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chapter3
1st GAME 【 捨てたもの 】ーIII
しおりを挟む矢井島がいつのまに用意したのか
白い旗を手に持ち
俺と荒谷を交互に見る。
「準備はいい?この旗をあげれば、試合開始。一本勝負どちらかが竹刀を落としても負け。一本取っても負け。あぁ、そうそう。剣道部から借りられたのは簡易的な胴着だから面はつけてないから頭は反則負けね。いい?」
「あぁ。」
「分かった。」
ぎゅっと胸元で拳を作り
深い呼吸を落とす。
ドクドクと心臓が早鐘を打つのを感じる。
緊張してるのかな。久しぶりだから。
「ダメだ。」
まさか、嬉しいと感じてるのか。
そんな感情は、そんな思いは
決して、持ってはいけない思いだ。
衝動的にぎゅっと胸元を握り
手に固い感触がないことも
チャリッと金属特有の音も耳に入らないことに
不安と落胆を覚えながらも荒谷へと視線を向ける。
これが、終われば探しだしてみせる、絶対に。
さっさと、終わらせて見つけだそう。
白い旗が上がるのを横目にいれながら
「始め!」
その声がよく耳に響くのを感じた。
踏み出したような足音と同じくして
小気味良いカンッという音が
道場の中に響く。響き渡る。
そして
痛い。痺れる。
瞬時に、手が腕が痺れるのを感じながら
竹刀の柄を強く握りなおす。
荒谷との間を取っている間に
素早く打ち込んでくるのが見え
肩横をシュンっと風が切るのを肌で感じながら
何とか一歩、下がる。
荒谷も間を取るように一歩、下がる。
「他の奴は、今ので結構やられるんだけどなぁー」
「俺も叶えたいことがあるから」
「俺もだ。」
ぎゅっと口を引きむすんで
荒谷が答える。
「だから、お前の願いは叶えさせない。」
真っ直ぐ強く、そして、素早く
打ち込み続けてくる剣を何とかかわし
竹刀で受け止め続ける。
_____ポタリ
10分の間も打ち合いを続けて
汗が顎 へと滴り落ちるのを感じる。
汗を手で拭って、もう一度、強く柄を握って
荒谷に視線を向ける。
息、1つ乱さずに
こっちの隙を伺う姿に一瞬、目を見張る。
「もしかして、経験者なの?」
「教えない。」
力強く落ちてくる竹刀を受けながら
その圧に身体のバランスを崩されそうになるのを
足で何とか踏ん張る。
至近距離で視線を交じり合わせながら
「じゃ、あ……質問を変える。何でそこまでこだわってるわけ。こんな勝負(ゲーム)まで……してっ!」
その台詞を荒谷に言いながら竹刀を押し返して
荒谷のお腹のあたりめがけて竹刀を横に切る。
その動きに俊敏に反応した荒谷が
一歩、引いて
ふぅと息をつきながら答える。
「それも、教えない。それは、俺が言うことじゃあないし。それにさ_____どうせなら、お前が見つけてよ。佐藤。」
「嫌だっていったら?」
「言わせない。俺が、勝てばそんなこと言わせないし。言えないからな。」
「……意外と」
「俺は、意外と優しくないかもね。」
くすくすと笑いながら
荒谷は俺の言葉を補うように言った。
未だに余裕の表情を見せる
荒谷に心の中でため息をつく。
剣道を辞めてから何の運動もしてこなかったせいか
妙に、息があがるのを感じる。
荒谷にバレないほど細い息を吐き出す。
もう、1分も防げる自信はない。
それなら____。
真っ向勝負じゃあ、勝算がない。
今度、荒谷が突っ込んできたら、脇に避けて。
予想通り
タンッと床をふみ鳴らす音が耳に聞こえると同時に
荒谷の脇に避けて
直ぐに振り下ろされる竹刀を
一歩踏み込んで、下から体重をのせて払うっ____。
「___っ!」
重心がズレた荒谷が
床に倒れこむ音と竹刀が落ちる音はほぼ同時に道場の中に響いた。
即座にその顔の前に、竹刀の先を向ける。
「俺の………勝ちだ。」
汗が滴り落ちるのを感じながら
荒谷にそう告げた。
その後、直ぐに矢井島から終了の声がかかり
荒谷と俺との勝負(ゲーム)は終わった。
「蒼くん、後は、僕がやっとくから帰っていいよ。」
勝負(ゲーム)が終わって
俺は着替えたが、一向に動こうとしない荒谷を
視界にいれて、黙って頷いた。
道場から外に出ると、夜も深くなり出したらしく
辺りはもう真っ暗だった。
今、なお痺れが続く手をジッと見つめる。
「負けるかと……思った。」
竹刀を払った一瞬、荒谷の瞳に映る強い光を見つけて
手から竹刀は離れた筈なのに、空中で竹刀をもう一度
取られてしまうかと思った。
「もしも、取られていたら……」
何かは、変わったのかもしれない。
けど、勝敗は決した。
何かが、変わることはない。
きっと、ずっと。
何も。
日々は変わらない。
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