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chapter7
影8
しおりを挟む荒谷新side
「ん……」
身体を起こして、はらりと落ちた掛け布団を目にして
無意識に口角がきゅっと上がった。
「口も態度も悪いけど。……こういう所は、変わらないな」
俺が起きたら、追い出そうとでもしてたのか
向かいのソファで、背を預け座ったまま
寝息を立てる春を視界にいれて
物音1つ立てないようにその前に跪く。
「ここで、オルタンシアの血は終わらせなければいけない。呪いの血なんて存在しない。俺が証明する」
春の手をそっと取って、その指先に口付ける。
「……誓うよ、春。あやめ。君達は幸せになれる。例え、その色が名前がこんなに違って苦しめても、君達は似てるんだから。その悲しみの瞳は酷く、似てるんだから」
春とあやめと初めて会ってから
1年が経とうとしていた頃、異変はそこかしこに起き始めていた。
春がいなくなる事が増えたり、メイドや執事の入れ替わりが多くなった。
何より、春があやめを部屋の外に出すのを嫌がり始めた。
原因は、全くと言っていいほど分からなかった。
それでも、別段、気にもしなかった。
そして、たまたま見たのがあの光景だった。
気品のたかそうな女性が、春の頭を撫でながら
何かを話して立ち去って行く光景。
なんて事ない、普通の光景。
でも、ぎゅっと春の胸元を握りこむ癖と震える指先に
俺は確かな異変を感じた。
その春の行動に見覚えがあって、それは、捨てられた花束を見てしまった時に似ていて、その姿を毎日のように見かけていた。
そして、俺が春の元へと駆け寄ろうとした瞬間
白色にも近い色素の薄い薄紫色の髪をした誰かが
春の目の前に現れて何かを話していた。
そのまま、何処かへ連れられていく春の背を見ていることしかできずに、その日は春に会う事はなく過ぎてしまった。
そして、1週間後。
久々にその屋敷のあの部屋へと行くと
いつも、笑っていたあやめの声も春の話し声も聞こえず
そこには____
目を真っ赤に腫らしたあやめの姿があった。
「あやめっ?!……どうしたんだよ。何で、泣いてるの?!……ぁ、春は。……春は何処にっ……。」
嫌な予感がしてあやめに尋ねたけれど
あやめは更に嗚咽を漏らしながら
答えた。
「………、くなった、の。…………消えた、の、っ。もう、………会えないの、っ、。ひっ……ふぇッ。」
「……な、で?」
「わ、かんない。……で、も。もう、ここには……いないって、……。夏野が、ァッ……言ってた、の。」
俺は、立ち尽くしたまま何もする事ができずに
ただ、泣き続けるあやめを見下ろす事しか出来なかった。
「あの時は、何もできなかった。俺は。でも、今は違う。とことん、お節介もお人好しもしてやるから覚悟しとけよ」
春が目を覚まさないように、そっと背中に手を回して
抱き締める。
どれくらいそうしていたのか、ブーっと鳴り響いた
携帯のバイブ音で俺は春から退いて携帯を確認する。
ディスプレイには
『不在着信 106件 未読メール 154件』
と、大量の着信とメールが届いていた。
「………やはり_____。私に、少しの自由も与えてくれはしないか。」
それに返信する事なく、携帯の電源を落とすと俺はもう一度、眠りにつくことにした。
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