花は何時でも憂鬱で

青白

文字の大きさ
100 / 178
chapter6

微笑6

しおりを挟む






瞳を伏せて、深く息を吸って吐ききる。
そして、伏せた瞳をあげて荒谷へと視線を向ける。




高鳴り続ける心臓は鳴るたびに張り裂けてしまいそうなのに、頭は至って冷静だった。


俺は、認められない。
春なんて人間は、存在しない。


俺には、『佐藤蒼』が必要だ。
いや、いっそ、その名前以外の自分はもうないようなものだ。


「俺の名前は、春なんて名前じゃない。何かの勘違いだろ」

「好きなものは、金平糖と甘いイチゴ牛乳」

「…………」

「お揃いの猫の人形。誕生日に貰った指輪。…………毎日、捨てられていた花束」

「……、」

最初、その名前が出た時は中学の時の同級生かと思っていた。けれど、何故そこまで知っているんだと言いたいほどの荒谷の言葉に呼応して
胸が苦しくかんじるほど脈を打って頭上でガチャリと音が鳴った。





息が詰まって、うまく呼吸できてるのかも分からなくなってくる。



それでも、幾らかマシなのはきっと
荒谷新という人間が見せる感情の色が燻んで見えるからだ。



今の荒谷から滲む感情は
読み取れはしない。
けれど、その色は敢えていうのなら燻んだ藍色。
お世辞にも綺麗だとは言えない__________色。



「俺がお前に勝負を挑んだのはお前が目的じゃない。俺は俺の心を救いたいんだ。誰かのためなんかじゃないあの時に救えなかったものを俺は……救いたいんだ」

「もう、いい。」


荒谷新がどこの誰で
何を言おうとしているのか全くといっていいほど分からなかったし興味もない。



けれど、もうその瞳に見えるのが
暖かみだけではなくなったから、どうでもよかった。

「俺は、春なんて名前じゃない。けど、もう勝手にしてくれていい」



得体の知れない不気味な感情より
脅しだったり悪意の方が何倍も安堵できる。
だから、もうどうでもいい。




「……矢井島、美音」

段々と苦しくなる息苦しさの中、その名前を告げると荒谷は怪訝な顔をした。

「そこに行けば、わかる」

「お前は、どうするんだ」

「ここにいないと、後から………っ面倒なことになるから。今はっ……」

「………お前、でも様子がおかし、」


荒谷の言葉の続きは、耳を劈く様な機械音で
引き裂かれた。


ピーッと高い機械音がどこからか響いて
その部屋に反響した。

「うわっ!なんだ!?」

荒谷が、上着やズボンのポケットを探って
漸く見つけた音の出所は端末だった。


_______警告、警告


機械的な音は更に大きく鳴り出して
警報音に変わった。


_______直ちに、勝負(ゲーム)の契約(コントラ)を遂行しなければ、即刻、退学とします。1分以内に、対象者から離れて下さい


「荒谷。これは、多分。あの時の勝負の」

「あぁ。みたいだ」

「これは、後で何とかする……からっ。それでいいだろ。何か目的があるんじゃないのか?ここで、退学したらここに来た意味もないと思うけど」

「……でもっ。…………いや、分かった」

荒谷は
何か言いたげそうにしながらも
この警報音は、今はどうしようもないと踏んだのか
この部屋から出ていった。



「………やっと行った」

締め切られた扉の音に目をぎゅっと閉じる。


俺にとって
荒谷新という存在は恐怖を煽る人間でしかなかった。




優しい瞳を映す、人間




向けられるのなら
別の意図を持った視線の方がまだ、マシだと思えるほどに酷く激しい焦燥を与えてくるものだった。



__________好意、心配、慰め、温かさ



もう一度、拾えと言われることは
ただの苦痛でしかない。


手から零れ落ちていったものを
もう一度、拾い上げることは俺にはできない。




「__________だから、嫌いだ」


呼気がうまく入ってこなくて息苦しく
肩で息をしながら辺りを見回す。
この場所がいけない。
この動けない状況がいけない。



「でも、まだ駄目だ」



色々と面倒事が起きているけれど
今は、後だ__________。



そこに、伸びている河井颯斗の件の方をつけなくてはいけないから。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...