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指先の温度
幼い頃の最初の記憶は
誰かは分からないが、キリッとした眉を釣り上げて
高級そうなワンピースを着飾った女の人が幼い子供の頭を撫でながら
優しい声色で、叱責する様な
記憶だった。
『……化物みたいな子たちね』
『気持ち悪いッ』
『まだ気づかないのかしらね、誰にも愛されずに生まれてきたこと』
『消えてほしいのよ。』
そして、随分経った頃に気づく。
あれは、自分たち自身だったのだと。
大きな大きな黒い影
その影に囲まれて
小さく小さく丸まって
耐えることしかできなかった
それでも、耐えることはできたのは
それはきっと
俺を頼る俺より小さな影があったから。
俺とその小さな影を見下ろすように
見てきた影は形を突如変え
いつの間にか俺の腕を掴んでいたものも
消えていて
白い空間が辺りを埋め尽くした。
『………自分の弱さで、アイツの手を離したくせに僕のせいにしようっていうの?
勘違いも甚だしいね。“君”が壊したんだよ。壊したのは“僕”じゃない“君”だよ』
「……ッハァ、……はっ、……ッハ…、ぁ。」
乱れる呼吸
未だにドクドクと音を立てる心臓が
いやにはっきりと聞こえる。
冷たい指先を握り込みながら
目を瞑り続ける。
「……最悪だ。」
___シャラっ
柔らかく控えめな音が鳴り響き
ハッと意識を呼び起こす。
「……腕に何か」
つけた覚えもない
何かが腕につけられていた。
それと同時に周りの景色が何時もと違うことに気づく
鼻につく消毒液の香り
白いベッドに、白いカーテン、白い棚と
辺りは白一色で
「………ここは?」
困惑の声が溢れた。
「やぁ、起きた?春くん。昨日、熱が出て倒れたらしいよ。運んでくれた先輩に感謝しとくといい。それとその腕のやつだけど、天宮の使用人の鈴森って人から渡されたんだ。“あやめ様”からって言ってたよ」
品の良さを感じさせながら
優しい雰囲気を纏わせる人が
カーテンを引いて、現れる。
「あやめ、が………?」
下ろした腕をもう一度
掲げて見ると
蒼く澄むような下地に
いくつかの小さな鈴がつけられて
ラメでもふりかけたのかキラキラと
輝いていた。
「後、伝言は『大丈夫。元気だよ』って伝えてくれと言われたよ。」
「………そうですか。ところで、貴方はどなたですか」
「あ、ごめんね。僕は、3年間君の親代わりをつとめます。佐藤純です。よろしくね」
「えっと、よろしくお願いしま……」
続けようとした言葉を詰まらせる。
泣いているから。目の前の気品漂う人が。
俺の手を柔く握りながら
涙を流していたから。
「…………あ、のッ、」
『君のその優しさは、《毒》なんだよ。
自己満足の薄っぺらい、優しさなんだ』
だめだ、だめだ、………駄目なんだ。
その人へと
伸ばしそうになった手を
直前で下ろした。
もしも、この人を傷つけてしまったら
また、同じ間違いをしてしまったら。
そう考えてしまっては、もう何かをすることも思考さえも纏まらなくて
どうすることもできず、ただ“怖い”という感情だけが頭の中を覆い尽くしていた。
「……ご、ごめんね!!」
「………いえ、大丈夫です。」
色のない言葉だけがただ口から流れ落ちた。
その不安定な状態のままに
視線を合わせると何かを感じたのかその人は優しく微笑んで、俺の頬を包み込んだ。
そして、コツンとおでこをくっつけて
「大丈夫」
「……え?」
「大丈夫、君は大丈夫」
「…………あの」
「大丈夫だよ。ほら、僕の目を見て。天宮春くん」
少しタレ目のその瞳が
僕を捉えてフニャリと下がり
佐藤さんの優しい雰囲気に包み込まれる
ようだった。
「うん、綺麗な蒼い瞳だ。……君は。」
「……………っ、。」
「僕から瞳をそらさないで、ほら、僕を見て。怖くなんかない。怖がらないで、僕は君の味方だから。」
冷えた指先を絡め取られ
その温かさが不安を一つ一つ
拭ってくれるようなそんな感覚が
指先から伝わってくる。
「貴方は、愛されています。例え、誰かが貴方を卑下し蔑み後ろ指を指したとしても、辛いときには貴方は、私に愛されていることを思い出して下さい。どうか私を思い出して下さい。私は、世界中の誰よりも貴方を愛していますから。」
目の前のこの人は
優しい言葉を息をするように
それくらい自然に呟いた。
「だからそんな顔をしないで
笑って。………ところでさ、春くん、眼鏡、外してもいいかな?」
「え、……………………はい。どうぞ。」
「あ、そうだよね。ごめんね。うん、ごめん、そうだよね……え、いいの?!」
「いいですよ。」
「ほんとに!!」
「はい」
そろそろと眼鏡を取るその人に
若干の笑みが溢れる。
すると、ビクッと肩を揺らせて
俺の顔をマジマジと覗き込む。
さっきの人とは思えないと思いながら俺はその動向をジッと見つめていた。
「うん、君は春の匂いがする。春の冷たい風に仄かに香るそんな暖かい匂い」
「え?」
「本当に綺麗な蒼い瞳だな。あ、これ2度目だね、ふふふ。」
___トントン
「社長、そろそろ」
「分かった。」
部下の人だろうか
その声を聞いた瞬間さっきまでの
オドオドした声や雰囲気が一掃されて
キリッと表情を変えてネクタイを締める姿は別人だった。
「それじゃあね。」
「あ、あの………っ!」
「ん?どうかした?そうだ
何かあったらここに連絡して出来る限り出るようにはするから、僕は君の味方だから、何があっても
だから、そんな顔しないで、ね?前を向いて、春くん。」
真剣な顔で
名刺を握らせてくる
純さんの顔を見て、若干言いにくくは
あったが俺は言葉を発した。
「いや、あの、眼鏡持ったままです……」
「あ、あ、あ、あぁぁぁあ~~、!!
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顔を赤くさせながら
その場に蹲って耳を塞ぐ純さんを見て
笑いがこみ上げてきた。
「ふ、ふふっ、ふ、面白、いです。純さんっ、ふふっ」
「ちょっと、春くん。それは、酷いよ!!」
騒ぎ立てるその声に
我慢できなくて声をたてて笑った
久しぶりの感覚
久しぶりの感情
きっと、この人は優しい人なのだと
ただ、ただ
そう思った。
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