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Episode.3 出会いと別れのセブンロード
3話 崩れゆく平穏
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いつの間にかすっかり雲に覆われてしまった空の下、僕達はまだ歩き続けている。
あれからというもの、僕達の間にはどこか澱んだ暗い空気が流れていた。
感情に任せて怒鳴ってしまった僕にも非はあるのだが、何かがおかしい。
たかが予定を外れてしまった、その原因になったというだけで、ここまで落ち込むことは無いのではないだろうか。
「ねぇ」
「……なんだよ」
僕は歩きながら、後ろにいるミクトに声をかける。
少し言い方に引っかかるところがあるが、まあいいだろう。
僕はただ、ミクトからその異常なまでの意気消沈の理由を聞き出したいだけなのだから。
「何がそんなに、落ち込むことがあるんだよ」
「……うるせぇ」
「――は?」
僕の質問に返ってきたのは、どこか苛立たしげな返事。
一度目は何とも思わなかったが、二回もとなると流石に見逃すことは出来ない。
僕は動かしていた足を止めて振り返り、そこにいたミクトに近づく。
「なんだよそれ、なんだよその返事! なんでお前が苛立ってるんだよ!」
「お前には関係ねぇだろ! そもそもお前こそ、なんなんだよあの言い方! 偉そうな口叩きやがって、ふざけんなよ!」
「はぁ!?」
小さな不安が次々に積もっていき、やがてそれは嫌悪と怒りに姿を変える。
――「塵も積もれば山となる」。
どんなに小さな塵であろうと、何十回も、何百回も積み重なれば、大きな変化を遂げる。
それは今の状況を説明するのに、的確過ぎる言葉だった。
こんなにきつい言い方をするつもりは無かったのに、何故こんなことを言ってしまったのだろう。
「俺だって何の考えも無しにあんな事言ってるんじゃねぇんだぞ! それをお前は……鬱陶しいって、邪魔だって、そう言うのかよ!」
「んなこと言ってねぇだろ! 何を勝手に――」
「――やめて!」
醜い感情のぶつかり合いが、割って入った声にかき消される。
もうすぐで動き出しそうだった手が思わずピタリと止まってしまった。
僕は声のした方向に顔を向ける。
そこに居たのは他でもない、ルミネだった。
「どうしてそんなに傷つけあうの? どうしてそんなに――」
「うるせぇよ! お前は黙ってろよ! 今は俺とロトルが話してんだよ!」
「話? 話なんかじゃない! こんなのただの喧嘩で、相手を傷つけるだけの無駄な事よ!」
「あぁ!?」
喧嘩腰なミクトに押され、ルミネまでもが悪感情の渦に巻き込まれてしまう。
――駄目だ。
分かっていても、止められない。
僕がどれだけ足掻こうと、その影では嫌悪感がどんどんと膨れ上がり、抑えきれなくなる。
それは次々に爆発し、ただ誰かを貶すだけの言葉となって現れる。
「じゃあなんなんだよ! 俺たちが喧嘩をやめたとして、それでどうなるってんだよ!」
「やめろよミクト! ルミネは関係ないんだろ!?」
「それは、そうだけど……!」
止まらない。
何かが胸の奥から湧き出るかのように押し寄せ、喉から這い出してくる。
それはやがて言葉となって次から次へと僕の口によって紡ぎだされ、誰かの心に傷を与えて消える。
「お前はどうして、いつもそうやって無神経に突っ込んで傷つくんだよ!? 傷つけるんだよ!? そういうところが、どうしてわからないんだよ!」
「なん、なんだよお前! 言っていい事と、悪いことがあるだろうが!」
「やめてって言ってるでしょう!? どうして、こんな!」
いがみ合う三人の声は、広い草原の彼方へと飛んでいく。
そしてその声は、誰にも届くことなく消えていく。
運が悪かったとしか言いようがない。
ここは二つの街を結ぶ道のど真ん中で、ファストの街もバーニンの街も、ここから遠く離れた場所にある。
少なくとも向こうからじゃ僕達は見えないし、僕達が声を揃えて全力で叫んだとしても、届くことはありえないだろう。
雲に覆われた空の下。
僕達を取り巻く感情の渦は消えず、その形をみるみる大きくしていくのだった。
あれからというもの、僕達の間にはどこか澱んだ暗い空気が流れていた。
感情に任せて怒鳴ってしまった僕にも非はあるのだが、何かがおかしい。
たかが予定を外れてしまった、その原因になったというだけで、ここまで落ち込むことは無いのではないだろうか。
「ねぇ」
「……なんだよ」
僕は歩きながら、後ろにいるミクトに声をかける。
少し言い方に引っかかるところがあるが、まあいいだろう。
僕はただ、ミクトからその異常なまでの意気消沈の理由を聞き出したいだけなのだから。
「何がそんなに、落ち込むことがあるんだよ」
「……うるせぇ」
「――は?」
僕の質問に返ってきたのは、どこか苛立たしげな返事。
一度目は何とも思わなかったが、二回もとなると流石に見逃すことは出来ない。
僕は動かしていた足を止めて振り返り、そこにいたミクトに近づく。
「なんだよそれ、なんだよその返事! なんでお前が苛立ってるんだよ!」
「お前には関係ねぇだろ! そもそもお前こそ、なんなんだよあの言い方! 偉そうな口叩きやがって、ふざけんなよ!」
「はぁ!?」
小さな不安が次々に積もっていき、やがてそれは嫌悪と怒りに姿を変える。
――「塵も積もれば山となる」。
どんなに小さな塵であろうと、何十回も、何百回も積み重なれば、大きな変化を遂げる。
それは今の状況を説明するのに、的確過ぎる言葉だった。
こんなにきつい言い方をするつもりは無かったのに、何故こんなことを言ってしまったのだろう。
「俺だって何の考えも無しにあんな事言ってるんじゃねぇんだぞ! それをお前は……鬱陶しいって、邪魔だって、そう言うのかよ!」
「んなこと言ってねぇだろ! 何を勝手に――」
「――やめて!」
醜い感情のぶつかり合いが、割って入った声にかき消される。
もうすぐで動き出しそうだった手が思わずピタリと止まってしまった。
僕は声のした方向に顔を向ける。
そこに居たのは他でもない、ルミネだった。
「どうしてそんなに傷つけあうの? どうしてそんなに――」
「うるせぇよ! お前は黙ってろよ! 今は俺とロトルが話してんだよ!」
「話? 話なんかじゃない! こんなのただの喧嘩で、相手を傷つけるだけの無駄な事よ!」
「あぁ!?」
喧嘩腰なミクトに押され、ルミネまでもが悪感情の渦に巻き込まれてしまう。
――駄目だ。
分かっていても、止められない。
僕がどれだけ足掻こうと、その影では嫌悪感がどんどんと膨れ上がり、抑えきれなくなる。
それは次々に爆発し、ただ誰かを貶すだけの言葉となって現れる。
「じゃあなんなんだよ! 俺たちが喧嘩をやめたとして、それでどうなるってんだよ!」
「やめろよミクト! ルミネは関係ないんだろ!?」
「それは、そうだけど……!」
止まらない。
何かが胸の奥から湧き出るかのように押し寄せ、喉から這い出してくる。
それはやがて言葉となって次から次へと僕の口によって紡ぎだされ、誰かの心に傷を与えて消える。
「お前はどうして、いつもそうやって無神経に突っ込んで傷つくんだよ!? 傷つけるんだよ!? そういうところが、どうしてわからないんだよ!」
「なん、なんだよお前! 言っていい事と、悪いことがあるだろうが!」
「やめてって言ってるでしょう!? どうして、こんな!」
いがみ合う三人の声は、広い草原の彼方へと飛んでいく。
そしてその声は、誰にも届くことなく消えていく。
運が悪かったとしか言いようがない。
ここは二つの街を結ぶ道のど真ん中で、ファストの街もバーニンの街も、ここから遠く離れた場所にある。
少なくとも向こうからじゃ僕達は見えないし、僕達が声を揃えて全力で叫んだとしても、届くことはありえないだろう。
雲に覆われた空の下。
僕達を取り巻く感情の渦は消えず、その形をみるみる大きくしていくのだった。
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