花は何時でも憂鬱で

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番外編

【桜紅と残虐王3】

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直ぐに諦めると思ったその男は
存外しつこかった。


いや、凄くしつこかった。


もうかれこれ、1ヶ月になろうとしていた。




「……おい、今日もお望み通りきてやったぞ」

「アンタ、しつこいわね。それに、悪いけど気分じゃないのよ」

「……問答無用だ。馬鹿」

楽しそうに拳を蹴りを繰り出してくる
その男に呆れながらも応戦した。


あっつい、重い、ぐるぐる回る。


仕方なく相手をするが
今、自分が何をしているのかもあやふやで
短くなる息遣いに
マズイと思った時には
身体の力が抜け、ドサリと地面に倒れ伏した。


地面の冷たさまでも心地いい気がして
眼をつむりそうになったが、勝負をしていた事を思い出して視線をあげる。


「アンタの勝ちでいいわ。私の名前は______」

「これ以上、喋るな。すっごい熱じゃねぇかよ」

「名前を教えてあげるから、教えたらどっかいって」

「静かにしろ」

聞いたことのない声で凄まれて黙ったら
おでこにその男の_____黒河理人の______体温を感じて
何だか心地よくなって目を閉じた。


「病院に、」

遠のく意識の中で、聞こえたその言葉に
その男の袖を握って病院だけは駄目だと伝え続ける。
伝わったかは、分からないけれど。





「……ん?ここは」

「やっと、お目覚めかよ。一晩中、ぐうすか寝やがって」

「ここ、どこ?」

白いベッド、白い壁紙
腕につけられている点滴
サァーッと血の気が引いていく気がした。


「そんな怖い顔すんなよ、ここは病院じゃない。お前が、病院だけはやだって言うから仕方なくここに連れてきてやったんだよ」

「……だったら、ここはどこなの?」

「それは、内緒だ。お前も、名前は教えてくれないしな」

この男の言っている事が、よく分からなくて
ジト目で見続けるとその男は、近くにあった机に肘を置いて頬杖をつくと仕方ないというように言った。

「お前の名前を教えてくれるなら、教えてやらなくもない」

「ねぇ、黒河。これ、保険適用外よね。いくらした?この点滴、今、外せばお金かからないわよね」

自分の腕に刺さっている針を引き抜こうと
点滴液につながるその管を乱暴に掴むと
その男は、焦ってそれとめた。

「バカっ!お前、何やってんだ。熱に加えて。栄養失調だったんだぞ!」

「……だから、何?それが何か問題?」

「………っ俺は、お前に何かあるかなんてきかねぇよ。知りたくもねぇし。けど、今、俺のいうことに従え」


いつも勝気そうだったその瞳が揺れているのに気づいて
その時は、素直に従うことにした。

「それと、これに代金はいらない。払ったら、殴るぞ」

「一発も、なぐられた覚えがないのだけれど?」

「………ほんと、ムカつくな。やっぱり、払わせるか」

「私は、構わないわ」

「そんなに、払いたきゃ。金以外のモンでも構わないぜ」

「………?」

この男の言っている意味がわからなくて
首を傾げていると、その男は耳打ちして答えた。

「金以外っていうなら、決まってんだろ?………身体とかな」

「ふぅん。そういう趣味あったの……?別に、構わないけど?」

何でもないようにそう答えたのに
頭の上に、拳骨を食らわされた。


「いったいわね!!何すんのよ!」

「当たり前のように、言ってんじゃねぇ!馬鹿。………ってあれ?今、俺、お前を殴ったよな!!!」

病院に手を上げて喜ぶとか、完全にやばい奴だとは思ったがあまりに爽やかに笑うもんだから
絆されてやろうと思った。


「そうね。」

「んじゃ、ホラ。名前は?」

「………れん」

「聞こえねぇよ」

「桜崎…………恋。それが、私の名前」

「……恋、ね。覚えとく。あぁ、そういや。俺もちゃんと挨拶してなかったな。知ってるとは思うけど、黒河理人、よろしく。あぁ、因みにここは俺の家な」

「はぁ?!」

これが、黒河理人ことりっちゃんとの
きちんとした会話であり出会いであった。



まさか、これから腐れ縁が続き続けることになろうとは
まだ、知らない。


【END】
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