花は何時でも憂鬱で

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chapter5

宝物2

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「西方……燐っ。」

詰まらせたような色で乗った要の言葉は
宙に霧散していった。

「覚えてもらってるとは、思わなかったよ。天宮先輩?何年ぶりですかね?」

「何しに来たの」

何時も優しく甘い声色はなりをひそめて純の声は
氷点下のように冷たいものだった。

「怖いよ?純先輩も。僕は、ただ、お誕生日パーティに来たんじゃない。天宮くんの“宝物”の。」

クスクスと笑う燐の笑顔はとても美しく
それでいて、瞳に狂気を隠し持っていた。

「そんな事をして、利益があるとは思えないがな。」

「ひっどいなぁー。そんなに、非道な人間じゃないよ、僕?本当に酷い人間は、全部放り出して逃げる人間じゃないの?できもしないのに、大口だけ叩いていなくなった春田みたいにね?」

「……いなくなった?」

それまで、口を挟まず3人の間で行われる応酬を聞いていた音がポツリと零した言葉に燐が反応する。

「huyuneさんは知らないんですか?春田は、ある冬の日、交通事故で死んだんですよ。本当にいたましい事故でしたね。」

「……死んだんですか。春田さんがっ。」

ショックを隠しきれない音に燐は優しく肩を叩くと
微笑んだ。

「気を落とさないでください、春田もそんな事は望んでいないと思いますよ?それにしても、こんな美人さんと春田がどんな関係だったのかとても興味深いですね」


そっと音へと伸ばされた燐の手は、要によって阻まれた。
ぎりっと音が鳴りそうなほど燐の手首を握る。

「すいません。一度、外に出てきます。」

お辞儀をして外へと出て行った音を見送ると
要と燐は瞳をかち合わせる。


「痛いよ。」

「その手で触ろうとするな。」

「触りませんよ。今は。それに、今日の僕の目的は____」

要を捉えて離さないその真っ黒な瞳が
スッと細められ、要の耳元へと近づく。


「僕の目的は、天宮先輩の“宝物”だって言ったでしょ?」

「あの子には、会わせる気はない」

「違うよ。ここにいない“宝物”の事だよ」

「何を言っているのか、分からないな」

「春栄学園にいる、君の宝物のことだよ。」

「手を離してください。天宮くん。後で問題になります。」

止めに入った純に、要が渋々手を離して
燐は手首をさすっていると


「何をしてるの。」


凛とした声がシンとした会場に響いた。


「雫」

蘭を迎えに行った雫を目に留めてその側に蘭がいないか
目で追う要に近寄った雫が安心させるようにその手を握った。

「迎えに行こうとしたら会場が騒がしいって桃さんに聞いて、戻ってきたの。それで、これはどういう状況なの」

「お久しぶりだね。雫ちゃん」

「えぇ、そうね。西方さん」

「ところで、天宮先輩に聞いたら教えてくれなかったから君に聞いた方が早そうだね。春栄にいる隠し子は一体、どんな子なのかと思ってね。」

要の手を握る指がふるりと震えた。
雫は、バレないように小さく深呼吸をして燐へと視線を向けた。

「隠し子?一体、何のこと?私達の子供は、5歳になる息子と中学生の娘の2人だけよ。」

淡々と何を言っているのか分からないと言うように
感情を出しすぎず、けれど、感情を無くさずに
勤めて自然に声を発した。


「ふぅん。いないんだ。それとも、いないものとして扱ってるの?酷いなぁ、酷い親だ。まぁ、いなかったとしてもいたとしても僕の“宝物”が壊してあげるよ。春田の愛した何もかもを。使い物にならないほど。あぁ、勿論、壊すのは心、ね」

とんとんと胸を指で叩きながら宣った
燐の台詞に要、雫、純の顔が強張った。

「た……からも、の?」

純から発せられた戸惑いの声に燐は極上の笑顔を見せた。


「宝物、僕の息子だよ。」

雫はブルブルと震える指先を何とか隠して微笑んだ。

「そう。でも、私達には関係のないことだわ。貴方に息子がいようがいまいが……関係ないものね。私達には学園に子供なんていませんから」


自分の放った言葉が自分を切り刻んでいくのに
感じながら、雫は燐を見据えた。

「酷い母親だ。……隠したいほど、醜い子なんだろうな。」


(醜い?そんな訳ないじゃない、目に入れても痛くないほど可愛い子。大好きよ………愛してる。それなのに、何もできない自分が憎い)

「さっきから、何を言っているのか分からないな。まぁ、例えいたとしてもお前には壊せないだろう。春田を壊せなかったみたいにな」

「じゃあ、どう転ぶか見てみなよ。遠くで、壊れていく様を、ねぇ?」


燐は、それだけ言い残すと去っていった。


多くのものに不安を残して。


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