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chapter4
オーロ世代の犠牲
「アァ~っ!!やっと帰ってきた!!!」
寮の中へと入るとビシッと指でこちらを指してくる
オーバーオールの鳴川さんが大きな声で声をあげた。
「ちょっとちょっと!!消灯時間すぎてるんだけどっ!!」
腕組みをしてジトッとこっちを見据える
オーバーオールの鳴川さんに、この名の知れぬ人は
軽い調子で答えた。
「すんません。今度から、気をつけるんで後はこの新入生くんが聞くんで、よろしゅう頼みますわ。」
ぽんと肩を叩かれるや否や
頑張りやと言って、ヒラヒラと手を振りながら
さっさとエレベーターに乗り込んでいった。
「うんぬ~。手強い子だな~。っしょうがない。」
全てをのみ込んだかのような深いため息を吐くと
鳴川さんは、親指と中指を丸めると
俺のおでこ目掛けてピシッと所謂、デコピンをした。
「………痛っ。」
「ふははははっ!これに懲りたら、消灯時間後に帰ってくるなんて考えないことだね!」
おでこをさすりながら
そろそろ部屋に戻ろうかと思ったら
鳴川さんに呼び止められた。
「ねぇ?佐藤くん、荒谷新しいくん……じゃなくて。えっと、何だっけな~。えっと~、そう!荒谷新品くんだ!」
「新です。荒谷新。」
「あっ!そうそう、新太くんね。」
「………それで、荒谷がどうしたんですか。」
「僕に、紹介してくれるって言ったじゃん!!もう忘れたの?!」
そういえば、そんなこと言ったような
気がする。
「すいません。他を当たってください。」
「えぇ~。僕楽しみにしてたのにぃっ!!何々、何かあったの?」
「いや、少し……まぁ。」
「ふーん。あ!もしかして、喧嘩でもした?」
「喧嘩するような仲じゃあないです。」
「じゃあ、どんな仲なの?気になるなぁ~。」
「他人ですよ。何の関係もない、他人。」
「他人ねぇ。」
そう呟いた鳴川さんは、ガサゴソとポケットを探って
棒付きキャンディーを差し出す。
「これ、あげるよ。特別にね。貰ってくれないと部屋に返してあげない。」
そのキャンディーを受け取る。
「ほら、繋がった。」
脈絡もない発言に
パチパチと瞳を瞬かせる。
「これで、君とは他人じゃなくなった。僕と君の関係は、飴をくれた人と貰った人だよ。他人じゃない。」
鳴川さんは
誇らしげにふふッと笑い声をこぼす。
「他人から、知り合いへ。知り合いから友達へ。そして、恋しい人へ。最初から、他人から始まらない関係なんてないんだよ。でも、君が他人という関係にしてる。それは、何でかなぁ?」
「別に、特に意味はないですよ。」
「もっと周りをみないと、独りで生きられるなんて傲慢だよ。この学園では、それじゃあ生きられない。どうするのさ、宿題を忘れた時!それにだよ、お腹空いたなーって思って学食に行ったら財布がない!こんな時、友達がいればっおごって貰って後はナァナァに……じゃなくて、お金を借りることだってできるんだよ!どう!友達欲しくなったでしょ!!」
「取り敢えず、鳴川さんとは友人関係にはなりたくないと思いました。」
「ガァーン。そんなぁ~っ。僕に、奢ってよぉ~。」
あからさまに落ち込んで手を床につけて
肩を落としている鳴川さんをどうしようかと思っていたら、寮のドアが開く音がして
振り返ったと同時に、勢いよく何かに抱きしめられる感触がした。
「ふふふっ。驚いてるぅ~。メモしとかないとね。」
昼休みの先生だと認識した瞬間
背中に回った腕に力をいれられて
バランスを崩した身体は大理石の床へと倒れていく。
背中に衝撃は感じたものの
頭にはそれは感じなくて、瞑っていた目を開けると
その先生によって腕が回されていたのが分かった。
「何を」
突然の出来事に回らない頭では
その言葉しか出てこなかった。
「選ばれたんだ。君は」
「え?」
首元に頭を埋められて
スゥッと匂いをかぐような仕草をした後
顔を上げて、片手で上体をおこして
その片手は大理石の床、俺の顔の横につけられる。
「校長からの伝言。『園芸部』の再結成だ。君は、選ばれた、最後の犠牲に。オーロ世代の間違いの犠牲に、春田叶多の代わりに選ばれたんだ。」
「先生…?」
「ごめんね。ごめん。」
「いったい、どういう。」
「君にはあるの_____『悪魔』になる覚悟が。」
苦しげな先生の表情。
鳴川さんから聞こえる詰めたような息遣い。
何を言っているのか意味が分からなかった。
それでも、その先生から流れ落ち
頰に当たった
その一雫の結晶だけが物語っていた
学園を揺るがすその事態を。
俺がその『何か』に選ばれてしまったのだということを。
そして、その何かを絶対に成さねばならぬことを。
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