花は何時でも憂鬱で

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chapter4

地獄を見る3




「そういえばさ、この食堂の別名知ってる?」


運ばれてきた食事を口の中でモグモグと器用に食べながら
矢井島から投げかけられた質問に、いや、と答える。


「別名_____地獄の門。」

「地獄の門?」

「うん。耳が壊れそうになるっていうのもあるけど、もう1つは。」

矢井島の言葉を遮って開かれた門から
新歓の時の白石先輩ともう2人同学年であろう先輩も
入ってきていたが、それに混じって見覚えのある人物と
目があった。


にっこりと微笑んで、
こちらに寄ってくるその人の格好に驚いて
釘付けになっていたと思う。

「やあ、2週間ぶりかな?」

目の前には、3年間の親代わりとなる佐藤純さんがいた。
何故か、制服を着て。


「驚いちゃって言葉もでないかな?」

クスクスと肩を震わせながら
笑う純さんに文字通り固まってしまっていた。
それは、矢井島も同じなようで
開いた口が塞がらないようだった。


4人がけの大きめの丸テーブルに腰掛けて
対面に座っていた俺と矢井島の間の椅子を引いて座る。


「結構、似合ってるでしょ?昔の引っ張り出してきたんだよ。」

「何でここに。」

「あぁ。伝え忘れてたことがあってね。でも、その前にこの可愛い子はだあれ?」

純さんに
ポンポンと頭を撫でられて覚醒した
矢井島は、いつものように挨拶した。

「えっと、矢井島です。矢井島美音です。あ!はじめまして……」

頰を染めて上目遣いで純さんを見ながら
挨拶する姿は、もはや、わざとなのか素なのかは分からなかった。

「可愛いねぇ。」

「そんなことないです。佐藤さんの方が素敵ですよ。その制服も似合ってて。」

「あはは。お世辞でも嬉しいな。」

そんな柔和な雰囲気を壊す
ガシャンッと何かが割れる音がした。


その音の元に視線を移動させると
白石先輩が派手に転んでいる姿が見えた。
そして、一緒にはいってきた先輩が出していた足を
引っ込めたのも。


近くの生徒の噂話が聞こえた。


「まただ、あの先輩たち。生徒会補佐の白石先輩が気に入らなくて。」

「いつもいつもオドオドしてるから。」

「なにも言わないのが悪いんじゃん?」


矢井島が純さんに聞こえないように
ボソッと告げた。

「これが、もう一つの理由。地獄の門って言われる由縁だよ。誰も助けてはくれないからね、見せしめに丁度いいんだよ。人の多い食堂はね。まぁ、今日は全然、人、いないけど。」


地獄の門、確かに。
白石先輩からすれば地獄なのかもしれない。
終わらない地獄の見せしめの場。




_____ふと、平和主義そうな純さんが何も言わないのを見て不思議に思った。


表情を伺ってみるが、特に変わった様子もない。
俺の視線に気づいた純さんと視線があった。


「ん?何かな?」

「いや、何でもないです。」

「僕は何も言わないよ。僕が口を出したってどうにもならない。それに、もうこの学園の人間ではないからね。それに……変わらないと、ね。」

「変わる________いうのはどういう意味ですか?」

脈絡もなく
純さんの言った『変わらないと』の意味を探ろうと
矢井島が純さんに質問を投げかける。

純さんは、それには答えず
ただ、白石先輩を見つめていた。



あぁ、そうか。



今もし助けたとしても________。


「助けたって意味なんかない。今、助けたって何も変わらないから。」



口を突いて出た言葉に      あ     と思ったが
時はすでに遅かったようで
目を丸くした2人がこちらを凝視していた。


「意味がないってどういうこと……?」

「今のあの先輩を助けたとしても何の価値もないって意味だよ。」

失敗したとは思いつつも、矢井島からの問いかけに答える。



価値なんかないんです、白石先輩。



何にも立ち向かわない変わらない貴方には
価値がない。



優しい人間は、こんなことを言わない
だから、やっぱり俺は優しくない。
普通なら、優しさには優しさで返すのだろう。


この時________。



「ほんと、………、だね。」


細められた純さんの瞳が
溶けてしまいそうなほど哀しみと優しさが混ぜ合わさっていたのを俺は知らなかった。





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