83 / 185
chapter5
宝物2
「西方……燐っ。」
詰まらせたような色で乗った要の言葉は
宙に霧散していった。
「覚えてもらってるとは、思わなかったよ。天宮先輩?何年ぶりですかね?」
「何しに来たの」
何時も優しく甘い声色はなりをひそめて純の声は
氷点下のように冷たいものだった。
「怖いよ?純先輩も。僕は、ただ、お誕生日パーティに来たんじゃない。天宮くんの“宝物”の。」
クスクスと笑う燐の笑顔はとても美しく
それでいて、瞳に狂気を隠し持っていた。
「そんな事をして、利益があるとは思えないがな。」
「ひっどいなぁー。そんなに、非道な人間じゃないよ、僕?本当に酷い人間は、全部放り出して逃げる人間じゃないの?できもしないのに、大口だけ叩いていなくなった春田みたいにね?」
「……いなくなった?」
それまで、口を挟まず3人の間で行われる応酬を聞いていた音がポツリと零した言葉に燐が反応する。
「huyuneさんは知らないんですか?春田は、ある冬の日、交通事故で死んだんですよ。本当にいたましい事故でしたね。」
「……死んだんですか。春田さんがっ。」
ショックを隠しきれない音に燐は優しく肩を叩くと
微笑んだ。
「気を落とさないでください、春田もそんな事は望んでいないと思いますよ?それにしても、こんな美人さんと春田がどんな関係だったのかとても興味深いですね」
そっと音へと伸ばされた燐の手は、要によって阻まれた。
ぎりっと音が鳴りそうなほど燐の手首を握る。
「すいません。一度、外に出てきます。」
お辞儀をして外へと出て行った音を見送ると
要と燐は瞳をかち合わせる。
「痛いよ。」
「その手で触ろうとするな。」
「触りませんよ。今は。それに、今日の僕の目的は____」
要を捉えて離さないその真っ黒な瞳が
スッと細められ、要の耳元へと近づく。
「僕の目的は、天宮先輩の“宝物”だって言ったでしょ?」
「あの子には、会わせる気はない」
「違うよ。ここにいない“宝物”の事だよ」
「何を言っているのか、分からないな」
「春栄学園にいる、君の宝物のことだよ。」
「手を離してください。天宮くん。後で問題になります。」
止めに入った純に、要が渋々手を離して
燐は手首をさすっていると
「何をしてるの。」
凛とした声がシンとした会場に響いた。
「雫」
蘭を迎えに行った雫を目に留めてその側に蘭がいないか
目で追う要に近寄った雫が安心させるようにその手を握った。
「迎えに行こうとしたら会場が騒がしいって桃さんに聞いて、戻ってきたの。それで、これはどういう状況なの」
「お久しぶりだね。雫ちゃん」
「えぇ、そうね。西方さん」
「ところで、天宮先輩に聞いたら教えてくれなかったから君に聞いた方が早そうだね。春栄にいる隠し子は一体、どんな子なのかと思ってね。」
要の手を握る指がふるりと震えた。
雫は、バレないように小さく深呼吸をして燐へと視線を向けた。
「隠し子?一体、何のこと?私達の子供は、5歳になる息子と中学生の娘の2人だけよ。」
淡々と何を言っているのか分からないと言うように
感情を出しすぎず、けれど、感情を無くさずに
勤めて自然に声を発した。
「ふぅん。いないんだ。それとも、いないものとして扱ってるの?酷いなぁ、酷い親だ。まぁ、いなかったとしてもいたとしても僕の“宝物”が壊してあげるよ。春田の愛した何もかもを。使い物にならないほど。あぁ、勿論、壊すのは心、ね」
とんとんと胸を指で叩きながら宣った
燐の台詞に要、雫、純の顔が強張った。
「た……からも、の?」
純から発せられた戸惑いの声に燐は極上の笑顔を見せた。
「宝物、僕の息子だよ。」
雫はブルブルと震える指先を何とか隠して微笑んだ。
「そう。でも、私達には関係のないことだわ。貴方に息子がいようがいまいが……関係ないものね。私達には学園に子供なんていませんから」
自分の放った言葉が自分を切り刻んでいくのに
感じながら、雫は燐を見据えた。
「酷い母親だ。……隠したいほど、醜い子なんだろうな。」
(醜い?そんな訳ないじゃない、目に入れても痛くないほど可愛い子。大好きよ………愛してる。それなのに、何もできない自分が憎い)
「さっきから、何を言っているのか分からないな。まぁ、例えいたとしてもお前には壊せないだろう。春田を壊せなかったみたいにな」
「じゃあ、どう転ぶか見てみなよ。遠くで、壊れていく様を、ねぇ?」
燐は、それだけ言い残すと去っていった。
多くのものに不安を残して。
あなたにおすすめの小説
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
灰かぶり君
渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。
お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。
「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」
「……禿げる」
テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに?
※重複投稿作品※
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
平穏な日常の崩壊。
猫宮乾
BL
中学三年生の冬。母の再婚と義父の勧めにより、私立澪標学園を受験する事になった俺。この頃は、そこが俗に言う『王道学園』だとは知らなかった。そんな俺が、鬼の風紀委員長と呼ばれるようになるまでと、その後の軌跡。※王道学園が舞台の、非王道作品です。俺様(風)生徒会長×(本人平凡だと思ってるけど非凡)風紀委員長。▼他サイトで完結済み、転載です。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)