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それから。、そのあと、

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 ドアを開けてくれて、その場に座り込んだ彼を見たとき、苦しかった。

 明らかに辛い状態なのに、ごめんなさいと謝ってくる。彼が悪いわけじゃない。

 助けてあげたいと思った。そう言えば、子どもみたいな笑顔で、

「うん」
 と、言って抱きついてくれる。目を合わせても、焦点があっておらず、正気とはいい難い。

 それでもいい。今彼は、自分だけを求めてくれる。裏表なく、何も知らないここにいる自分だけを。

 だから、いっしよにいたいと。
 何も考えずに、発情期をいっしよに過ごした。


 彼の体は、オメガらしく柔らかな肌で、自分の手のひらを滑らすのも、少し気が引けた。手のひらが荒れているから、痛くないのかと。

「痛くない?」
 と聞けば、上気した顔で微笑む。
 もっとして欲しいように、くっついてくる。

「お願い」
 と言われて、キスをする。キスが好きなのかと思った。
 後で聞けば、声を出したくないからと。だから、キスして声を出さないようにしてた、と言っていた。

 膝の上に向かいあって、ナカをほぐして、
「大丈夫?」
 と聞いても、
「もっとして」
 返事が返ってくる。

 ベッドに押し倒して、あとは流されるように、お互いを求めていた。

 できるだけ優しくしたいから、なんとか合間に、
「大丈夫?」
 と聞いても

「気持ちいい」
「もっと」
「抱きしめて」
 と、子どもの笑顔で微笑む。
 裏表を考えることもなく、彼の欲しいものを与えるだけだった。


 そういえば、自分も、たぶんラットを起こしかけていたのだとは思う。なんとか意識はあったが、所々で記憶があいまいな時間がある。

 そして、自分がラットを起こしたのだということに、驚く。
 どこかで自分はアルファとして、不完全だからと思っていたのに。

 時間を見れば、部屋に入ってから、まる2日近く経っていた。合間には、水分補給もしてたし、けど何も食べてない。

 こんな細い体で、ちゃんと食べなければ、倒れてしまう。何か食べさせないと。


 彼に無理をさせてしまったし。


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