け耳元で言い放った。
 「忘れた日はない。約束はそう、忘れない方だ」
 に、と笑って乱銀の頭を撫でる。桜色のようで、金髪。世にも珍しいストロベリーブロンド。とても美しいと黒蒼は思った。その中に、既視感を感じていたのだが、黒蒼は気付くことはなった。
 「髪、綺麗だな」「えッ⁉」
 無意識に言っていた。
 一拍置いて、それから徐々に顔の中心に熱が集まるのが分かった。
 「あ、……あ~、悪い」
 顔に手をやって二人して赤面する。年頃の男女なのだから、当然という結果なのかもしれない。桜の花が舞う中で、二人は顔をそらし続けた。それだけで、時間は刻々と過ぎて行く。


 「そこの二人ッ、サボってんじゃねーぞ‼」

 突然の怒号にハッと意識が引き戻される。声の発信源を見やれば、鬼の形相をした教師が。しかも運の悪いことに黒蒼の担任だ。
 「しまった」「げ、あのハゲッ」
 気付くのが遅れたが、授業終了のチャイムはとっくに鳴っていた。
 たらり、と汗が流れる。顔から血の気が無くなるのが分かった。
 まずい。
 これは非常にまずい。
 黒蒼達の居る桜の木は校舎から丸見えで、人を見つけるには目印にもなっているのを忘れていた。それはもう、綺麗さっぱりと!
 「乱銀、逃げるぞ!」
 「うッ、ちょ、ちょっと待ッ」
 「へぁ⁉」
 地面に飛び降りようとした瞬間に、シャツを掴まれ、黒蒼は無様に落下した。

 「わぁぁぁッ‼」「うぐぇッ‼」

 バランスを崩した乱銀が黒蒼の上に着地。クッションの代わりになった黒蒼のお陰で、無傷だ。対して黒蒼は蛙の潰れたような声を出し、暫く悶絶。
 「こッ、黒蒼ッ」
 「だい、じょうぶだ」
 咳き込みながら何とか立ち上がる。足元が僅かにふらつくも直ぐに治まるだろう。今はただ、桜木ここから離れなければ――と、黒蒼は咄嗟に乱銀を抱き上げた。
 
 「逃げるぞ!」
 「逃げるって何処に⁉」
 「誰も近づかない所だ」

 明確に場所を告げないまま、黒蒼は走った。
 黒蒼は気付いているのだろうか? 乱銀を抱え走るその表情には、笑みが浮かんでいることに。
 「――……」
 それを目にした乱銀は口元を綻ばせ、ぎゅうと、しっかりと首に腕を回した。

 
 三年越しの再会。
 再会した彼等の、先の運命とは――まだ、分からない。
 
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