花は何時でも憂鬱で

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chapter3

1st GAME 【 捨てたもの 】ーII






「佐藤、コレ。」

その建物の中に入ると
荒谷が手渡してきた胴着と竹刀を視線に移し
それを渡してくる荒谷に視線を戻す。



「何で?」

「え?」

「何で、剣道なの。」

「ぁー、そうだな。まぁ、何となく?」

笑顔の裏に微妙に見え隠れする
別の感情が見えた気がして
荒谷の顔をジッと見続けていると
後ろからグイッと腕を引っ張られてよろめく。


「へ?」

「ちょっとー。蒼くん?何度も呼んでるんだけど、無視しないでよ。もう。それで?君の望みは?何なの」

「俺の?」

「そう。僕には、報告してくれないと困るから。」

「それじゃあ_____。」

俺の望みを聞いた瞬間
矢井島は、大きな瞳をもっと丸めた。

「何て言うか、報われないね。」

「何が。」

矢井島の視線は荒谷に向いていて
ふぅと大きくため息をついて
俺に視線を向けると

「流石に、少し同情するよ。ソレ。本当に新くんが分かってるなら尚更ね。」

少し気落ちしたように呟いた。

「それじゃあ、ちゃっちゃっと着替えて。蒼くん。新くんは、そこでもう着替え始めてるよ。」

矢井島が、指を指した方を見れば
荒谷はネクタイをもう外していて
ワイシャツのボタンへと指を動かしているところだった。




そして、手渡された物に視線を戻す。




何年ぶりだろうか
この感覚は、この感触は



ぎゅっと竹刀の柄をにぎる


一度は捨てたのに
捨てたはずなのに、もう1度拾う様な感覚に苛まれる
建物の中も見回して見ると
妙な既視感


「できれば、もう持ちたくなかったなぁ。」



ポツリと溢れる小さな独り言が妙に耳に響いた。




だって
コレを持つと、思い出してしまいそうだから。



『春にぃ!魔法使いみたいだねっ!あやめのお兄ちゃんは、カッコよくて強くて綺麗な自慢のお兄ちゃんだね』


その笑顔も、楽しかった思い出も


『………春にっ、。今日は.………どう、だった?』


自分の不甲斐なさも



その時間自体があやめが苦しんでいた瞬間だった
のだということも



それを知らずに過ごしていたことも



全部、思い出してしまいそうで
記憶の奥底にしまっていたものだった。




それでも、望みが叶うのなら
そんな感情は捨て去ろう。
今、この瞬間だけでいいから。


目を閉じて
握っていた竹刀をぎゅうっと握りしめる。


「この勝負(ゲーム)は、俺が勝つ。もう、あの優しさは要らない。」


そんな綺麗な感情は別の人に、向けられるべき感情だから。



優しく、誠実で綺麗な人に。



俺は


そんな感情を向けられていい人間なんかじゃあないから。





目をスッと開くと
胴着に着替え終わった荒谷が目の前に立っていた。


「準備は万端だ。」

「今、着替える。」

シュルリと音を立ててネクタイを外して
ワイシャツを脱いで胴着を羽織り、下も袴に足を通す。



「矢井島、眼鏡預かってて。」


カチャッと音を立てて外すと
眼鏡を取った世界はいつもより鮮明に見える気がした。


「………ぇ、あ。うん。」

瞳をパチパチと瞬かせる矢井島に
眼鏡を託すと竹刀を握りしめる。


「それじゃあ、始めよう。荒谷」

「______あぁ。」


荒谷の何かに耐えるような
どこかかすれ気味の声の意味も
瞳が揺らめく理由も
俺には、この時、その意味は知らなかった。



「_____あぁ、戻ってきた。」



だから、心から漏れでた聞き取れないほど



小さな言の葉がどれだけの意味をもつのかも



知らなかった。






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