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Episode.2 君と再会、冒険の始まり
8話 その瞳に映る世界は何色か?
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「あ……か?」
「あぁ、赤いぞ」
「赤? 違う、俺の瞳の色は……あぁ、俺じゃねえ! 俺じゃなくて!」
瞳の色は赤ではなく、青だったはずだ。
鏡で自分の顔を見たことだってある。その時は、青だった。
「あ……ぁあッ!」
分からない。俺の瞳が赤? 『俺』……『僕』じゃ、なくて?
「お、おい。大丈夫か?」
ミクトが心配したのかロトルに声をかけるが、彼の耳には届かない。
『僕』じゃない。『俺』が、俺だ。『僕』なんていない。
頭の中で思考の糸が複雑に絡み合い、何がなんだか分からなくなってくる。
「あ……ぁ?」
何を、何を悩んでるんだよ? 俺は俺。それでいいじゃないか。
『僕』なんてどこかへ追いやって、『俺』になればいいだろう。
「は、ぁ……そうだよな。それで、いいんだよな」
「何言ってんのか分かんねえけど、とりあえず大丈夫なんだよな?」
「あぁ、大丈夫だ」
「目、まだ赤いけど?」
大丈夫だと言っておきながらも、まだ瞳の色が戻っていないことに対してミクトは踏み込んでくる。
あぁもう、面倒くさい。
「『魔放出』」
「な……ッ!?」
迫り来る魔力波に狼狽えながらも、ミクトはそれに立ち向かう。だが結局押し負けてしまい、後方に2メートルほど吹き飛ぶ結果となった。
「がはっ!」
引きこまれるかのように地面に叩きつけられ、彼は仰向けのまま地面に倒れる。
身につけた衣服には土埃がまとわりつき、所々には裂傷も見えた。大木に二度も叩きつけられ、挙句の果てには地面にまでも叩きつけられたのだ。それで一つも傷がついていないのであれば、それはむしろ奇跡と言えるだろう。
「なぁ、ミクト」
「……ぁ?」
大の字になって地面に倒れているミクトに、今度は威圧の意を込めて言い放つ。
「大丈夫だって、言ってんだろ」
「は……」
もう諦めたということなのか、彼は全身の力を抜いてしばらくじっとしていた。
その間、小鳥のさえずる音も、ひょろひょろと弱く吹いていた風の音も、何も聞こえなかった。
「ゴブリン、探しに行こうか」
「あぁ」
まるで態度や口調が違うロトルに不安を感じつつも、ミクトは立ち上がり、先程と同じように歩き出した。しかしその姿はどこかぎこちなく、次の討伐に支障を与えないかとこちらにも不安な思いを募らせるものだった。
「なぁ、ロトル」
「何?」
しばらく歩いたものの全くゴブリンが見つからないので、少しうんざりしてきたいた時だった。
突然ミクトが足を止め、声をかけてきた。
「俺はさ、お前がそうしたくて今そうしてるっていうんなら、別にいいんだよ」
「…………」
「でもさ……」
先程までは何の音も聞こえなかったこの森には、もう風の吹く音もしていたし、小鳥のさえずる音も聞こえるようになっていた。
「お前は、それでいいって思ってるのか?」
「……っ」
突如、世界が静止したかのような錯覚に襲われる。
何も聞こえず、何も動かないこの世界で、二人の少年だけが動き、声を上げ言い争っていた。
「言ってるだろ! これでいいって! これで大丈夫なんだって!」
「言ってるだけで、本当は思ってないんじゃないのか?」
「思ってる! 俺はもう、『僕』で居ることに疲れたんだ! だから『俺』でいいって言ったんだ!」
「また言ってるだけじゃん? 俺はお前がどう思ってるのか聞いてるんだよ」
「うるせぇよ! 揚げ足ばっか取りやがって! 俺は俺の言葉に対するお前の答えが聞きたいんだよ!」
カッとなり、ミクトの胸ぐらを掴んで持ち上げる。
だが今度は狼狽えず、ミクトは苦しみながらも声を上げた。
「俺の知ってる……ロトルは、こんなことしたり……そんなこと言っ、たり、しないんだよ……っ」
「それは『僕』であって、『俺』じゃないだろ!」
「知って、る。だから俺は……『僕』の話を、してるんだよ」
「何でだよ! やめ、ろよ……」
ミクトを掴んでいた手が緩み、支えを失くしたミクトは地面に崩れ落ちる。
それでもなお、彼は言葉を投げかけてきた。
「はぁっ……『僕』は、そんなこと思ってないだろ。『俺』が、無理矢理抑え込んだだけなんだろ?」
「違う……違う!」
「もう苦しみたくないって言ってるのをいい事にして、『俺』が閉じ込めたんじゃないのか?」
「ぅ……あ」
頭の中で、ミクトの言葉がぐるぐると回っている。
ミクトの言ってることが、正しいじゃないか。
そう思った瞬間、俺の意識が彼方へと飛んでいき――
------------------------------------
意識が覚醒する。
それは、長い眠りから目覚めたかのような感覚だった。
夢の中を泳ぎ、その水面に達したところで――
「あ……あぁ?」
「よう、起きたかロトル」
僕がその青い瞳を開いたのを見て、僕の顔を見下ろしているミクトが声をかけてきた。
何時間寝ていたのだろうか。もう夕日が沈みかけていて、空が鮮やかな橙色に彩られているのも見えた。
「ずっと見ててくれたのか?」
「いや、別にずっとってわけじゃないけど」
おい。そこは嘘でもそう言っちゃダメなところだろ。
「でもまぁ、そのおかげで今日はこのまま帰れるって思ったら、さ?」
「そんなこと対価にならないんだよ僕が魔物に襲われて死んでしまったらどうするんだいミクト君」
僕が早口で捲し立てると、ミクトの額に汗が浮かび上がっていく。
僕が次の言葉を発する前に、彼は逃げていった。
「逃げる! 逃げるしかない!」
「あ、ま、待てよ! 僕ここでこけたら死ぬ自信あるんだけど!?」
「知るか! 今逃げないと俺の命が危ない!」
「殺さねーよ!?」
少年の甲高い声が二つ、夕暮れの森に谺響していた。
「あぁ、赤いぞ」
「赤? 違う、俺の瞳の色は……あぁ、俺じゃねえ! 俺じゃなくて!」
瞳の色は赤ではなく、青だったはずだ。
鏡で自分の顔を見たことだってある。その時は、青だった。
「あ……ぁあッ!」
分からない。俺の瞳が赤? 『俺』……『僕』じゃ、なくて?
「お、おい。大丈夫か?」
ミクトが心配したのかロトルに声をかけるが、彼の耳には届かない。
『僕』じゃない。『俺』が、俺だ。『僕』なんていない。
頭の中で思考の糸が複雑に絡み合い、何がなんだか分からなくなってくる。
「あ……ぁ?」
何を、何を悩んでるんだよ? 俺は俺。それでいいじゃないか。
『僕』なんてどこかへ追いやって、『俺』になればいいだろう。
「は、ぁ……そうだよな。それで、いいんだよな」
「何言ってんのか分かんねえけど、とりあえず大丈夫なんだよな?」
「あぁ、大丈夫だ」
「目、まだ赤いけど?」
大丈夫だと言っておきながらも、まだ瞳の色が戻っていないことに対してミクトは踏み込んでくる。
あぁもう、面倒くさい。
「『魔放出』」
「な……ッ!?」
迫り来る魔力波に狼狽えながらも、ミクトはそれに立ち向かう。だが結局押し負けてしまい、後方に2メートルほど吹き飛ぶ結果となった。
「がはっ!」
引きこまれるかのように地面に叩きつけられ、彼は仰向けのまま地面に倒れる。
身につけた衣服には土埃がまとわりつき、所々には裂傷も見えた。大木に二度も叩きつけられ、挙句の果てには地面にまでも叩きつけられたのだ。それで一つも傷がついていないのであれば、それはむしろ奇跡と言えるだろう。
「なぁ、ミクト」
「……ぁ?」
大の字になって地面に倒れているミクトに、今度は威圧の意を込めて言い放つ。
「大丈夫だって、言ってんだろ」
「は……」
もう諦めたということなのか、彼は全身の力を抜いてしばらくじっとしていた。
その間、小鳥のさえずる音も、ひょろひょろと弱く吹いていた風の音も、何も聞こえなかった。
「ゴブリン、探しに行こうか」
「あぁ」
まるで態度や口調が違うロトルに不安を感じつつも、ミクトは立ち上がり、先程と同じように歩き出した。しかしその姿はどこかぎこちなく、次の討伐に支障を与えないかとこちらにも不安な思いを募らせるものだった。
「なぁ、ロトル」
「何?」
しばらく歩いたものの全くゴブリンが見つからないので、少しうんざりしてきたいた時だった。
突然ミクトが足を止め、声をかけてきた。
「俺はさ、お前がそうしたくて今そうしてるっていうんなら、別にいいんだよ」
「…………」
「でもさ……」
先程までは何の音も聞こえなかったこの森には、もう風の吹く音もしていたし、小鳥のさえずる音も聞こえるようになっていた。
「お前は、それでいいって思ってるのか?」
「……っ」
突如、世界が静止したかのような錯覚に襲われる。
何も聞こえず、何も動かないこの世界で、二人の少年だけが動き、声を上げ言い争っていた。
「言ってるだろ! これでいいって! これで大丈夫なんだって!」
「言ってるだけで、本当は思ってないんじゃないのか?」
「思ってる! 俺はもう、『僕』で居ることに疲れたんだ! だから『俺』でいいって言ったんだ!」
「また言ってるだけじゃん? 俺はお前がどう思ってるのか聞いてるんだよ」
「うるせぇよ! 揚げ足ばっか取りやがって! 俺は俺の言葉に対するお前の答えが聞きたいんだよ!」
カッとなり、ミクトの胸ぐらを掴んで持ち上げる。
だが今度は狼狽えず、ミクトは苦しみながらも声を上げた。
「俺の知ってる……ロトルは、こんなことしたり……そんなこと言っ、たり、しないんだよ……っ」
「それは『僕』であって、『俺』じゃないだろ!」
「知って、る。だから俺は……『僕』の話を、してるんだよ」
「何でだよ! やめ、ろよ……」
ミクトを掴んでいた手が緩み、支えを失くしたミクトは地面に崩れ落ちる。
それでもなお、彼は言葉を投げかけてきた。
「はぁっ……『僕』は、そんなこと思ってないだろ。『俺』が、無理矢理抑え込んだだけなんだろ?」
「違う……違う!」
「もう苦しみたくないって言ってるのをいい事にして、『俺』が閉じ込めたんじゃないのか?」
「ぅ……あ」
頭の中で、ミクトの言葉がぐるぐると回っている。
ミクトの言ってることが、正しいじゃないか。
そう思った瞬間、俺の意識が彼方へと飛んでいき――
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意識が覚醒する。
それは、長い眠りから目覚めたかのような感覚だった。
夢の中を泳ぎ、その水面に達したところで――
「あ……あぁ?」
「よう、起きたかロトル」
僕がその青い瞳を開いたのを見て、僕の顔を見下ろしているミクトが声をかけてきた。
何時間寝ていたのだろうか。もう夕日が沈みかけていて、空が鮮やかな橙色に彩られているのも見えた。
「ずっと見ててくれたのか?」
「いや、別にずっとってわけじゃないけど」
おい。そこは嘘でもそう言っちゃダメなところだろ。
「でもまぁ、そのおかげで今日はこのまま帰れるって思ったら、さ?」
「そんなこと対価にならないんだよ僕が魔物に襲われて死んでしまったらどうするんだいミクト君」
僕が早口で捲し立てると、ミクトの額に汗が浮かび上がっていく。
僕が次の言葉を発する前に、彼は逃げていった。
「逃げる! 逃げるしかない!」
「あ、ま、待てよ! 僕ここでこけたら死ぬ自信あるんだけど!?」
「知るか! 今逃げないと俺の命が危ない!」
「殺さねーよ!?」
少年の甲高い声が二つ、夕暮れの森に谺響していた。
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