9 / 19
”絶”で生きる事、そして破壊への手掛かり。
しおりを挟むこの世界は、とても残酷だ。
日々を過ごすだけでも、多くいた仲間達は疲弊し、小さな灯を激しく燃え上げさせることもなく散って行く。
この、血に濡れた”絶”は、力無き者にとって生きにくい。けれど彼等はそれでも生きている。諦めの念を抱いていない者が居る。
彼は生き残った仲間を守る為に手掛かりを探す。
世界を混沌へと導いた流星の石の、破壊する方法を。
「かせ兄ちゃん」
「レグ。隠れ家からあんまり出るなって言っただろ。騎士連中に見つかったらどうするつもりだ」
幼い少年の頭を撫でながらかせと呼ばれた青年は叱った。「ごめんなさい」としょんぼりする少年。かせは眉を寄せ苦笑した。
「さぁ、行こう。暫くは一緒に居られるぞ」
「ほんと⁉ わあいッ」
「ああ」
顔を輝かせて喜ぶ少年の手を引いて、青年は隠れ家と呼ぶ外観が廃墟の建物の中に入って行った。
「かせ!」
「兄ちゃん‼」
中に入ったと同時にわらわらと年齢層の異なる子供達に囲まれた。
「無事だったか。今回は随分と遅かったな」
「アッズ。ああ、心配掛けた。スイゲェ―レンに見つかってな」
「……あの悪趣味野郎か」
周りの子供達よりも年の離れた男が掻き分けるようにして現れ、労りの言葉を投げ掛ける。アッズと言う青年に、遅れた理由を伝えれば思いっきりその顔が歪められた。
年の近いアッズにかせは僅かに疲れた表情を見せ、肩を竦めた。
「まあ、無事に帰って来ただけでも良いか」
歪められた顔は多少緩和されたが、まだ嫌悪感が見て取れた。
「おい、ガキ共! かせは少し休ませる。横暴闊歩する権力者共に見つからねえようにするんだったら、好きにしやがれ!」
アッズの号令と共に、各々散って行く。「かせ、お前少し休んどけ」と、有無を言わさないアッズ。「異議なんて言わさせない癖に」と、長年の付き合いであるかせは笑った。
かせと言う青年は親を失った、または捨てられた子供集団の下で生活していた。
年の離れた仲間。
血は繋がっていなくても、家族であり、兄弟だった。
その夜――
アッズは簡素な寝床に寝転がるかせの所に居た。壁に背中を預け、じっとかせを見詰める。そこに会話は無かった。だがしかし、不思議と気が楽になるのを二人は感じていた。
「……そういやぁ、ガキ共の夜泣きが最近酷くてなあ」
「……夜泣き?」
言いにくそうな声音で口を開くアッズ。ぱちくりと、目を瞬かせる。否、別にその意味が解らないわけではないのだ。まだ面倒を見てやらなくてはならない子供も居るのだから。
「夢を見るんだと。……まだ、黒蒼がいた時の夢を」
泣きはしないが、夢を見るのは俺もなんだがなあ。
廃墟の窓に近寄り、月を見上げるアッズの姿は、何処か苦しそうに見えた。
「兄貴は、俺達の事をどう思ってたんだろうな」
「……」
ほとんど独り言のような言葉。
そう言われて、かせは考えた。――自分達を守ってくれていた彼はもう居ない。ある出来事によって、自分達から拒絶した。
今一度会おうにも、もう会えない。
会えない所に、兄は逝ってしまった。
「……分かんねぇよ、そんなの」
その言葉を絞り出すだけでも、苦労した。だがそんな返答は予測済みだったのだろう。
「ま、そうだよな」
自分とさほど変わらない大きさの手のひらに頭を撫ぜられる。
「兄貴が居なくても、俺達は生きてる。兄貴が、いや……誰が居なくなっても、この狂った”絶”は回ってる」
アッズは元々の仏頂面を更に歪めるなり、かせの肩に自分の額を押し付けた。年の近い兄弟は、自分達二人だけなのだ。だから、子供達の面倒をほぼ任せきっているかせは、アッズの不器用な甘えに何も言わない。
「”絶”は、生きにくい」
疲れ切った声、その表情。それでも、年長者の二人は仲間を守らねばと思い、生きている。
※
その頃、上級な生活が出来る領地の一つで、男が豪華爛漫な屋敷の一室で喚いていた。
「ああ、ああッ、なぜ、何故だ!」
顔立ちの整った、恐ろしく美しい男。
「何故私の物にならん⁉ 何故だ!」
男は喚き、喚き、豪華な装飾品を思うがままに、気の済むままに壁に投げつけ破壊する。
「……何故だ、かせ。ああ、愛しい我が想い人」
力が抜けたように呆然とし、それからくすくすと笑い出した男の名は――スイゲェーレン。”絶”の権力者であり、美しいと思った物や気に入った者を集めるという狂人。
彼が言っているのは、子供集団と共に過ごすかせの事。運の悪いことに、かせはスイゲェーレンに目を付けられてしまったのだ。
美しい物を集めるだけでなく、人間さえも収集するスイゲェーレン。それが女や男関係無く。欲するままにかせを傍に来るよう命ずるも拒否され、彼の兄弟をその手で殺めた事もある。
愚かな権力者。
そんな事をすれば更に嫌われ避けられるというのに、それすら気付かない。
普通の――否、それよりも下の者は力ある者に従うが、かせという青年は違った。
『平気で俺の家族に手を掛ける奴に、従う気も絆される気もない』
堂々と、言ってのけるかせに、ますますスイゲェーレンは彼に執着した。
だから、かせは隠れ家を作り、家族をそこに住まわせながらスイゲェーレンの気を自分に向けさせながら、流星の石の情報を探っている。
「私は諦めない。何時か必ず、お前を私のモノにしてみせよう」
狂気染みた笑いを浮かべ、愛し気にいつの日にか青年から取った所持品を眺め、そう口にしたのだった。
※
「――お兄ちゃん」
小さく、呼び掛けられる。次いで、そろそろと近付いて来る気配に目を覚ました。
「どうした?」
寝転がったまま、声のする方に身体ごと向き直った。
「ごめんなさい。お兄ちゃん、疲れてるのに……」
「いや、気にするな。俺は大丈夫だ」
古ぼけた人形を腕に抱いた少女。おどおどとした様子に、かせは「おいで」と声を掛けた。
「眠れないんだろ? 一緒に寝ようか」「うん、ありがとう」
隣に来るよう促して、かせは少女の髪を梳きながら寝かし付ける。怖い夢など見ない様に。魘されずに朝を迎える事を願いながら。
「……寝たか」「ああ。ぐっすりだ」
背を向ける形で寝ていたアッズが言う。少女が訪れた時から、とっくに目は覚めていた。それは何時何が起こっても対処できるように習慣付けられたもの。かせは驚く事もなく、寒くならない様に少女に毛布を掛けてやった。
「――なぁ、アッズ」
ふと、かせが口を開いた。
少女の頬を撫で、髪を撫でながら言葉を紡ぐ。
「黒蒼のな、友だって言う奴に会った」
あの、神官。
神官ジャ・シンナールに。
「神官? ジャ・シンナールか?」
「ああ」
「流星の石の所に行ったのか! もしもの事があったらどうするつもりだ、かせ!」
「ッ、声がでかい。押さえろアッズ!」
いきり立つアッズ。彼が怒っている理由など、簡単だ。ただ心配しているから、怒りを露わにした。それだけだ。
「しかも、これまであそこに出入りしていた事も知られててな」
肩を竦め、苦笑いに近い表情のかせに、アッズは思い切り睨み付ける。前置きは良いから、その先を話せ、と言いたげな顔だ。
「見付けられそうだ。……あの、流星の石の破壊する方法が」
「ッ!」
「近い内、ジャ・シンナールに会いに行く。その時、重要文献を貰う約束になってる」
半身を起こし、決意の篭った瞳で告げるかせ。どんな危険があろうと、目的がある。
引き留めても無駄だと、言外に言っていた。
「……」
アッズは何も言えない。否、言わない。
こうなっては、どれだけ何を言ってもこのかせの意思は変わらない。だからこそ、アッズはそれ以上何も言わなかった。
「……気を付けろよ」
それだけ、口にする。
言いたいことは山ほど出て来るのに、言葉が詰まる。だから代わりに――
「……アッズ?」
「必ず、戻って来い。……帰って来ねぇと、承知しねぇ」
かせの頭を引き寄せ、抱え込む。どれだけ冷静さを持っていても、彼でさえ恐れているのだ。
家族である兄弟は、年長者にとって一部でもある。
「分かってる。だけど、もしもの時は――頼んだ」
くしゃりと顔を歪めて、かせは言った。
自身の頭を抱え込んだ兄弟のその行動に意味がある。それを知っている。だから、申し訳なく思うのだった。
「馬鹿野郎が」
ふん、とアッズが息を吐き出す。「この話は、終わりだな」これ以上の話は聞きたくない。話しても、どうなるか解らない先の未来を想像するだけだ。
「さて、と……おい、ガキ共!」「ッアッズ⁉」
唐突に声を扉のある方へ上げたアッズにかせは驚き、固まった。
「そこに居んのは分かってんだ。雑魚寝がしたけりゃ、入って来い!」
「な、」
呆然とかせは静止する。アッズの声に多くの子供が雪崩れ込んで来た。
その誰もが、件の夢を見た者や、ただ兄と一緒に寝たい者やらと、様々な理由を持っていたが。
あれよこれと、いつの間にか雑魚寝の空間の出来上がり。
二人の兄は、小さな兄弟達に囲まれてようやく就寝した。
流星の石の破壊を目論む、青年・かせ。
彼は何を思い、行動する?
それは――、後悔の念からか。それとも、自己満足の為か。
それらの思いを知っているのは、アッズだけだ。
奔走するかせを不器用ながら心配する。
彼は、もう居ない兄の夢を――今宵も見る。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる