魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.3 出会いと別れのセブンロード

2話 在るべき日常

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 次の日の朝、僕は薄暗いテントの中で誰かに肩を揺すられて目を覚ました。
 まだ覚めきっていない目を、手でこすりながら開く。するとそこには、僕とは違いすっかり目が覚めている様子のミクトがいた。

「おはようロトル。もう朝だぜ」

「あぁ……おはよう」

 どうにか意識を保ちながら、僕は起き上がる。
 ミクトが先に起こしたらしく、ルミネはもうテントの中にはいなかった。

「外にいるのか――って、まぶしっ」

 外を確認しようとテントのドアを開くと、僕の目に眩しい日の光が飛び込んでくる。
 そして緑が広がる草原と、雲ひとつない青い空が見えた。
 それと同時に、何か香ばしい香りが僕の鼻孔をくすぐる。

 風に揺られながらしばらくその風景を眺めていると、不意に後ろから声がかけられる。

「しかしまぁ、お前が七魔宝具を全部集める、なんて大きな目標を掲げるとはな。あれだけ、人ってのはなんとかかんとかって言ってたくせに」

「……別に、大きい目標じゃないさ」

 振り返ると、そこにはテントから出てきたミクトがいた。
 意外そうな顔をしながら話すミクトに、僕はゆっくりと応える。

「七魔宝具を全部集めるっていうのは、誰かを助けることに繋がるだろ? 誰かを助けることなんて、その気になれば、誰にだってできる簡単な事じゃないか」

「…………」

「そう考えれば、大きい目標でも何でもないさ」

 そんな屁理屈を並べ立て、僕は一つ、大きく深呼吸をする。
 そして外に出た理由を思い出し、辺りを見回した。

「ミクト。ルミネはどこに?」

「あぁ、ルミネなら――」

 そう言ってミクトは、テントの裏へと回る。
 どうやら着いて来いということらしいので、僕は素直にミクトの後を追いかける。

 そしてそこには、先程から香っている匂いの答えがあった。

「おはよう、ロトル」

「お、おはようルミネ。――いや、それもなんだけど」

 僕はルミネの持つ菜箸の先、鉄板の上に置かれた『それ』を指差す。

「……それ、聞いてないんだけど」

 僕が指差した、計画外の『それ』――もとい『シーパロース』が、静かに鉄板の上で焼かれていた。


-------------------------------------


「「いただきまーす」」

「い、いただきます」

 ミクトとルミネが声を揃えて食べ始める中、僕は未だに困惑が収まりきらないでいた。

 草原に生息する『シーパ』の肉である『シーパロース』は、本来の予定では食べないはずだった。ていうか食べるはずがないと思っていた。
 あまりに予想外すぎて、暫くの間鉄板の上にあったシーパロースから目が離せないでいたのだが。

「いやそれよりも、朝から肉って! 肉って!」

 折り畳み式の椅子から勢いよく立ち上がり、僕は口を大きく開いて叫ぶ。
 普通に考えて、朝から肉なんておかしい。

「なんでもいいだろー。さっさと食えよ、冷めるぞ」

「食うよ食うけど食うけどさ! 朝から肉って、えぇ……」

 しかしミクトは全く疑問に思ってないようで、その心理に疑問が浮かぶ。
 納得が出来ない状況だが、僕はとりあえず落ち着きを取り戻し、椅子に座り直した。
 そしてこれまた折り畳み式のテーブルの上にある肉を割り箸で掴み、口へと運ぶ。

「あぁ美味い。あームカつく」

「……褒めるのか怒るのかどっちかにしたら?」

「怒ってないよ?」

 僕がそう言うと、ルミネは瞳を細めてもう一度問いかけてきた。

「褒めるのかムカつくのかどっちかにしたら?」

「すみません静かに食べます」

 昂った感情をなんとか押さえつけ、静かに口の中の肉を飲み込む。
 そして箸で二枚目の肉を掴み、口に運ぶ。うまい。

 それからも僕達は広い平原の真ん中で、色々文句はありつつも、ゆっくりゆったりと食事を――


「いや違うよ! バーニンの街に行くんだよ!」

「あぁ、そうだっけ」

「そうだよ! 本来の目的忘れてないかなー!?」

 風が吹き荒れる平野のど真ん中、僕は抑えていたはずの感情も忘れて大きく叫んだ。


------------------------------------


 軽く均され整備された土の道を、僕達は少し早足で歩いていく。
 もうちょっとゆっくりでもいい筈だし、事実、昨日はもっとゆっくり歩いていた。
 しかし早足で歩く必要がある程、予定と現実は異なっていた。

「いやまぁ、食事に時間取りすぎたってだけの話なんだけどね」

 もう少し早めに食べ終わり、もう少し早めに歩き始めるはずだったのが、何故か想定外に遅れてしまった。
 想定外のことが起こるのは、これまた想定外のことに繋がっていて――

「マジで、ていうか本当にごめん」

 言うまでもなく、あの『シーパロース』が原因であった。
 本来のメニューに加え、誰かさんの勝手な要望で勝手に追加されたシーパロースのせいで、大幅に時間をロスしてしまうこととなってしまった。
 誰かさんことミクトは一応反省はしているようで、時間短縮のための早足歩行の提案には賛成的だった。

「怒ってないから。もういいから。さっさと歩こう」

「……はい」

 そしてその協力者であるルミネに至っては、何故か喋れなくなる程のレベルであった。
 俯く二人を引き連れて、ここまで歩いてきた――のだが。

「ねぇ、もう本当に怒ってないから。だからその暗い感じはやめて。そんな調子じゃすぐに飽きるし諦めるハメになるよ? そんなんでいいの?」

「いいんだよ別に。俺達はただ――」

「――良くねえよ!」

 突然空間を引き裂いた怒号に、二人は思わず顔を上げる。

「どれだけ短い時間でも、俺達が始めたことで、俺達が始めてしまった事なんだよ! 後戻りはできないし、今更どうでもいいとか言ってんじゃねえ!」

 その言葉の後には、ただ長い沈黙だけが続いた。
 誰も口を開こうとせず、開きたがらなかった。
 そんな中僕は一人ため息をつき、その後に言葉を続ける。

「……行くよ」

 その一言で、辺りの静けさが嘘のように消えていく。
 轟々と吹き荒れる風の音が、遠くで揺れている木々のざわめきが、僕の鼓膜を揺らす。
 それに合わせるかのように、僕は止めていた足を動かし始める。

 鳴り響く鼓動の音は絶えず、僕の心を揺らしていった。
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