花は何時でも憂鬱で

青白

文字の大きさ
50 / 185
chapter3

無数の凶器


No side

【同時刻、天宮邸______】


「奥様、お身体をひやします。そろそろお戻りください。」

「鈴森。」

その鈴森という使用人に声をかけられた
上品なドレスを纏った女性は美しい花々が咲き誇る庭園を名残惜しそうに目に焼き付けると
そうね、と呟いて踵を返した。

「今日は、いかがなさいますか。」

「アネモネを。」

「かしこまりました。」

「鈴森、何か連絡はあった?」

「と、言いますと?」

「学園からの連絡に決まってるでしょう。」

「いいえ。何もございません。あそこは、隔離されていますからよっぽどの事がないと連絡はないかと。心配なさらずとも春様なら無事、何事もなく入学されたと思われます。」

「私があの子の心配をするとでも?一度でもあの子に、あの子たちに心配なんて感情持ったことはないわ。


私は、そのよっぽどの連絡を待ち望んでいるのよ。一年が過ぎれば、全て終わるわ。本当に愚かで馬鹿な子だわ。誰かのためといって、結局は、自分のことしか考えない。愚かな子。そう思いませんか?鈴森」

「私には何のことだか、お察ししかねる質問です。」

鈴森の受け答えに何かを言うでもなく、その女性は屋敷へと足を運び出す。

その道の途中、花壇を見つめ続け
その首にかかる銀色のチェーンを首元から覗かせるその背中を見つける。



「私との約束は、守ってもらうわよ。貴方が選んだモノがどんなものだとしても、春。やっぱり、あの子に春なんて綺麗な名前は似合わない。」


なんとなく見上げた空が雲に覆われ始めているのを
みて、その女性はあの日もこんな天気だったことを思い出す。


そして、今日なんとなく選んだ花があの日も飾られていたことを女性は思い出して微かに笑った。


「鈴森。アネモネの花言葉は知っていますか?」

「いい花言葉ではなかったかと。確か……《見捨てられた》だったかと思いますが。」

「そうね。いい花言葉じゃあないわ。でも、あの日にぴったりの花言葉だわ。けれど、見捨てたのはあの子だけれど。………妹を捨ててまで何をしたいのだか、私には分かりませんけれど。」


その華奢な背中から視線を外して
その女性は鈴森に告げる。


「鈴森、あの子を屋敷の中へ連れていきなさい。もうすぐ、雨が降るわ。」

「かしこまりました。奥様」

女性は鈴森が花を見つめるその背中に向かっていくのを
チラリと視界に入れると、向日葵の姿が描かれたストールをかけ直して屋敷へと向かう。



屋敷に入ってすぐ
バケツをひっくり返したような雨が降り注ぎ
遠くの方でゴロゴロと雷が鳴いているのを耳にしながら
部屋の中、机に飾られたアネモネを目にする。


「捨てるのは貴方よ。貴方の一番のタイセツを捨てていくのは______〝春〟______貴方。貴方が選んだのは、1年間、妹と居られる時間よりもあの学園での自由ですもの。」




あの日、鈴森にある言伝をあの子に伝えさせてから
たったの数日後のこと。


自室のソファーに座って
来るはずの人物を待ち続けていると
ノックの音とともに



痛々しい真っ白に包まれながら春は現れた。



いつも以上に真っ白な肌をして
血色のない顔色で告げる春の様子を思い出してその女性は
微かに鼻から息をもらすように笑った。


「受け入れます。____けど、1つだけお願いが。」


「それは、どういうことかしら?1年は不満?貴方の妹と一緒にいられる環境を貴方は望み続けていた。メリットは与えたはずだけれど。それとも、1年後、貴方自身が屋敷を出ていくことが不満なのかしら?」


「いいえ。不満ではないです。」


「貴方がどうしても嫌だというならそうね、もう一人の方を追い出しても構わないのよ。あやめを追い出しても貴方を追い出しても私にとってはどちらでもいいのだけれど。」

細い指先を顎に添えて
視線を春へと向ける女性のその視線は冷淡さを称えていた。

「貴方の妹に耐えられるかしらね?ストレスに弱いから、発作が起きなければいいのだけれど、ね?」


その言葉を聞いた瞬間
ここ数年と、一切の動揺を見せなかった春のその瞳が分かりやすいほどに大きく揺らいだのを女性は見てとった。


「……いえ。受け入れます。」

「そう。いい子だわ。1年という猶与を与えるだけでも感謝して欲しいくらいだわ。ねぇ?そうでしょ」

「けど、1つだけ、もう一度だけ。ただ、1つお願いが。」

「何かしら?」

「……行かせて欲しいんです、あの学園に。」

その言葉を聞いた瞬間に女性の
表情が固まったのを視界にいれながらも
春は言葉を続けた。


「あそこは、各家の跡取りが行く学園よ。貴方にその資格はないわ。傲慢もいいところよ。」

「天宮としてはいきません。でも。行かせてくれたなら、もう何も言いません。いう通りにします。それ以外は受け入れます。」

「私の提案の全てを受け入れるということ?
名前も捨てて、ここでのことも忘れて。全てを捨てて、出ていくのを受け入れると?」

「受け入れます。だから、お願いします。」

「その言葉の意味を知らないとは言わせないわよ。あの学園に行けば。最後、もう、二度と貴方の大切な、大切な妹に会うことのないその選択を選ぶのかしら?春、あなたのその選択は貴方を貴方達を捨てていった母親と同じことだけれど、いいのかしら?」

「…………捨てていきます。」

「親も親なら子も子ね。酷い子だわ、悪魔のような子。」

女性はそっと立ち上がると目の前の春の頰に手を添えて
視線をじっと交わせながら冷たい声色で告げる。


「そんなこと、もう分かりきってることです。」


「そうね。分かりきってることだったわ。私は、一年後。貴方がこの屋敷から出ていくことだけを願うわ。そう願い続けてあげる。ねぇ?春
貴方はもうイラナイ子。用済みなの。」

とびきりの笑みを浮かべて
女性は真っ白な包帯に包まれる春の手を柔く柔く取ると
優しく語りかける。

「___ぃ、っ!」

「あらあら、痛いの?でも、どうして痛がってるの?昔から貴方の周りには不幸が溢れていたのはどうしてだと思う?この包帯は、この傷を負った理由はどうして?どこが痛いの?この傷?それとも____心が?何にせよね」


その女性は
春の髪をまた、やわく梳きながら冷たく囁くのだ。



「貴方が傷ついていいと思って?
傷ついていいのはね、本当に心優しい人間だけだわ。
天宮にとっての汚点に、愛人の子に傷つくことは許されないのよ。不幸の原因が傷つくことを許されるわけがないの。」


春の視線がゆらゆらと彷徨い乱れるのを
目にしながら、笑みを浮かべながら
昔と変わらないその隠しきれない春の動揺する様に
女性は満足げに言うのだ。


「いいわ。行かせてあげる。ただし、天宮とバレればそこで終わりよ。すぐに出ていってもらうわ。もしも、バレたのにそこにいつづけた時は貴方の妹もただではすまないことを忘れないことね。」



その部屋を出ていこうとする春の背に
あまりにも優しい声色で幼い頃と同じ言葉を投げかける。


「貴方は、貴方たちは____愛されることなど許されてはいけない子たちなのよ。誰からも永遠に。愛されてはいけないの。だから、バカな考えなんか持たないことね。私の目が届かぬ所に行ってもね。分かっていますね?____春」


「はい。お婆様。」



幼い頃から刷り込みのように何度も何度も
言われ続けた言葉に
春は向けた背を再びその女性の方へと振り向いて
穏やかにそう言ってのけた。





_____心に無数に刺しこんでくる凶器に気づかないふりをして、イヤに震える心臓の鼓動を無視して
微かに震える指先を隠しながら。



幼い頃と同じように穏やかに言ってのけるのだ。


感想 0

あなたにおすすめの小説

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

平穏な日常の崩壊。

猫宮乾
BL
 中学三年生の冬。母の再婚と義父の勧めにより、私立澪標学園を受験する事になった俺。この頃は、そこが俗に言う『王道学園』だとは知らなかった。そんな俺が、鬼の風紀委員長と呼ばれるようになるまでと、その後の軌跡。※王道学園が舞台の、非王道作品です。俺様(風)生徒会長×(本人平凡だと思ってるけど非凡)風紀委員長。▼他サイトで完結済み、転載です。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)