CRYSTHL―クリスタル―

気紛屋 月影

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”絶”で生きる事、そして破壊への手掛かり。

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 この世界は、とても残酷だ。

 日々を過ごすだけでも、多くいた仲間達は疲弊し、小さな灯を激しく燃え上げさせることもなく散って行く。
 この、血に濡れた”絶”世界は、力無き者にとって生きにくい。けれど彼等はそれでも生きている。諦めの念を抱いていない者が居る。

 彼は生き残った仲間を守る為に手掛かりを探す。
 世界を混沌へと導いた流星の石メテオクリスタルの、破壊する方法を。

 「かせ兄ちゃん」
 「レグ。隠れ家からあんまり出るなって言っただろ。騎士連中に見つかったらどうするつもりだ」

 幼い少年の頭を撫でながらかせと呼ばれた青年は叱った。「ごめんなさい」としょんぼりする少年。かせは眉を寄せ苦笑した。
 「さぁ、行こう。暫くは一緒に居られるぞ」
 「ほんと⁉ わあいッ」
 「ああ」
 顔を輝かせて喜ぶ少年の手を引いて、青年は隠れ家と呼ぶ外観が廃墟の建物の中に入って行った。

 「かせ!」
 「兄ちゃん‼」

 中に入ったと同時にわらわらと年齢層の異なる子供達に囲まれた。
 「無事だったか。今回は随分と遅かったな」
 「アッズ。ああ、心配掛けた。スイゲェ―レンに見つかってな」
 「……あの悪趣味野郎か」
 周りの子供達よりも年の離れた男が掻き分けるようにして現れ、労りの言葉を投げ掛ける。アッズと言う青年に、遅れた理由を伝えれば思いっきりその顔が歪められた。
 年の近いアッズにかせは僅かに疲れた表情を見せ、肩を竦めた。
 「まあ、無事に帰って来ただけでも良いか」
 歪められた顔は多少緩和されたが、まだ嫌悪感が見て取れた。
 
 「おい、ガキ共! かせは少し休ませる。横暴闊歩する権力者共に見つからねえようにするんだったら、好きにしやがれ!」

 アッズの号令と共に、各々散って行く。「かせ、お前少し休んどけ」と、有無を言わさないアッズ。「異議なんて言わさせない癖に」と、長年の付き合いであるかせは笑った。

 かせと言う青年は親を失った、または捨てられた子供集団の下で生活していた。
 年の離れた仲間。
 血は繋がっていなくても、家族であり、兄弟だった。


その夜――
 アッズは簡素な寝床に寝転がるかせの所に居た。壁に背中を預け、じっとかせを見詰める。そこに会話は無かった。だがしかし、不思議と気が楽になるのを二人は感じていた。
 「……そういやぁ、ガキ共の夜泣きが最近酷くてなあ」
 「……夜泣き?」
 言いにくそうな声音で口を開くアッズ。ぱちくりと、目を瞬かせる。否、別にその意味が解らないわけではないのだ。まだ面倒を見てやらなくてはならない子供も居るのだから。
 「夢を見るんだと。……まだ、黒蒼兄貴がいた時の夢を」
 泣きはしないが、夢を見るのは俺もなんだがなあ。
 廃墟の窓に近寄り、月を見上げるアッズの姿は、何処か苦しそうに見えた。

 「兄貴は、俺達の事をどう思ってたんだろうな」
 「……」

 ほとんど独り言のような言葉。
 そう言われて、かせは考えた。――自分達を守ってくれていたはもう居ない。ある出来事によって、自分達から拒絶した。
 今一度会おうにも、もう会えない。
 会えない所に、兄は逝ってしまった。
 「……分かんねぇよ、そんなの」
 その言葉を絞り出すだけでも、苦労した。だがそんな返答は予測済みだったのだろう。
 「ま、そうだよな」
 自分とさほど変わらない大きさの手のひらに頭を撫ぜられる。
 「兄貴が居なくても、俺達は生きてる。兄貴が、いや……誰が居なくなっても、この狂った”絶”世界は回ってる」
 アッズは元々の仏頂面を更に歪めるなり、かせの肩に自分の額を押し付けた。年の近い兄弟は、自分達二人だけなのだ。だから、子供達の面倒をほぼ任せきっているかせは、アッズの不器用な甘えに何も言わない。

 「”絶”ここは、生きにくい」

 疲れ切った声、その表情。それでも、年長者の二人は仲間を守らねばと思い、生きている。


 ※


 その頃、上級な生活が出来る領地の一つで、男が豪華爛漫な屋敷の一室で喚いていた。
 「ああ、ああッ、なぜ、何故だ!」
 顔立ちの整った、恐ろしく美しい男。
 「何故私の物にならん⁉ 何故だ!」
 男は喚き、喚き、豪華な装飾品を思うがままに、気の済むままに壁に投げつけ破壊する。
 「……何故だ、かせ。ああ、愛しい我が想い人」
 力が抜けたように呆然とし、それからくすくすと笑い出した男の名は――スイゲェーレン。”絶”の権力者であり、美しいと思った物や気に入った者を集めるという狂人。
 彼が言っているのは、子供集団と共に過ごすかせの事。運の悪いことに、かせはスイゲェーレンに目を付けられてしまったのだ。
 美しい物を集めるだけでなく、人間さえも収集するスイゲェーレン。それが女や男関係無く。欲するままにかせを傍に来るよう命ずるも拒否され、彼の兄弟をその手で殺めた事もある。
 愚かな権力者。
 そんな事をすれば更に嫌われ避けられるというのに、それすら気付かない。
 普通の――否、それよりも下の者は力ある者に従うが、かせという青年は違った。

 『平気で俺の家族に手を掛ける奴に、従う気も絆される気もない』

 堂々と、言ってのけるかせに、ますますスイゲェーレンは彼に執着した。
 だから、かせは隠れ家を作り、家族をそこに住まわせながらスイゲェーレンの気を自分に向けさせながら、流星の石の情報を探っている。
 「私は諦めない。何時か必ず、お前を私のモノにしてみせよう」
 狂気染みた笑いを浮かべ、愛し気にいつの日にか青年から取った所持品を眺め、そう口にしたのだった。


 ※


 「――お兄ちゃん」
 小さく、呼び掛けられる。次いで、そろそろと近付いて来る気配に目を覚ました。
 「どうした?」
 寝転がったまま、声のする方に身体ごと向き直った。
 「ごめんなさい。お兄ちゃん、疲れてるのに……」
 「いや、気にするな。俺は大丈夫だ」
 古ぼけた人形を腕に抱いた少女。おどおどとした様子に、かせは「おいで」と声を掛けた。
 「眠れないんだろ? 一緒に寝ようか」「うん、ありがとう」
 隣に来るよう促して、かせは少女の髪を梳きながら寝かし付ける。怖い夢など見ない様に。魘されずに朝を迎える事を願いながら。
 「……寝たか」「ああ。ぐっすりだ」
 背を向ける形で寝ていたアッズが言う。少女が訪れた時から、とっくに目は覚めていた。それは何時何が起こっても対処できるように習慣付けられたもの。かせは驚く事もなく、寒くならない様に少女に毛布を掛けてやった。
 「――なぁ、アッズ」
 ふと、かせが口を開いた。
 少女の頬を撫で、髪を撫でながら言葉を紡ぐ。
 「黒蒼のな、友だって言う奴に会った」
 あの、神官。
 神官ジャ・シンナールに。
 「神官? ジャ・シンナールか?」
 「ああ」
 「流星の石の所に行ったのか! もしもの事があったらどうするつもりだ、かせ!」
 「ッ、声がでかい。押さえろアッズ!」
 いきり立つアッズ。彼が怒っている理由など、簡単だ。ただ心配しているから、怒りを露わにした。それだけだ。
 「しかも、これまであそこに出入りしていた事も知られててな」
 肩を竦め、苦笑いに近い表情のかせに、アッズは思い切り睨み付ける。前置きは良いから、その先を話せ、と言いたげな顔だ。
 「見付けられそうだ。……あの、流星の石メテオクリスタルの破壊する方法が」
 「ッ!」
 「近い内、ジャ・シンナールに会いに行く。その時、重要文献を貰う約束になってる」
 半身を起こし、決意の篭った瞳で告げるかせ。どんな危険があろうと、目的がある。
 引き留めても無駄だと、言外に言っていた。
 「……」
 アッズは何も言えない。否、言わない。
 こうなっては、どれだけ何を言ってもこのかせの意思は変わらない。だからこそ、アッズはそれ以上何も言わなかった。
 「……気を付けろよ」
 それだけ、口にする。
 言いたいことは山ほど出て来るのに、言葉が詰まる。だから代わりに――

 「……アッズ?」
 「必ず、戻って来い。……帰って来ねぇと、承知しねぇ」

 かせの頭を引き寄せ、抱え込む。どれだけ冷静さを持っていても、彼でさえ恐れているのだ。
 家族である兄弟は、年長者にとって一部でもある。
 「分かってる。だけど、もしもの時は――頼んだ」
 くしゃりと顔を歪めて、かせは言った。
 自身の頭を抱え込んだ兄弟のその行動に意味がある。それを知っている。だから、申し訳なく思うのだった。
 「馬鹿野郎が」
 ふん、とアッズが息を吐き出す。「この話は、終わりだな」これ以上の話は聞きたくない。話しても、どうなるか解らない先の未来を想像するだけだ。

 「さて、と……おい、ガキ共!」「ッアッズ⁉」

 唐突に声を扉のある方へ上げたアッズにかせは驚き、固まった。
 「そこに居んのは分かってんだ。雑魚寝がしたけりゃ、入って来い!」
 「な、」
 呆然とかせは静止する。アッズの声に多くの子供が雪崩れ込んで来た。
 その誰もが、件の夢を見た者や、ただ兄と一緒に寝たい者やらと、様々な理由を持っていたが。

 あれよこれと、いつの間にか雑魚寝の空間の出来上がり。
 二人の兄は、小さな兄弟達に囲まれてようやく就寝した。



 流星の石の破壊を目論む、青年・かせ。
 彼は何を思い、行動する?
 それは――、後悔の念からか。それとも、自己満足の為か。

 それらの思いを知っているのは、アッズだけだ。
 奔走するかせを不器用ながら心配する。
 彼は、もう居ない兄の夢を――今宵も見る。

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