花は何時でも憂鬱で

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chapter3

桜の日の下で





寮へと繋がる桜並木の道すがら
歩いていると何処からか楽しげな声が聞こえてきた。


「うわぁ~。みーちゃん。見てよ!桜だよ~!」

「あぁ。そうだな。」

「白(きよ)、あんまり走ったら転ぶぞ。」

「だって、綺麗なんだもん。ねぇ。みーちゃん、また一緒に桜みようね。」

「あぁ、そうだな。散る前にまた、来るか」


月が仄暗く照らす夜道の少し先に
仲睦まじく歩く2人の姿を目に留める。
桜をキラキラとした視線でふり仰ぐ真っ白な髪をした人物とその人を愛おしげに見つめる赤みがかった髪の背の高い人の姿を目にして一対の雛人形のようだと思った。


「みーちゃん、これからもずーっと一緒にいてくれる?」

「当たり前だろ。」

赤みがかった髪の人が背の低い真っ白な人の髪を優しく撫でる。


桜降りゆく道の真ん中で
穏やかに朗らかに笑いあう姿に口元がほんの少しだけ緩むのがわかった。

「少しだけ……羨ましい気がするのは何でかな。」

いや、分かってる。
それは、多分、きっと____あの2人が言うような当たり前はありえないから。道は1つしかないからだ。
こんな気持ちなるのは。


「桜のせいなのかな。いつから嫌いになったんだっけ。」



散っては落ちてを繰り返す、桜を見上げる。


昔は、好きだったのに。大好きだったのに。


いつから、桜を嫌いになったんだろう。


いつから、花は嫌いになったのか。



「もう、思い出せない。」

サァッと強い風に攫われた花びらが
舞うのを感じていたら、いつのまにかあの綺麗な一対の雛人形は消え去っていた。


足を寮へと運ぼうとした時。
目の前に唐突に荒谷新は現れた。


「校長先生との話、終わったのか?」

「何で、ソレ」

「あの先生が。教えてくれた。」

「それで、何か用事?」

「佐藤。_____花は、好きか?」

「別に。とゆうか、何でそんな質問をするわけ?」

「いや、ただ何となく気になっただけだよ。………変わらず、好きなのか。それとも、違うのか。気になっただけ。」

「……………変わらず、?」

「あ!………いや、アレだよ!俺は、泥棒ネコだっっ。」

「は?」

「いや、うん。俺は………泥棒ネコだよ。」

そんな迷いのない真摯な瞳で『泥棒ネコ』だなんて言われても困る。



1メートルほど空いていた距離を詰められて
自然な動作で手を取られると指先に口づけを落とされる。


「Souviens-toi s'il te plaît。」

「………!な、………にしてっ、」

荒谷に取られている手を引いて背後に隠し
身体も一歩後ずさりながら言葉をこぼす。


「いや、俺。ハーフだからさ。」


ふんわりと微笑むその姿に
目眩がした気がした。
纏まらない思考がぐるぐると回り続ける。


「そんなの聞いてない。とゆうか、答えになってない。」

「あっちでは普通に挨拶だったから。つい、ね。だから、ごめん。許してください。」

「挨拶って、今日、初めてあったわけじゃあない。」

「あ!……そういえば、そうか。んー、でも。俺は今、確信できたよ。だから、この挨拶でいいんだ。」

「………意味がわからない。」

「まぁまぁ。なぁ。………佐藤、俺とさ。」

離した距離を詰められて
真剣な眼差しで見てくる荒谷にいつもとは違う何かを
感じた。


「…………俺と、勝負(ゲーム)しよう。ちゃんと、正式な勝負を。」

「勝負(ゲーム)?」

「そ。俺が勝ったら、そうだな。_____側にいても嫌がらないで。俺をちゃんと見ていて。」



綺麗な翠色の瞳の奥がゆらりゆらりと揺れているのを
見つめながら
その瞳に見つめられながら海のようだと思った。


会った時からずっと、荒谷は真っ直ぐで純粋でどうにも眩しい。
優しく波打つ水面がその瞳に映された気がした。

「……また、ダメ?それとも嫌か?どうしても」

優しい優しいその色に絆されてしまいそうな
気がしてならない。

「いいよ。やろう、勝負(ゲーム)」

「ほんとに?」

「だから。やるよ。」

一瞬、荒谷は驚いたように目を見開いたが直ぐに穏やかに笑った。







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