花は何時でも憂鬱で

青白

文字の大きさ
上 下
65 / 178
chapter4

Haruta Kanata

しおりを挟む




「___ここは?」

白い猫を探して
迷い込んだ場所はおどろおどろしいツタで囲まれた
古びたレンガ造りの建物だった。



無意識に後ずさりをしていくと
花壇に足を取られて、後ろ向きの体勢のまま倒れこみ
後ろ手に花壇に手をつく。



そして、その拍子にチラリと視界に入った
その花壇の不思議な光景に
目を疑った。


花壇の真ん中に
大きな桜がそびえ立っていることに。
くわえて、その大きな桜にたどり着くように
一本の道が作られてることも奇妙だった。


「ここだけ、満開だ」


寮へと帰る道のりにある
桜並木はもう、新緑の葉がつき始めて
そろそろさくらを見ることもできなくなりそうだったのに



新緑の葉、一つ、ついていない



サラリと流れ落ちては舞い散る






その桜が気になって
何かに突き動かされたかのように
そこに足を運ぶ。


目の前まで来ると
人工的な石碑が桜の目の前に置かれている状況に
眉をひそめた。



その少し背の低い石碑に合わせるように
身体をかがめて、刻まれている文字を辿る。




『君に、花を贈ります。いつまでも、花に囲まれ続けたHaruta Kanataに捧げる。』


「まさか、なんでこんな所に……墓が。」


信じがたい出来事に目を背けたくなるが
石碑の前に置かれた真新しい花束が
より一層、それを強調する。



深呼吸を一つ落とし
『Haruta  Kanata』の文字をなぞり


その人の名前を繰り返す。


あの先生が苦しげに呟いた名前



「貴方は、誰ですか。何者なんですか。」



学園に来てから
いやと言うほど聞かされ続けた名前。




でも、この学園の別の場所で聞いたことがあった気がする。この学園で最初に聞いたのはいつだったか。



そんな考えを巡らせていると
上から、あぶなぁーいっ!と言う声とともに
何かがこちら目掛けて降ってきていた。


「……いっ!」

固い何かが頭にぶつかって、鈍い音をたてて
地面に落ちたそれを拾い上げる。


「本……?」

『学園王子と秘密の契約』と書かれた題名を
痛む頭をさすりながら目を通すと
木の上からするするするっと降りてきた人が
俺の持っていた本を奪い取る。


「み、み、み、み、たぁぁぁ?!!」


片手で本を大事そうに抱えて
もう片方は、頭を抱え込み
絶叫するように叫んでいなくなった。


「いったい、何なんだ。それに、あの本」


題名からして少女漫画だと思ったけど
そうじゃあないらしい。
だって、表紙に描かれていた絵が
所謂、美形の男が後ろからもう一人のどちらかというと可愛い系の男を抱きしめるという構図だったから。



中学の時も、似たようなものを持っていた同級生に
無理やり読み聞かせさせられた経験からして


「少女漫画じゃあないな。」

と、頭をさすりながら呟いた。


頭が恐らくあの本の角に
当たったせいか未だにじくじくと痛む頭に手を置き続けていると、ふと、思い出す。


「本……。Haruta Kanata」


______春田叶多。


「思い出した。春田叶多は、あのアルバムの………!」


何故か、あの人の写真だけ酷く不鮮明で。
あのアルバムは資料室と校長室にあった。





何故、あんなに擦れた写真になってしまっているのか
そして、何でこんな場所に墓があるのか
それでも、未だにこの人の死を悼むものがいる



けれど、あの先生は酷く苦しそうだった


謎だらけだった。



でも、それより

「あそこに行ったのは指輪をなくした日だった。」




_____ニャオーン


くるりと方向転換をして資料室に向かおうとしたら
猫の鳴き声が聞こえて、足元を見ると
さっきの白い猫がこちらを見上げていた。


そして、もう一声鳴き声をあげると
タッタッタとさっきのレンガ造りの建物の方へと
歩み寄り、こちらを振り向き
尻尾をゆらりと揺らした。



まるで、ついて来いといっているかのように。



指輪を探しにいかないといけないけど
今、この機会を逃せば
その猫は見つからない気がして
その後を追いかけた。



俺は『何か』に選ばれた。
だから、この学園について知らなければいけないのだろう


オーロ世代とは何なのか。



春田叶多とは一体、誰なのかを。



それを紐解くことが
この学園に来た目的を叶える近道のような気がして。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】転生後も愛し愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,377pt お気に入り:861

この愛からは逃げられない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:67

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,935pt お気に入り:2,216

痴漢に触られて

BL / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:376

BL学園で女装して男共に女という選択肢を与えます

BL / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:19

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,870pt お気に入り:312

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:1,125

処理中です...