魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.4 嫉妬する庭園

1話 変わってしまった日常の中で

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 一頭の馬が駆ける軽快な音が、夜の森に響いていた。
 走る馬の背には、手網を掴み馬に跨る男と、その子どもと見られる少年が乗っていた。

 少年は父親に優しく抱かれ、揺れる馬の上で眠っていた。
 きっと、今から宿に帰るところだろう。

 しかしその平穏は、突如として起きた変化によって壊された。

「……っ、ぅ」

「……?」

 それは小さな呻き声だった。
 安らかな表情をしていた少年の顔が、突然苦しみに染まった。

「ぃやだ、嫌だ嫌だ嫌だ!」

「……!? どうした、シルド!?」

 悲鳴を上げる腕の中の少年に、父親は思わずそう言った。

 何があったのか。
 だが、少年の身体に異変があったことは確かだった。

「助けて、たすけてたすけてっ――」

「落ち着けシルド! どうしたんだ!」

 父親に助けを呼ぶその声は、近くて大きいはずなのに何故か遠く感じた。


「助けてっ、おとうさん――!」


 少しずつ遠くなっていった叫び声は、やがて――


「――シルド?」

 その少年の身体を連れ、静寂と事件を残してどこかへ消えてしまった。


-------------------------


 光が見えた。
 柔らかく暖かな光。どこか懐かしい光。

 僕を優しく包み込んでいたその光は、少しずつ離れていく。
 僕は思わず、遠くなる光に手を伸ばした。

 しかしその指先が何かを掠めることはなく、――


「……ぁ」

 そして、暗い感情のまま目が覚めた。
 最悪でありながら、ここ数日で当たり前になってしまった目覚め。

 僕はいやに重く感じる身体を起こし、ベッドから降りた。

「――――」

 あの日から、既に一週間が経っていた。
 変わってしまった日常が、未だ変わらずにそこにいる。

 顔を洗うため、洗面台に向き合った。

「……僕は、こんな顔だったっけ――」

 鏡に映った赤い髪の少年は、ひどく疲れた顔をしていた。
 まだ、一日が始まったばかりだというのに。

 僕は最低限の荷物を持ち、部屋を出た。
 行く場所は決まっていない。

 どうせまた目的もなく街を出歩いて、ミクトと他愛もない話をして、それで。

「――ルミネ」

 絶対に信じさせたくて、信じてもらいたい少女の名前を呼ぶ。

 この一週間で、何も進展はなかった。
 誰とも話すことなく、彼女もまた街をぶらついている。

 大通りにでも行けば、直ぐに会えるだろう。

 食堂で朝食を食べ終えた僕は、早速宿を出て大通りに向かった。

「……ぁ、ルミ――」

 だが彼女は、僕と目が合えば一瞬のうちに姿を消してしまう。
 僕が声をかける前に、人混みの中へと消えてしまう。

 話すどころか近づくことさえままならず、そりゃあ一週間もの時間があっても何も変えられない。

「くそっ、!」

 なのに彼女はこの街を出ていこうとはしない。
 それは何故か、誰でもわかる事だ。

「――僕やミクトが、命の恩人だから、か」

 彼女は恩人を前にしてその人が信じられないという状況に、決断を迷っている。
 そしてそれを利用して、僕は彼女を説得しようとしているのだ。

 全くもってふざけている。
 何が恩人だ。
 お前は何をした、ロトル・ストムバート?

「何も出来なかったから、こうなってるんだろ」

 何も出来ない。
 でも、信じてもらいたい。

 じゃなきゃ僕は、何の為に。

「まーたやってんの? 暇だね、お前は」

「暇も何もあるか。僕はお前以上に忙しいんだ。ミクト」

「ま、俺には関係ないことだけどさ。頑張れよ」

 後ろから肩を叩いたミクトが、すれ違いざまに言葉を残して去っていく。

 気楽なやつだと思った。
 僕にはそんなことを言っている余裕はないと思った。

 でも。

「僕が、気負い過ぎなのか……?」

 焦ってはいけない。
 それはわかっている。

 でもそれ以外に、解決策が見つからない。

 傷つけてしまった人の心を取り戻す手段なんて、簡単に見つけられるわけがない。

「少し、休もう」

 僕は歩いていた足を止め、もう一度『サーディア』に戻ることにした。


 途中で色々買ったり寄り道をしたりしたせいか、それともただ精神の問題なのか。

 どことなく重く感じる足を引き『サーディア』へと戻った僕は、開けっ放しだった扉をくぐり中に入った。
 料理の良い匂いが広がり、少しだけ心が落ち着いた気がした。

 時計を見れば、時刻は既に十一の朝だった。

「朝食を食べるのが遅かったからあんまりお腹は空いてないけど……」

 どうせ食べるのなら、別に早くてもいいだろう。
 それに一人だけ遅くても宿の人達に悪い。

 僕は適当な席に座り、昼食が完成して出されるまで待つことにした。


 ――昼食を食べ終わって部屋に戻ったのは、正午をすぎてすぐの時間だった。
 少しだけ増えた荷物を下ろし、僕はベッドに座った。

 道中で買ったのは中位のマナポーションと、魔法に関する本。
 ついでに旅に必要そうな縄も買った。

「今は旅どころじゃないってのに」

 だが少しでも安らぎを求めるには、ほかのことを考えるしかなかった。

 いつもこうだ。
 失敗しては宿に戻り、ほかのことを考えて気を紛らす。

 ――次にルミネと話が出来るのは、いつのことになるのだろう。


--------------------------------------------------


 四章開始です。


 冒頭のやつは見ての通り今回のメイン敵の能力チラ見せです。

 が、元ネタがあるのですが、もう分かった方いるかな?

 庭園は関係ないです。
 多分。
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